陸翔とスカート
12月にボーナスが支給されてすぐに給料だったので少し余裕ができた。
そんなに大きい額ではないけど、琥珀に何かしてあげたいな。
テレビを見ながらごろごろしていると桃山さんからLINEが来た。
最初の挨拶をしてから返信はなく、その後も連絡をしていなかった。
「なつめちゃん、教師なんだよね?環から聞いたんだけど」
環は志穂の苗字だ。
「そうだよ。高校教師なんだ」
「え、まじ。すごいね!問題児とかいる?笑」
「いまのところいないかな」
「ブレザー?学ラン?」
「学ランだな、女子はブレザー」
「今って私服の高校もあるらしいよ。営業先の娘さん、めんどくさいから毎日違う色のジャージで行ってるんだって(笑)」
桃山さんは、歳が近いだの生徒との恋愛だのを一切言ってこなかった。
好感すら持てた。
「もう冬休みだよね?」
「冬休み期間はあるけど特別授業とか補修とかで学校行くし、在宅の仕事は少しあるかも」
「せっかくだから直接会って話したいなと思ってさ。俺は営業だから普通に31から4までだよ」
さすが。営業マンは違う。人見知りの私はちょっと抵抗がある。
「ビール好きなんだよね?さくっと飲みに行かない?」
飲みならありかも。しらふよりはマシかもしれない。
「そういえば私のこと知ってる?高校同じだったんだ」
「知ってるよ!環と話してるの見たことあるから。俺のこと知ってる?」
「ごめん私陰キャだったから全然他の人のこと知らないんだ」
既読がついてしばらく経った。
陰キャなんて送らなきゃよかったな。
「えっまじか!俺、高校の時ちょっと太ってたから知られてなくてよかった!笑」
つい口角が上がった。
そのあとすぐに「なつめちゃんの最近の写真見たけど全然変わってなかった!」
ときて、またすぐに「あっ、いい意味だから!」と来た。
「じゃあ桃山さんはいい意味で変わったってことになるんだね!
写真見たけどシュッとしてたから」
「高校の時、1日6食とか食っててさ笑 体動かしても体に追加投資してたから笑」
「6食!?」
営業マンはLINEも上手なんだな…
「てか桃山さんってやめてよ笑 なんか取引先みたいじゃん笑」
「なんで呼んだらいい?」
「うーん、じゃあ陸翔さんって呼んで」
思わず笑った。
「〇〇(呼び捨て)でいいよ」って言わない人初めて出会った(笑)
「陸翔さんはどの辺に住んでるの?」
「まって、まじで陸翔さんって呼ぶの?(笑)普通に嫌なんだけど(笑)」
おもろい。
私のクラスには輩みたいな男子か、隣になっても話しかけてくれさえしない男子しかいなかった。
もし同じクラスだったら話しかけてくれただろうか。
「俺多分なつめさんの家の近くだよ!」
「こっちまでさん付けしないで!(笑)」
琥珀がソファーの下にきた。
「何ニヤニヤしてんの?」
「LINEがおもしろくてさ」
「志穂さんに教えてもらった人?」
「うん。営業マンなんだって」
そこから毎日やりとりするようになった。
数日後、近くのコンビニで琥珀を見かけた。
女の子と2人で肉まんかなにかを食べていた。
「ねえ、今日肉まん一緒に食べてたの彼女?」
琥珀は天ぷらを揚げながら「うん」と言った。
「かわいい子だったじゃん。告られたの?」
「俺が告るわけないじゃん」
天ぷらの油がはねて、琥珀は「あちっ」と言った。
「そっちこそ付き合ったんじゃないの?」
「まだ会ってもいないよ(笑)そういえば、飲みに誘われてるんだけどさ。金曜飲みに行ってきていい?」
「なんで許可制なの?やだって言ったら行かないの?」
「同居人に許可取るの当たり前じゃん。ご飯だって作ってくれてるし」
「同居人ねえ」
キムチの匂いがしたので台所を見ると、豆腐の上にキムチを乗せていた。うまそう。
「じゃあ俺もデート行くとき同居人に聞くね」
あ。ちょっと嫌な言い方してきた。
ヤキモチか?
それとも私がちょっと浮かれてるからなのか?
LINEが楽しくて、つい浮かれている。
私は中2以来付き合った経験はなく、篠田と付き合ったのも、もはやよりを戻したようなものだった。
まともに付き合ったこともないし、高校の時は男子が苦手だったから、元カレ以外の男と2人で飲みに行くのなんてはじめてだ。
何着て行こう。
志穂に相談するか。
「金曜ってことは明後日じゃん!スカート一択」
「持ってない。あんたの彼氏にダサいって言われたので捨てました」
「スカート一着もないなんてありえん。学校でスカート履かないんだ」
「ほとんどパンツだよ。デニムもOKだし。それっぽいのでもいい?」
「スカートにそれっぽさとかあんの?笑」
「ワイドパンツみたいな。ガウチョみたいな」
「いいかも。でも桃山ってスカート好きなはず。もったいないね」
自分で言ったくせに志穂は忘れてる。
久しぶりに会う人の前で自分らしくいられるようにしたい時とか、女の子らしい雰囲気にしたくない時はパーカーにデニムにしてるって。
形から入るタイプだから絶対にスカートは履かないって。
なんかわかる気がして、私はスカートよりもデニムばかり選んできた。ボーイッシュな服を着ると気持ちも女々しくならない気がしていた。自己暗示のようなものだ。
そう言いながら、スカートが好きなんだと知ってついスカートを買ってしまった。
そして金曜を迎えてしまった。
「せんせー今日デートなの?」
特別授業の準備をしていると、バカ三國志が来た。
「どうして男子ってスカートを履いてるとデートだと思うんだろうね」
「え、そんなの普段履かないからじゃん」
森川が言った。
「せんせーいっつも黒のスキニーとかじゃん」
「男子はみんなスカート好きなんだね」
「当たり前じゃないすか。女子の特権なんすから。女子がスカートを履くことによってスカートに可愛さとエロさを感じるんすよ。女の武器っすよね。サラサラストレートロングの女がスカート履いてたらもうやばい」
相澤の熱意(笑)
「そうじゃない男子もいるから一緒にすんなよ」
森川が言ったので「森川はスカート好きじゃないの?」と聞くと森川は、
「スカートが好きかどうかじゃなくて、その人のイメージとかなんじゃない?俺は先生がスキニーとか、なんか広がってるやつ履いてるほうがかわいいって思うし。スカートを履いてるからかわいいとかじゃないじゃん」
と言った。
広がってるやつはワイドパンツのことだろうか。
「もはやスカート好きとか言ってる薄っぺらい男より俺の方が愛が深いよね」
「スカートで愛を推し量られても(笑)」
仕事が終わり、現地集合で到着したのはおしゃれなバーだった。
スカートで正解だったかも。
バーなんて行ったことない。
どうしようなんか緊張してきた。
肩をトントンと叩かれた。
「おまたせ」
陸翔くんはスーツ姿だった。
後から聞くと、休日出勤だったらしい。
「飲み物どれにする?」
「えっと…」
小さいメニューに、見たことない名前が書いてある。
ハワイアンスプリング?
ハワイの春?(笑)
ここは日本なんだから日本の春でいいだろ(笑)
ベルガモットローズ?
柔軟剤かよ(笑)
季節限定ベルガモットローズの香り(笑)
「じゃあベルガモットローズで」
「ベルガモットローズは柑橘系のベースで薔薇の花びらが入ってて綺麗な飲み物だよ」
「綺麗だね」
柔軟剤とか言ってごめん。
でも花びら食いたくねえなあ・・・
花びらより飯がほしい。
琥珀が作ったご飯、今日は食べれないんだな。




