七百年の旅路 ロマンとディアの物語
世界は滅亡して滅茶苦茶になった。
人類は死に絶え、生き残ったものは二人しかいない。
不老不死になった魔法使いの男性ロマンと、その弟子である少女のディア。
二人は他の人のいないシェルターで暮らしながら、とある魔法の研究を続け、それを成功させた。
人類を救うために、やり直すチャンスができた。
魔法使いロマンが、時をさかのぼる方法を作り出したからだ。
「さすがですロマン君。世界の理を変えるような発明、素晴らしいですっ」
「はーっはっはっは、もっと褒めるがいい。吾輩は天才! 吾輩は優秀! 吾輩は大魔法使い! わーっはっは!」
喜びにむせび、ひとしきりそうして騒いだ彼らは二人は、彼等以外使うもののいないシェルターで、時をさかのぼる魔法を使うための準備を進める。
魔法陣に触媒、エネルギー。
必要なものは全て揃った。
しかし、魔法の効果を受けられるのは一人だけ。
どちらが時をさかのぼるかで、じゃんけんぽんをした結果、ディアが過去に戻る事がきまった。
「決まってしまったならば仕方あるまい! 我が弟子ディアよ、人の未来を頼んだぞ!」
「ディアは全面的にロマン君を信用してますけど、人類の未来の行く末をじゃんけんで決めてしまうのは、さすがにどうかと思いますよ?」
「なに、私のこの魔法は完璧であるため、何度でもループできる。強い意思があれば誰でも良いのだ。ならじゃんけんで決めてもよかろう」
「むぅ、ディアには「世界を救った偉人伝 ー時をさかのぼるロマンー」を執筆して世に広めるという壮大な予定があったのですが、計画を見直さなければならないようですね」
「なんと顔から火が出る思いをするところだったぞ! 吾輩のファインプレーであるな!」
そういった流れで多少しっくりこない事がありつつも、ディアは魔法の力によって過去に飛ぶことが決まった。
二人で準備した魔法陣の上にたって、ロマンが魔法を使うと、その陣が光を放つ。
景色全てが光で塗りつぶされた時、ディアは過去の時代にいた。
「ロマン君が開発してくれた魔法の効果は完璧のようですっ。ではではさっそく、巫女になりますとしましょうっ!」
世界が終わる前に戻った少女は、巫女という仕事に就く事を決めた。
眠りの巫女と呼ばれるものになり、人類を守るための役割につくと。
「見守っていてくださいねロマン君。完璧に、慎重に! そして大魔法使いの弟子として立派に! 世界を守りとげてみせますっ!」
その世界の巫女の役割は、世界で起こる災害から、人々を守る事。
これから七百年の間、火山の噴火や疫病の発生なので人類は絶滅に追いやられる。
その際、人々を安全な場所で暮らしていけるように結界を貼るのが、ディアの役目だった。
しかし本来の世界では、巫女は役目を果たせず、シェルターが建設される事になった。
そのシェルターに逃げ込むはずの人々も、何かの原因によって駆け込めず、ディアだけが生存したというわけだった。
過去の世界にさかのぼったディアは修行をこなし、立派な巫女になっていく。
ライバルと切磋琢磨し、時に高め合い、時に蹴落としながら。
「すべてはロマン君に褒めてもらうため! ディアは心を鬼にして歯向かうライバルたちは容赦なく蹴落とします」
巫女の仕事は世界中の人々から尊敬される名誉あるもの。
ライバルは多く、敵対する者達の行動も過激だった。
だが、ディアはそれらを全て蹴散らす
「これくらいの事、魔法の修業をしている時のロマン君のちょっかいとくらべれば可愛い物です。ロマン君は寂しがり屋ですから、朝もお昼も夜も一秒ごとにいたずらっ子になりますからね!」
眠らず食べずのロマンは、人類を超越した大魔法使いであり、不老不死でもあった。
そのため、そういった無茶な事ができたのだ。
そんなこんなで成績一番の巫女になったディアは、無事に眠りの巫女に選出された。
選ばれたディアは、結界を貼って、七百年の眠りにつき、人々を守る。
はずだった。
けれど順調にいっていたはずのディアの計画は、失敗する。
百年ほど眠っていたディアは途中で起こされた。
自分が身を横たえてた施設「ゆりかご」にて。
ディアは、ゆりかごの職員から、巫女たちが殺害されている事件を知って、自分も命を狙われていると言う。
ディアを保護していた職員たちが拠点を移すといって、彼女は移動する予定だった。
しかし、その前に立ちはだかる男がいた。
それは、過去の時代のロマンが邪魔をしてきたからだ。
「ロマン君、一体どうして。未来でのあなたは、世界を、人々を守ろうとしていたのに」
デイアはロマンに殺害され、再び巫女としての修業をやり直す事になる。
世界を救うためにディアは、再びループしてロマンの事を探る。
ロマンは素晴らしい大魔法使いだった。
しかしそのせいで、彼を貶めたり、利用しよとする者達が多くいた。
そのせいで、ロマンの心は傷つき、彼は世界というものに絶望してしまったのだった。
原因を突きとめた少女は、ロマンを説得する。
ディアは彼の隠れ家を突き止めて、ロマンを止めようとした。
「どうかあなたが計画していることをやめてください。この世界で必死に生きようとしている方々にチャンスを与えてはいただけませんか?」
「礼儀もなく訪問していきなり何を言うのだ」
ディアは自らを眠りの巫女だと告げて、ロマンの傷に寄り添う。
「とても辛い思いをされたと思います。でもそんな過去ばかりを見ていては、輝かしい未来を失ってしまいますよ。ディアはロマン君がすごい魔法使いになることを知っているんですから」
そして、自分が未来からループしてきた事を告げた。
「俺が人類を救うために? そんなバカなことあってたまるか」
「ディアはロマン君が未来の世界で何を見て、何を考えてきたのかは知りません、でもとても優しい人だってことぐらいはしっています。だって、あの世界で唯一生き残った幼子のディアを一人前に育て上げてくれたのはロマン君ですから」
しかし、ロマンにとって「未来の自分」とは到底理解できないものだった。
交渉は決裂して、ロマンはディアを何度も殺害した。
だが、ディアはあきらめる事なく、ロマンの前に立ちふさがり続けた。
ロマンの計画を阻止し、百年ごとに自分が殺害される日を伸ばしていく。
ロマンのせいで起きた火山の噴火や大気汚染、食糧危機、戦、疫病の発生などに指示をして、対処しながらも。
ディアが眠って人々を守っている間、他の者達はディアの指示通りに動き、本来の歴史よりも多くの人々が生き延びていく。
しかしこのままではらちが明かない。
五百年眠った後、そう考えたディアは問題解決に対するアプローチを変える事にした。
巫女としての修業をこなす傍ら、ロマンが残した功績を調べる事にしたのだ。
魔法使いとして頭角を現し始め、名前が広まる前に人に陥れられたロマン。
彼はこれまでに、いくつかの事をしてきた。
土地の恵みが乏しい故郷のために、作物の育成を育てる魔法を開発したり。
貧しい実家の家族のために、洗濯屋の家業が楽になるようにと、水を綺麗にする魔法を開発したり。
同じ道を志す友人の魔法使いのために、誰でも簡単に使える魔法の理論を考えたりしてきた。
しかし、彼らはロマンの意に反した行動をとる。
故郷は他の土地に教える事なくその魔法を独占しようとし、
実家の者達は綺麗にした水を売りさばき、ありもしない奇跡と神の話を広めて詐欺を働き、弱い人々から搾取し、
友人は、理論を自分の物にするべく、ロマンを亡き者にしようとした。
ロマンは彼らの行動でこの世界に絶望してしまったのだ。
だが、それらの行動の裏にはやむおえない事情があった。
彼らは確かの自分達の利益を優先した。
だが、故郷の者達は大規模な飢饉で追いつめられ、飢えを二度と味わいたくないと思い、
実家の者達は、難病の家族のために多額の資金を得ようとしていた。
友人は、政略結婚させられそうな想い人のために、早急に手柄を立てる必要があった。
彼らは後に後悔し、それぞれの方法で贖罪を果たした。
故郷のものたちは、とある戦で生き残ったディアという幼子に、一人分の最後の食料を分け与え。
実家の者達は、幸運に手に入ったシェルターに入れる権利を、その幼子にあけわたし。
友人は、その幼子が生きていけるようにコールドスリープの魔法をかけた。
彼らはロマンに贖罪をするために、偶然コンタクトを取る事ができた悪神と取引をして、五百年の時を生きながらえたが、戦の余波に巻き込まれて死亡してしまう。
ロマンの実家の者達は、詐欺の一環として行っていた儀式が、実際に別次元の神を呼び起こして、自分達を生きながらせる事になるとは思ってもいなかっただろう。
彼らのやった事は悪い事かもしれない。
だが、誰かが誰かを愛し、大事にしたが故の行動で、それぞれの方法で贖罪を果たそうとしたのだ。
未来のロマンはその出来事をいつの頃か知ったのだろう。
だから、世界に絶望することをやめたのだ。
でも、遠い未来でなくてもいい事だ。
「ーー世界に絶望するなんて、早すぎますよ。ロマン君。この世界には素敵なものがいっぱいあるんですから」
真実を知ったロマンは涙を流し、復讐の道を止めた。
彼らが紡いだ贖罪の連鎖が、未来の自分の孤独を救ったと知ったからだった。
ディアは、この時代なら誰にも言わないだろうロマンの心を、言い当てる。
「ロマン君は、故郷のグリーズさんの畑のお野菜を無断でむ住み食いして、怒られなかった事を気にしていましたよね」
ロマンの心は揺れ動く。
「それにご親戚の、パトリシアお姉さんは重い病にかかっているのに、毎日無理をしながら一緒に遊んでくださいましたから、申し訳なく思っていましたよね」
彼の心模様を写すように、瞳の光が迷子になる。
感情の揺らぎを写し取ったかのように。
「ご友人のエイル様には、高所恐怖症だと知らずにどっきりをして、怒られた事がありますよね。ロマン君は皆にごめんなさいをしたくて、また会いたくて私をこの時代に送りこんだんですよ。ご自分では、じゃんけんで偶然決まったとおっしゃってましたけど」
今はまだ、勘違いの謝罪でなくてもいい。
過去に起こったそんな些細な出来事の謝罪でもいいから、ある気出してほしい。
そう思ってディアは言葉を告げ終わった。
「少しずつ変わっていきましょう。ロマン君」
ロマンは差し伸べられた手に触れる。
ディアの言葉は届いたのだろう。
魔法使いに蹂躙されるはずだった世界の未来はなくなり、ディアが育った世界もなくなった。
ディアは未来の世界の住人であるため、その世界が消滅したならば、この世界には存在できなくなる。
彼女の姿は少しずつ消えてなくなっていった。
「さようならロマン君。もしも、気が向いたらでいいのですが、この世界のディアにも知り合っていただけると嬉しいです」
何度もループしたディアの時の旅路は七百年感。
彼女の長い旅路の物語は、その瞬間に幕を下ろした。
破滅の未来がなくなり、巫女が必要になる世界もなくなった。
各地で起こっていた天変地異はなくなり、ロマンはこれからは贖罪のために生きる事を決めたのだった。
各地を旅して、魔法で困った人を手助けしていく。
その旅の途中で、一人の少女と知り合う。
「おにいさんはどうしてディアに優しくしてくれるんですか?」
「それは吾輩に、この世界も捨てたもんじゃないとお嬢さんに教えてもらったからだよ」




