ダンス!ダンス!ダンス!
田舎の中学2年生の様子を、フィクションを交えて書いています。
私は、小さな谷あいの町にある中学校の2年生。
二年生の三学期、体育の最初の単元は「ダンス!」だった。
私は運動音痴なうえに極度のあがり症で、誰かに見られていると思うだけで緊張してしまう。そんな私にとって、人前でダンスを披露するなんて、まっぴらごめんだ。三学期の体育が始まるのが、少し憂鬱だった。
体育のN先生は授業の最初に言った。
「恥ずかしがらずに、楽しく踊ってください。そして見ている人は、誰かのダンスが変だと思っても、冷やかしたり笑ったりしないこと。いいですね?」
そんなことを言われたって、おかしいものはおかしい。私はきっと笑いものにされてしまうだろう。頭の上から鉛の塊が落ちてきたように、気持ちがズーンと沈んだ。
班分けが決まり、私はT君と同じ班になった。
T君とは同じ小学校出身で、よく知っている。背が高くて少しカッコよく、優しくて、勉強はそこそこだけど運動は抜群にできる。さぞ女子にモテるかと思いきや、そうでもない。彼には致命的(?)な欠点があるのだ。
それは「とてもひょうきん」だということ。
いつもおかしなことを言って笑わせてくれるし、行動はもっとぶっ飛んでいて、女子からは呆れられるタイプだ。
「お前、喋らなければモテるのに!」と男子に言われても、
T君は「うるせえ!このひょうきんなのが俺なんだよ!」と笑い飛ばす。女子にモテようなんて気はさらさらないらしい。
T君は班のみんなに「よろしく〜!俺、ダンス好きなんだ」と調子よく挨拶していた。
授業は、人気音楽グループのTETSUYAさん監修のDVDを観ながら進められた。
「ステップ」「ランニングマン」「アームスイング」「ジャンプ」など、実際の曲に合わせて基本動作を学んでいく。
さすが運動神経のいいT君だ。私が足をもつらせて転んでしまうのに、彼は一つ一つの動作を軽々と習得していく。
後半は班ごとに動きを創作する時間だった。T君は次々とアイデアを出し、私たちはそれに引っ張られるようにしてなんとか形にしていった。私は相変わらずドジョウ掬いのような動きだったが、いつの間にか足を絡ませて転ぶことだけはなくなっていた。(顔は引きつったままだったと思うが…)
授業の終わり、N先生が言った。
「次の授業でダンスの単元は終わりです。というわけで、次回は各班にステージで発表してもらいます」
終業のチャイムが鳴る。
いよいよ、私の無様なドジョウ掬いをみんなの前で晒す日が来るのか…。
頭上の鉛が再び落ちてきた。いっそ仮病で休もうか…。
「いよいよ発表かあ。みんな頑張ろうな!」
私の沈んだ気持ちなど意に介さず、T君はやる気満々だった。休み時間にも廊下で楽しそうに一人で踊っていた。
しかし発表の数日前、T君に悲劇が起きた。
サッカー部の試合で左足を骨折してしまったのだ。今は松葉杖をついて学校に来ている。
あんなに楽しみにしていたのに、落ち込むだろうな…。
発表当日、体育の授業が始まった。
「それでは今日はダンスの発表です。踊る班はステージへ、観る班は前で応援してください。踊る人は緊張すると思いますが、恥ずかしがらずに笑顔で。技術よりも表情も評価します。観ている人は決して笑わず、一緒に踊ってもいいので盛り上げてください」
そしてT君に向かって、
「T君は踊るのは無理そうだから見学してください。学習カードもきちんと書いてあるし、事情も事情だから成績はつけられます」
するとT君は即座に言った。
「先生、俺、椅子に座って踊ってもいいかな?上半身だけでも踊りたいんだ」
先生は私たちに確認した。
「同じ班のみんな、それでいいかな?」
私たちは黙って頷いた。
「よし、じゃあT君は椅子に座って、無理しないように演技してください」
発表が始まった。
私たちは2番目。最初の班は緊張してぎこちなく、表情も硬い。先生にあれだけ言われていたのに、クスクス笑う男子もいる。
次は私たちか…。
頭上の鉛はさらに重くなった。
最初の班が終わり、私たちの番。
T君は松葉杖を置き、パイプ椅子を持ってひょいひょいと片足でステージに上がり、真ん中に座った。
「はい、CD始め!」
音楽が流れ、私の心臓もバクバクと跳ね始めた。
最初は頭上での大きな手拍子。私は引きつった顔のまま、T君の斜め後ろで手拍子を始めた。
するとT君は、CDより大きな声で
「は〜カーテンコール!」
と調子外れに歌いながら、上半身だけで前後左右に大きく揺れ、いつもより大げさな手拍子を始めた。
その姿に観客は大爆笑。
でもT君は気にせず、さらに大げさな動作で踊り続ける。
多分、みんなの視線はT君に釘付けだ。
私から視線が外れていると思うと、頭上の鉛が半分になり、肩が軽くなった。
気づけば観ている人たちは立ち上がり、一緒に踊っていた。
みんな本当に楽しそうだ。
つられて私も、きっと笑顔で踊っていたのだと思う。
気がつくと発表は終わっていた。
会場は拍手の大喝采。
N先生は何も言わず、ただニヤニヤしていた。
盛り上がりのまま全ての班の発表が終わり、ダンスの単元は終了した。
発表が終わった安堵感で、頭上の鉛はどこかへ消えていた。
「みなさんの今日の発表はとてもよかったです。とくに観ている人たちは、よく応援できていました」
そう講評があり、授業は終わった。
体育館を出ようとした私に、N先生が声をかけた。
「今日のお前は、とてもよかったぞ!」
体育で先生に褒められたのは、生まれて初めてだったと思う。
思いがけない言葉に、私は嬉しくて、少し恥ずかしくて、黙って頷いた。
これも、きっとT君のおかげだな…。
先に体育館を出たT君を見ると、松葉杖をつきながら男子たちと大声でふざけ合い、いつもの調子で教室へ戻っていくところだった。




