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妖怪の妻になってしまった男  作者: 夢想花
妖術
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7.魂の妖術

 次に日、今井は自分の部屋でのんびりしていた。すると、窓からコツコツと音がする。窓に行ってみると、この前、ナキータを襲ってきた男が宙に浮いてこっちを見ていた。ミリーの話ではマドラードとか言う名前でナキータの公然の浮気の相手らしい。

 ナキータの恋人ならナキータの気持ちを無視して今井が勝手に冷たくするのもどうかと思えた。それにうまく対応しないと決闘騒ぎになっても困る。

 今井は扉を開けてテラスに出た、マドラードはテラスに降りてきた。

「ナキータ、記憶がないんだって」

 今井はうなずいた。

「それで、この前は俺を怖がって逃げたんだ、理由がわかってよかったよ」

「マドラード、わたし、何も覚えていないの。だから、あなたは、まるで始めて会う人と同じなの」

 できるだけ傷つけずに断らなければならない。

「あなたとどんな話をしたのか、あなたとどこへいったのか、まったく何も覚えていない、だから今までのようにはいかないの」

 マドラードの目を見つめた。彼は、ナキータの目を避けて下を向いた。

「君の気持ちはわかるよ。封印されたのも大変だったし、記憶がないんじゃ不安だよな」

「ごめんなさい」

 低姿勢でともかく断り通すしかない。

「このまま、ゾージャと所にいるつもりか?」

 今井はうなずいた。

「ゾージャのやつ、とんでもない奴だな。君の記憶がない事をいいことに。君を自分のものにして・・・。君はもうゾージャとは分かれるところだったんだ」

 そうなのかもしれないが、もうしかたがないのだ。

「私、記憶がないから、誰かに頼らざるを得ないの。わかって」

「ゾージャより俺の方がましだと思うがな」

「今、ゾージャの所にいるから、そのままの方がいい」

 これが、最初にマドラードに見つかっていればマドラードの所に住むことになっただろう。

 彼は残念そうだ。

「私たち、これで終わりにしましょう」

 彼の顔を見て、できるだけやさしく言う。

「わかった、身を引くよ。ただ、君はかならずゾージャが嫌いになる、ゾージャの本性がわかったら喧嘩が始まると思うよ。記憶をなくす前の君がしたことと同じ事を君はもう一回する」

 彼はナキータの両肩を持った。

「その時は俺がいることを覚えていてくれ、俺は君のために命をかけられる」

 ナキータはもう死んでいないのだ、彼がナキータを引きずったら気の毒だ。

「私のことは忘れて」

「忘れられるわけないだろう」

「私はいなくなったと思って、封印されて死んだだって」

「ここにいるじゃないか」

 ここにいるのは偽者なんだ。

「もう二度とあなたを好きになることはありえないの、ナキータはいないんだから」

 彼は不思議そうにナキータを見つめる。

 ナキータは彼の手をそっとさわった。

「さようなら」

 彼はナキータをしばらく見ていた。そして決心したのかテラスの端へ歩いていく。

「魂を食べるのはやめろよ」

「わかった、もう食べない」

「君の妖力は他の事に使うんだ」

「他のこと?」

 彼は今にも飛びたちそうだった。

「他のことって、なに?」

 彼はテラスの端に立ったまま振り向いた。

「君の魂の妖力は強力だから武器になる。うまく使えば男と勝負して勝てると思うよ」

「男に勝てる?」

「いつも言ってたじゃないか、女は損だって。でも君は男と同じことができるかもしれない」

 なんの話しかわからないが、でも、ひょとして彼に頼めば魂を扱う妖術を教えてくれるかもしれない。

「ゾージャは魂を扱う妖術を教えてくれないの。教えてくれる?」

「妖術が使えないのか?」

「妖術の使いかたも忘れているの、だから今練習中」

「で、魂を扱う妖術を習いたいのか?」

「もちろん魂を食べるためじゃない。一番得意な妖術なのに使えないのは悔しくて」

 彼は戻ってきた。

「かまわないけど」


 ナキータの部屋で妖術の練習をした。

 マドラードは丁寧に教えてくれた。彼を練習台にして魂を少し吸い出すこともやってみた。吸い出すだけで口の中にはいれない。魂の扱い方が分かってきた。

「君の魂の妖術は桁外れに強力だから武器になる、ヤバい時はこれを使うといい、君のこの妖術を防げる奴はまずいない」

 彼は重要な事を教えてくれた。これを知っていたおかげで今後助かることになった。

「次は、魂を体から体に移す妖術を教えてくれる?」

 いよいよ肝心の妖術を教えてもらえる。

 しかし、マドラードは考えている。

「それは、かなり難しい。十分に魂が扱えるようになってからがいい」

「大丈夫よ」

「危険なんだ、自分の体から魂を出して、うまく相手に入らなかったら、死んでしまう」

 危険なのはわかる。しかし、なんとか教えてもらわなければならない。

「やり方だけでも、教えて」

「それは、今度にしよう」

 彼は教えてくれそうにない、あとちょっとなのに。

「お願い」

 今井は必死にマドラードの目を見つめた。

「魂を扱う練習をする方が先だ」

 絶対に教えてもらわなければならない。こうなったら、どんな犠牲を払ってもいい。

「もし、教えてくれたら・・・」

 今井はちらっとベットを見た。

 ナキータの言った意味が通じなかったのか、マドラードはけげんな顔をしている。

「誰か、体を乗っ取りたい人がいるの?」

 彼の表情は急に冷たくなってきた。ナキータが何を考えているか探っている。

 やりすぎると、今井のことがバレるとまずい。

「わかったわ。じゃあ、今度教えて」

 確かにそうかもしれない。彼が危険と言うなら危険なのだろう。まず魂を扱う妖術の練習が先だ。

「今度、ねずみを持ってきてあげよう。ねずみで練習するといい」

 彼はテラスへ出た。

「今度は俺のうちへ来いよ。そこで練習しよう」

 マドラードを断るつもりが、とんでもないことになってしまった。これでは浮気の続きが始まってしまう。こんなことをするんじゃなかった。後悔してももう遅かった。まあいい、なんとかなるだろう。今井は持ち前の図太さであまり気にしないことにした。


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