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2年前まで同居してた高校生の担任になってしまった  作者: 冴花


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13/23

罪滅ぼし

もう一つの新しいベッドが届いたことは、LINEで琥珀に伝えた。



「お互い恋人もいるし、年齢的にも一緒に寝るのは少し問題だと思うから」



と送ったが既読無視された。

新しいほうで寝ていいと伝えたのに、琥珀は今まで寝ていたベッドで寝ていた。

その日から別々に寝るようになった。

琥珀からのLINEはほとんどなく、家にいない日は増えていった。


なんだか遠い存在になった気分だ。



琥珀が家にいない時間帯があることを知ってから時折陸翔くんが来るようになった。

注文したもう一つのベッドが届いたが、琥珀と一緒にいる空間に彼氏を入れるのはちょっと抵抗があったので日帰りの日だけだ。

それ以外は陸翔くんの家で泊まる日が増えた。




最近、陸翔くんは残業が増えた。

来る時間が遅いことが多くなり、その日も来たのは21時だった。

ご飯を作り、弁当を作っているとインターホンが鳴り、陸翔くんが息を切らして入ってきた。



「お待たせ」と言い、食卓を見て「おお、うまそう」と言い、手を洗って席に着いた。



ビールを2本開けると、陸翔くんが「え」と言った。



「え、何?」


「ビール飲むの・・・?」


「え、うん」


「・・・そうなんだ・・・。え、しかも2本開けたの?俺今日車だよ」


「あ、そうだった。開けちゃった。2本飲むからいいや」


「・・・いや、俺飲む。代行で帰る」


「え、でも」


「いいから」




機嫌悪くなってしまった。

ビールを飲むとうっかり寝てしまう日が増えてから、一緒に飲むときにいい顔をしなくなった。

すぐに寝てしまう代わりに夜中に目が覚めることが増え、寝てしまった後は帰ってしまっていたり、陸翔くんの家だった場合は真っ暗な居間で目が覚めると一人だったりした。


わかっているのに起きていられない。

それなら飲まなければいい。

でも飲まないとうまくエンジンがかからない。

お酒を飲まないと最近どうも不安になってしまう。


本当にアル中になってしまったのだろうか。

でも、酔っぱらわないと気分が良くならない。

何も頑張れる気がしない。

そんなにたくさん飲まなくたっていい。


ただ、やる気が欲しいだけだ。







茶碗洗いを終えると、陸翔くんが持ってきたDVDを入れた。



「何観るの?」


「ワイル〇スピードだよ」


「おー」



私が言うと、陸翔くんが嬉しそうに笑った。



「続き観たいって言ってたから借りてきた」


「ありがとう」





実は、アクションには興味がない。

洋画でもコメディかSFかミュージカル系しか観ない。

正直、興味がないせいでおもしろいとも思っていない。

それでも勧めてくれたからにはしっかり見なければ。



「ねえ、何で主人公追われてるんだっけ」


「・・・」



陸翔くんは何も言わず、ため息をついた。

私が全然話を覚えていないからだろう。また機嫌が悪くなってしまった。


無言が続き、内容もわからないまま映画が流れていく。











固いものが落ちる音と、食器が割れた音で目が覚めた。

やばい。また寝てしまった。


物音の正体は、陸翔くんがリモコンをテーブルめがけて投げた音だった。

リモコンと、リモコンに当たった食器が床に落ちている。



陸翔くんは荷物をまとめていた。

割れた食器には目もくれず、バッグを背負う。



「えっ帰るの?待って、代行呼んだ?」




陸翔くんは無言で出ようとした。

とっさに腕を引っ張る。



「待って、話そう」


「何を?映画の感想?寝てたのにわかるの?(笑)」



陸翔くんは鼻で笑うと手を振りほどいた。




「まだ代行呼んでないよ」


「いやいい。そんなに飲んでないし」



とっさにテーブルを見るとビールは2本開いている。



「待って、車で帰らないよね?」


「お前に関係ねえだろ。離せ。もうお前みたいなアル中とは付き合いたくないから別れるわ」


「待って話そう?てか車で帰るつもり?やめて!」




腕を振りほどこうとされるのをなんとか必死にしがみついていると、陸翔くんが私の腕をつかみ、横にひねった。

バキッという小さな音がして、肘あたりに痛みが走る。


とっさに手を離すと、陸翔くんは一瞬私の様子を見たが、すぐに靴を履いた。




耳鳴りがする。うまく状況を飲み込めない。

陸翔くんがずっと私を罵倒していている間、祝福してくれた志穂の顔と、父親が出ていった時のことを思い出していた。




何を間違ったんだろう。

もし寝てしまったりしなければこんなことにならなかったのだろうか。

ビールを飲まなければよかったのだろうか。



涙が出てくる。



全部自分が悪い。

自分の心臓の音が聞こえる。

不安だ。この状況をどうにかしなきゃ死んでしまいそうだ。

1人になりたくない。こんな別れ方したくない。

まだ付き合ってばかりなのに。

紹介してくれた志穂になんて言う?

自分が酒を飲んで寝てしまうせいで怒らせたって?

志穂にアル中だって報告されたらどうしよう。

落ち着かなきゃ。



「ごめんね。別れたくない。せっかく私のこと好きだって言ってくれたのにごめん」





陸翔くんは無言でそのまま玄関に座った。

思いとどまってくれたのかな。

一回テレビを消そう。

あ、割れた食器を片付けなきゃ。

いや、まず居間に戻ってもらわなきゃ。




「一回話そう」




腕をつかもうとして、痛みが走り、とっさに引っ込めて反対の手で腕をつかんだ。

陸翔くんは振り向くと黙って靴を脱ぎ、私に軽く腕をつかまれたまま中に入り、椅子に座る。





食器を片付けようとすると、「危ないから触るな」と言って陸翔くんがこっちに来た。

顔を見ると泣いていた。




「ごめん・・・」



陸翔くんは泣きながら私の腕をさすり、崩れ落ちた。



あの時泣きながら出ていった父親を思い出す。

出ていきたかったわけじゃないのに追い出されてしまった父親。


悪いのは母だ。


だから、悪いのは私。

父親を恨むも何も、あの時ついていけばよかっただけだ。

そうしていたらあの時両親を恨むこともなかった。

弟にも会わず、弟に対する嫉妬心も生まれることはなかった。

もっと違う人生だったかもしれない。


私の感情が消えたわけじゃなかったんだ。

現実から目をそらしただけだったんだ。

何も自分の気持ちにけりをつけていなかっただけで、本当はずっと後悔していた。



もう後悔したくない。

傷つきたくない。


好きだと言ってくれた人をがっかりさせたくない。

こんな悲しい気持ちになりたくない。


自分を犠牲にしなければならないことだってあるんだよね。

過去と向き合わないと先には進めない。

また同じことで振り出しに戻るだけだ。




「私は大丈夫。まだ付き合ったばかりなんだから、もう少し一緒に頑張りたい」




陸翔くんはうつむいたまま、



「手を出したから別れるしかない」



と言った。



「違う。怒らせた私が悪いんだよ」


「でもケガさせた」



肘を見ているので、とっさに動かした。ひねったときに痛みが走る。

でも曲げ伸ばしは痛くないから問題ない。



「大丈夫。骨折とかしてないから」


「でもこの先また同じことがあるかもしれない」


「ないよ。もうない。大丈夫」


「じゃあ、棗ちゃんもビールやめてくれる?」


「・・・」


「ほら。無理なんだよ。でも俺はもう許せなくなると思う」


「わかった。やめる。やめるから。お願い」


「・・・考えておく」





陸翔くんは帰って行った。


車はなくなっていた。




その日、琥珀は帰ってこなかった。

なんだか寂しくて余計に涙が出てきた。







数日後、紙袋を持った陸翔くんが現れた。

久しぶりに琥珀とご飯を食べようとしているときだった。



「えっ」



インターホンのモニターに陸翔くんが映っているのを確認し、あわてて玄関を開けると陸翔くんが紙袋をつきだした。



「はい」



開けるように促され、中にはきれいな食器が入っていた。

知ってる高級ブランドの食器だった。



「もしかしてこないだ割れた時の・・・」


「ごめん」



陸翔くんが私を抱きしめる。



「今週約束してた日さ、焼肉食べに行こう。もう予約したから。ケガのお詫びもあるし」




別れないってことだ。どうしよう泣きそう。

思いとどまってくれたんだ。


よかった。




「じゃあ、連絡するから」




陸翔くんは車で帰って行った。


飲酒運転したこと、ちゃんと本人から聞こうと思ったけど言えなかった。



でもいい。次は絶対に同じことはないんだから。




食器を出して台所に置くと、ビールを取りに来た琥珀が食器を見た。



「それ、もらったの?」



ビールを空けて手渡してくれた。



「ありがとう。うん。こないだ割れちゃって」


「なくなってたから知ってる。あいつが割ったんでしょ?」


「いや、違うよ」


「じゃあ何で謝ったの?」


「うっかり割っちゃってごめんねって」


「じゃああいつが割ったってことだよね」


「いや・・・」


「何で嘘ついたの?ケガのお詫びって何?」


「その時ケガしちゃって」



琥珀はまっすぐ私の目を見ている。



「どこのケガ?原因は?」


「いや、切り傷程度だしもう治ったから」




琥珀は目をそらした。




「焼肉って言ってたよね。土日でしょ?俺いないから」





見透かされたかと思った。ばれたのかと思った。


動機がとまらない。



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