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妖怪の妻になってしまった男  作者: 夢想花
妖術
12/13

12.売り飛ばされる

 その日の昼すぎにゴルガの所から使者が来た。

 ナキータの荷物を運ぶと言う。必要最小限の品々しか持っていけないとの説明だ。ミリーが品物を選んでくれている。

 使者の中にマドラードがいた。彼はナキータが人から離れたのを見計らかってやってきた。

「ひどい事になったな」

 今井は黙っていた。

「ゾージャと逃げるのか?」

 ゴルガの使者にそんな事が言えるはずがない、黙っていた。

「ゾージャには逃げる度胸なんかないな。ゴルガの所へ行ってくれと頼まれたんだろう」

 ゾージャを非難して自分を売り込む魂胆だ。今井は彼を避けて歩き出した。しかし、マドラードはついてくる。

「俺と逃げないか。俺はどこへ行ってもやっていける自信がある。君に惨めな生活はさせない」

 今井はいらいらしてきた。

「マドラード、私たちは終わりにしましょうって、この前言ったはずよ」

「君がそこまでゾージャにつくすとは意外だな。君はゾージャに売り飛ばされるんだぞ」

「売り飛ばす?」

「そうか、ゾージャが話してるはずないな。君をゴルガに献上すると500巻の増禄になるんだ」

 これにはさすがの今井もショックだった。

「ゾージャはその増禄を断らなかったの?」

「あいつが断るもんか、大喜びだよ」

 これが本当ならゾージャはとんでもない奴だ。増禄は自分の妻を売るのと同じじゃないか。確かめる必要がある。

 今井はゾージャを探して歩き始めた。マドラードはついてこなかった。


 ゾージャはいたが、ミリーがゾージャを怒鳴っている。

 ゾージャは椅子に座ってうなだれていて、ミリーはゾージャの前に立って金切り声上げてゾージャを罵っていた。

「ミリー、どうしたの?」

「ゾージャ様はやっぱりナキータ様を差し出すそうです。さっきは逃げるとおっしゃっていたのにです」

 ミリーは泣きそうだ。

「ミリー、そういう話になったの」

「なぜですか、絶対にいけません」

「ミリー、仕方のないことなの」

 今井はゾージャを見た。

「ところで、ゾージャ、500巻の増禄になるってほんと?」

 ゾージャは顔を上げない。

「本当なの?」

 彼は力なくうなずく。

「なぜ、断らなかったの?」

 彼は顔を上げた。

「わかった、断る」

 もう遅いだろう、その場で断らなきゃ意味がない。

「ナキータ様を渡して、ご自分は増禄になるんですか」

 ミリーが金切り声を上げた。

 ミリーはゾージャを罵倒し始めた。

 ゾージャを罵倒するのはミリーに任せて、今井は一人になれる部屋を探した。

 ゾージャは何を考えているのだろう、それほどナキータを愛していたわけじゃなかったのか、それとも単純に物事がわからないだけなのかもしれない。

 もし、これが本物のナキータだったらどう考えただろうか、もちろんマドラードと逃げるだろうな。

 ゾージャのために気を使って損をした気分だ。

 あしたゴルガの所へいく、ちょうどいい潮時かもしれない。


 その日は、ばたばたと過ぎた。ゾージャとの最後の日なのにほとんど話さなかった。

 夕食が終わるとゾージャは自分の部屋に戻って行ったが、今井はやはり気になった。お世話になったお礼が言いたかった。

 ゾージャの部屋に行った。

「ゾージャ、入っていい」

 ゾージャは本を読んでいた。ナキータは彼の横にすわった。

「ゾージャ、私は記憶を失ってから後のことしか知らないんだけど、ゾージャにはいろいろ教えてもらって、感謝しています」

 ゾージャは色々してくれた。ゾージャに悔いが残らないようにしてあげたかった。

「ナキータ、すまなかった。禄をもらったのは間違いだった」

「もう、そんなことはいいわ」

「禄なんか欲しくなかったんだ。ただ禄をやると言われた時、断りにくかったんだ」

「わかるわ、もう気にしなくていいよ。まったく何とも思っていない」

「俺はバカだよな」

「今日はゾージャと最後の日よ」

 計画がうまく行けば、もうゾージャと会うことはないだろう。

「記憶を失って、始めてここに連れてこられた時は怖かったわ」

「君はガチガチだった」

「始めて宙に浮けた時はうれしかったわ」

「あの時は楽しかった」

「鬼ごっこしたね」

 ゾージャの目に涙が浮かんだ。

「君を失いたくない」

 ゾージャが悪いわけじゃない、ただゴルガに逆らえないだけなのだ。

「これは運命なの、しかたのないことだわ」

「ナキータ」

 彼はナキータを抱きしめた。

 ナキータはゾージャが納得がいくまで抱かれていた。

「ゾージャ、私はゾージャだけのものよ」

 ゾージャは抱いた手にぐっと力を入れた、息ができないくらい強く抱きしめられた。

「私は、未来永劫ゾージャだけのものよ」

 しばらくナキータを抱きしめていたが、彼は手を離した。

「ゾージャ、愛してる」

 ナキータはゾージャにキスをした。

 二人だけの時をすごした。永遠とも思える時間が流れた。

 ナキータは最後にもう一度キスをした。

「もう、会うことはないと思うわ」

 ナキータは立ち上がった。そして部屋を出るため扉を開けた。

「あしたは慌しいから、ゆっくり話せないと思う、だから今言っとくね。

・・・・・さようなら」

 扉を閉めるとゾージャの部屋を後にした。

 ゾージャ世話になった・・・・これが俺からのプレゼントだ。


 次の日。今井はミリーに晴れ着を着せてもらった。

 ゴルガの所から輿が迎えにきていた。

 時間になるとミリーと玄関に向かった。玄関の外のテラスには大勢のゴルガの家臣が立っている、その中を輿に向かって進む、輿の前にはゾージャがいた。

「さようなら」

 ナキータは靜かに言った。

「すまん、許してくれ」

「ゾージャのせいじゃないわ、運命なの」

 ナキータは輿に載った。屋根がある輿で、すだれからゾージャが見えた。

「出発」

 責任者が号令を出した。

 輿がすうと飛び上がった。ゾージャが小さくなっていく。


 ゴルガの屋敷ではナキータの部屋だという所へ通された。

 ここは、屋敷は大きいが、建物がたくさん建っているので、窓からは隣の建物しか見えない。景色としては最低だ。部屋の大きさ豪華さはゾージャの家と比べ物にならない。

 部屋数も多く、侍女も数人いた。

 しかし、部屋には結界が張ってあった。監禁するつもりだ。

 監禁されると困る。ここを抜け出して自分の体の所へ行けなくなる。しかし、逃げるとミリーがゴルガに追われることになる。

 しかたない、ちょっと危険だが正々堂々と出て行くことにした。ゴルガに戦いを挑むのだ。法力が使えるから多分勝てるだろう。妖怪は法力には勝てないはずだ。ゴルガを倒してここを出て行く。もし負けてもゴルガの女になればいいだけだ。

 ゴルガがすぐにくるとのことで、椅子に座って待っていた。

 部屋の端に衝立に隠れるようにして、鎖で繋がれたみすぼらしい服装の男女が数人立っていた。なんでナキータの部屋に繋いであるんだろう、ここは牢獄と兼用になっているのだろうか。


 しばらく待っているとゴルガがやってきた。家臣が数人ついて来ていた。

 彼はゆったりした着物を着ていて、太った体を隠している。

「ナキータ、よくきたな」

 ゴルガは、にたりと笑うと椅子にどかっと座った。

「ゾージャと引き離して悪かった。さぞ、怒っておるであろうな」

「もちろんです」

 今井は立ったまま、ゴルガを睨みつけていた。

「まあ、座れ」

「いえ、こののままで結構です」

 彼はナキータを眺めている。

「わしは、お前のような女が大好きだ。かわいくて、頭がよくて、気が強い、しかも強いときている・・・」

「私は、あなたの女になるつもりはありません」

 今井はゴルガの言葉を遮った。

「お前が簡単にわしの女になどなるはずがないと思っとるよ」

 彼はナキータの体を上から下までゆっくりと見ている。

「だがな、お前をなんとしても手にいれるーーー。考えてみろ、わしの所にいればなんでも思いのままじゃ。たとえば、魂の練習用に何人でも準備するぞ」

 ゴルガは部屋の隅で鎖に繋いである男女を見た。

「こいつらは練習に使っていい。死んでしまったら、また次を準備する。ねずみより生きた妖怪の方が練習になるぞ」

 ゴルガは恐ろしい奴だ、人の命をなんと思っているんだろう。たぶん、マドラードから聞いてそれで準備していたのだろう。

「部屋も、もっといい部屋を準備しよう、ここは景色が見えん。着物も欲しいだけ買っていい」

 それでナキータのご機嫌を取っているつもりか。

「それでも、私を結界で閉じ込めておくんですね」

 ゴルガは口を開けたまま、しばらくだまった。

「そうか、まあ、お前が逃げると困るでなーー。お前が逃げないと約束するなら、結界は外す」

 いよいよゴルガに挑戦する。

「もっと簡単に私を手に入れる方法があります」

「ほう」

 ゴルガは身を乗り出した。

「私と勝負をしてください。私と戦って、あなたが勝ったら、あなたの女になります。従順にお仕えいたします。しかし、もし、私が勝ったら、私を自由にしてください。私はここを出ていきます」

 ゴルガはにやっとわらった。

「おもしろい。お前はたいした女だ。その条件受けた」

 ゴルガは立ち上がった。

「このわしと戦って勝てると思っている所がかわいい」

 今井はミリーを見た彼女は後ろにいる。ゴルガの攻撃をミリーの分まで防ぐのは無理だ。

「ミリー、横に避けていなさい」


 ナキータは身構えた。しばらく緊張が続いた。ゴルガは先に手を出すつもりはないらしい。

 今井から動いた。彼は精神を集中して法力の糸を送り出す。ゴルガが妖力を撃ってきた。妖力の盾で防ぐが、吹っ飛ばされた。しかし、転がりながらでも法力は緩めない、糸をぐいぐい締め上げた。ゴルガが動かなくなった。体を屈めて耐えている。

 今井はどんどん糸を送り出して締め上げた。ゴルガはその場に倒れた。

 簡単に勝負はついた。妖怪は法力にはかなわないのだ。

 ナキータは立ち上がると、ゆっくりとゴルガに向かって歩いた。

「ゴルガ、もう終わりか」

 家臣がぼうぜんとナキータをみている。

 ゴルガにとてもかなわないと思わせなければならない。

「ふん、口ほどにもない。私が欲しいのだろう。もっとがんばったらどうだ」

 ゴルガの横に立った。

「たわいのない。それで、この私が欲しいなどと」

 今井はゴルガを縛っていた法力を解いた。ゴルガは体を起こし咳き込みながらナキータを見上げた。

「ゴルガ様、わたしの勝ちです。約束どおりここを出ていきます。よろしいですね」

 ゴルガはぼうぜんとナキータを見上げている。

 ナキータはミリーを見た。

「ミリー、ついて来なさい」

 ゴルガが倒れたので結界は消えていた。ナキータは開いていた窓から外へ飛び出した。ミリーも後に続いた。



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