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2年前まで同居してた高校生の担任になってしまった  作者: 冴花


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元カレとの再会

愚痴が止まらない。


「そしたらそいつの親が『先生の字が汚いから読めなかったってうちの子が言ってたんです。字も綺麗に書けない教員に38点つけられても納得いきません!』って言いだしたの。高校生なのに親を使ってきたわけ。だから『同じ授業を受けた川村さんは92点でした』って言ってやったら『いいからまずは習字でも習ったらどうですか。教師なんだから生徒に読める文字を書いてください」って言ってきたわけ。まあ川村さんは「先生、なんて書いてるんですか」っていっつも聞いてきたけどね」


「まあ、英語だったら解読難しいかもね」


「いや私国語担当なんですけど」


「そうかわかった。古今和歌集だったんだね(?)」


「なにをおっしゃっているの?」



志穂とのやりとりに琥珀が笑っているのを見て、志穂と私は顔を見合わせて笑った。



「よし。じゃあ私は帰るかな」


「え、もう帰るの?」


「言ったじゃん。ゆうすけくんと会うって。あーたも連絡しなよ」


「あー、うん」




志穂が来たのは、「私の」元カレの連絡先を「私に」送るためだった。

コンビニで再会したらしくLINE交換してやりとりしていたら私のことを知り、近況を知りたいと言ったらしい。



「あいつ今どうしてるの?」


「高校で野球部になったらしい。彼女いない歴2年。好きなタイプは石〇さとみ。顔は鈴〇良平と坂〇健太郎を足して2で割ったのち醤油、砂糖、みりんを加え、うっかり沸騰させちゃったような顔」


「どす黒い」


「あんた、好きなタイプとかないの?私はー」



志穂は琥珀に抱き着くように腕を回した。



「琥珀くん!くっそどタイプ!10年後私がまだ生きてたら付き合おっか!」


「彼氏がいなかったら、とかじゃないんだ」



琥珀は少し笑いながら言った。



「その可愛さをみてるだけで酒が飲める!あーた、好きな子いないの?」


「いる」



いるんだ。



「は!?何ちゃん?同じクラス?」


「うん。あやって人」


「どこが好きなの?」


「あんたに似てる」



琥珀は私を見て言った。

志穂が笑う。



「すっかりなついちゃって~」


「寒いときジャンバーのチャック閉めてくれる。アスパラと肉交換してくれる」


「いやそれ母さんじゃん(爆笑)むしろ祖母(爆笑)」


「あと車道歩いてくれる」


「え、まって、あや「くん」説ある?そっち路線?」


「もういいよ、琥珀」



志穂が帰った後、携帯を見た。

志穂が送ってくれた連絡先には「篠田智弘しのだともひろ」と書いてある。

琥珀に好きな人ができたなら、私にも連絡できるはず。

なんて送ろうかと手が止まっていると、琥珀が近くに来た。



「そいつといつ付き合ってたの?」


「中学の時」


「なんで別れたの?」


「普通、なんで付き合ったの?から聞かない?」


「なんで付き合ったの?」


「友達にくっつけられたから」


「何で別れたの?」


「いやはえーな。振られたから」


「なんで?」


「今日めっちゃ質問してくれるじゃん」



職業のせいなのか嬉しくなり、ビールを一気に飲み干した。



「周りに『お似合いだよ』って言われてくっつけられたの。勝手に周りが盛り上がって期待してるのを裏切れなくて、この人を好きだって思いこんでたんだろうね。今思えば」



琥珀はつまみを食べながら「ふうん」と言った。



「キスされそうになって、嫌だと思って拒んだんだけど自分から振る勇気はなかったの」


「なんで嫌だったの?」


「なんか嫌だったの。経験もないし、必要性も感じなくて」




小学生相手にする話ではないかもしれない。




「だから少し距離を取ってたら、相手から振られた。向こうも同じだったのかもね」


「付き合うって、友達と違うの?」


「全然違うよ。小学生ならねえ、一緒に帰ったり、一緒に遊んだり、勉強したりとかかな」



琥珀は黙ってココアを飲んだ。



「琥珀も彼女ができて、私も彼氏ができたらさ、一緒に恋バナしようよ」







そしてそれは現実となる。

三か月後、近況を聞いた志穂はすぐに家にやってきた。



「まじで篠田とより戻したんかー」


「よりというか、うんまあ」




篠田は、ずっと未練があったらしい。

特に断る理由もなく、「おためしでいいから」とか「嫌になったら言ってくれていいから」とか言われているうちにOKの返事をした。




「で。琥珀くんには女がいるわけね。チッ」


「言い方」


「で、篠田とはいつ会うの?」


「今日うちに遊びに来るよ」


「え、私帰らないよ?ダブルデートしよ、琥珀くん」


「ビール冷やしてるから飲んで行きな」


「琥珀くん、私を彼女にしよう、ね?年上嫌?」



琥珀はくすっと笑った。


数分後、篠田が来た。



「よっ篠田。さみーから早くドア閉めろ」


「いやお前もいるんかーい!え、この子は?お前の子?」


「棗の子」


「え、棗バツイチ子持ちなの?」


「預かってるの。琥珀は私の友達だから」


「こえー(笑)変なことしてない?」


「変なことって何さ。てかジャンバー濡れてんじゃん。風呂場で乾かしな。あったかい飲み物でいい?座んな。いや、ソファーに座んな。足痛いから」


「え、母さんなの?」



篠田は座ると、向かいに座っている琥珀に話しかけた。



「キミ、見ない顔だが名前は?」



RPGの村人みたいな言い方やめろ。



「こはく」


「こはく!?すげえキラキラネームじゃん!」



琥珀は石の名前だよ。バカか。というと、篠田は「サーセン」と言った。



「え、いつも棗と何してんの?」


「一緒にご飯食べたり、寝たり」


「寝っ・・・?」



志穂が篠田の頭を叩いた。



「俺らって未成年と住んでいいの?もしヤッたら未成年なんとかになるよね」



なんでそういうことしか考えられないんだろう。

私が何も言わずにいると、篠田が「ごめん」と切り出した。



「俺妬いてるだけだから。一緒に住んでんのうらやましい」


「正直でよろしい」


「いや、妬くもなにも、小学生だからさ。篠田、ズボンのすそ濡れてない?」


「脱ぐから乾かしてくれる?パンツもいい?」



篠田はまた志穂に叩かれた。



「なつめ」



琥珀が立ち上がって私のところに来た。

名前で呼ばれたのははじめてだ。



「ココア飲みたい」


「えー私のことも志穂って呼んで」


「ちょっと少年。俺の女を呼び捨てにするんじゃない。お姉ちゃんと呼びなさい」



琥珀が振り向いて篠田のことを見た。



「俺はあんたのこと知らないんだけど。勝手にうちの人のこと呼び捨てにしないでくれない」



志穂が「特大ヤキモチじゃん、可愛すぎるんだが」と言った。




「志穂、もう酔ってんの?」


「うっせー篠田!お前じゃなくて琥珀くんに呼ばれてえんだよ!てか酒飲めよ!」


「俺弱いからあんまり飲めないんだよ」



その後篠田はしっかりビールを飲み、3本飲んだ結果泥酔した。

地べたに座り、猫のぬいぐるみの顎を撫でながらずっとしゃべっている。



「中学のときってさあ、俺らって若かったよねえ~」


「え、うん未成年だからね、そうだね」


「今ってさあ~・・・・おとなじゃん???だはっ!!(笑)」


「めんどくせ。だる。こいつ。ねえ棗何やってんの?早くつまみだして」


「今きゅうりのたたきとか作ってるけど」


「ちげーよこいつをつまみだせって・・・デュフ、待って、グフッ、くそおもろい!!ははは!!」


「笑い方」


「おい、つまみだせ!ンググフッ(笑)」



私がため息をつくと琥珀が「?」という顔をしていたので、「志穂は、篠田を家からつまみだせって言ったのに、私はおつまみを出せって言われたと思って、それが酒の力で2億倍面白くなってるんだよ」と説明した。琥珀は2人の様子を見ながら少し笑っていた。


2人はすっかり絵にかいたような酔っ払いになり、琥珀に絡み始めた。



「こはっくんは、彼女いんの?」


「ばっ、おめーその話すんなよ!!わーかれろ!わーかれろ!」


「かのじょいる」


「まっじで!?生意気~!かわいいの?」


「うん」


「よかったじゃ~ん!俺ら友達になろうよ!」


「彼女いるって知って急に距離詰めんじゃないよまったく」



志穂がビールを飲み干した。



「ま、あんたはこれから琥珀くんに勝てるかどうかで悩むでしょうよ」


「は?こはっくんにはまけないから!」


「もう帰るよ篠田」


「おれは、彼氏だから泊まってく!!!おとなだから!!!」


「しっ!ちょっと声でけえよ。棗、こいつのジャンバーちょうだい」


「2人ともジャンバージャンバーって(笑)棗、俺のアウター取って」


「ちゃすー運転代行ですー」



タクシーに乗ろうとした篠田が私のところに来て、キスをしてきた。



「やっとできた。じゃ、来週のデート忘れないでね」


「ちょっと篠田、伏線回収みたいなこといいから早く乗って!!!」



酒クズクソバカ2人がいなくなり、一気に静かになった。

琥珀ににらまれた。



「え、何でにらんで」


「あんたも一緒だな」


「え、なにが」


「別にいいから俺は。今までも一人でやってきたし」




母と離婚した実父を思い出した。実父のことは大好きだった。

離婚理由は母親に好きな人ができたからだった。

実父が出ていくことになった日、私は声が枯れ、咳き込んで嗚咽が出るほど泣いた。

頭を撫でてくれた実父も泣いていて、必ず迎えにいくから一緒に暮らそうと言ってくれた。

だがその1年後に再婚して子供が生まれたと、友人づてに聞いた母親が言っていた。

それを機に、毎月くれていた手紙がぱったり来なくなった。

毎日「ただいま」「おかえり」と言い合っていた人はもういない。


人間にとって、約束なんてものは小さなものでちょっとしたきっかけですぐに忘れる生き物なのだと、どんなに大切にしてくれていてもすぐに忘れてしまうのだと感じた瞬間だった。

私の味方も、親も、誰もいなくなったのだと思った。

やり場のない怒りと悔しさと絶望感で辛かったあの時を、今も思い出すと同じ熱意の感情が湧いてくる。



琥珀は私がいなくなったら嫌だと思ってくれるだろうか。

両親とは違うと分かってくれる日が来るだろうか。

琥珀の頭を撫でた。撫でている私の気持ちが落ち着いた。



「いなくならないから大丈夫」


「別にいなくなれとか言ってないけど」


「うん。私がずっと一緒にいたいと思っても、大人になったらあんたきっと彼女と遊んでばっかで家に帰ってこなくなるよ」


「俺は帰ってくるよ。だからなつめもちゃんと帰ってきてね」


「うん」



かわいくて胸がきゅんとしたのでおもいっきり琥珀を抱きしめた。

この子を守りたい。大切にしたい。ここにきてよかったと思ってほしい。

あの頃の私みたいな、辛い思いはさせたくない。



琥珀は「今日も一緒に寝よう」と言った。

落ち着くまで一緒にテレビを見て、一緒にベッドに入った。

その日は2人ともすぐに寝てしまった。




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