新しい彼氏
バーで2杯飲んだあとは個室の鉄板焼きだった。
緊張してうまく全然話せなかった。
「いやー腹減ったね、なつめちゃん」
初手がバーだったから食べてきたんだと思ってた。違うんだ。
「ここの鉄板焼きは取引先に教えてもらったんだけど、エビがめちゃくちゃうまいんだ。さっき行ったバーもそうだけど、なつめちゃんのイメージだなと思ってここにしたんだ」
さっきのおしゃれなバーといい、鉄板焼きの店もおしゃれだった。
うれしい。
一連のメニューが決まっているらしく、
最初はカルパッチョみたいなサラダが出てきて、その後におしゃれな焼き野菜、ガーリックシュリンプみたいなやつ、ステーキ、炊き込みご飯の順番だった。
「なつめちゃんは普段、お酒は何飲むの?」
「ビールがすきなんだ」
「えっ意外!ビール飲みなよ」
緊張してるせいか、ビールを水のように飲んでしまう。
でもここ、飲み放題とかじゃないよね?
どうしよう。
「結構飲むんだね」
「陸翔くんは普段何飲むの?」
「俺モヒートが好きでさ。がっつりしたもの食ってモヒート流し込むのがめっちゃ好き」
飲み物もおしゃれだ。
「休みの前の日とかに映画見ながら罪深いもの食ってモヒート飲むと幸せ感じる」
「めちゃくちゃおしゃれだね」
「そうかな?なつめちゃん映画とか見る?」
「最後に観たのズートピアかも」
「ははっ。めっちゃ前じゃん。おもしろいの紹介したい。ジャンルは…ディズニー?」
「ジャンルはなんでも観るんだけど、去年一緒に住んでる子と家で観たのが最後でさ」
「えっ、誰?女?男?」
「預かってる男の子」
「えっ、何歳・・・?」
「今中2なんだ」
「そうなんだ・・・大変だね」
「いや、毎日ご飯とか作ってもらってるし、めっちゃしっかりしててさ。むしろ私が育ててもらってる感あるかもしれない(笑)」
「俺も料理結構作るよ」
「そうなんだ。パエリアとかジェノベーゼとか?」
「なんだそのイメージ(笑)俺はね、洋画見る時はクラッカーに生ハムとかチーズ乗せて食べるくせに、ジブリ観る時は唐揚げとかハムエッグとか」
「ははっ。映画の雰囲気と合ってるね」
「ジブリってご飯めっちゃうまそうじゃん」
陸翔くんとはやっぱり話が弾んだ。
こんなに他人と喋ったのは森川以来かもしれない。
ごちそうになってしまった。
店を出ると、段差につまずいた。
履き慣れないヒールと、酔っているせいだ。
「わっ大丈夫?」
「大丈夫、びっくりした」
「送るよ」
「え、いや、いいよ。結構遅くなっちゃったし。琥珀に迎えに来てもらうからさ。えーっと、琥珀琥珀・・・」
琥珀ーWikipedia
ポーランドは琥珀の生産において圧倒的な世界一を誇り、世界の琥珀産業の・・・
私の携帯を見て、陸翔くんが笑った。
「ふっ・・・(笑)なんでネット検索してんの(笑)送る送る。ほら」
陸翔くんが私の手を引いて手をつないだ。
飲み過ぎたみたいだ。緊張はしなくなったけど頭がふわふわする。
「めちゃくちゃ楽しかった」
「うん。送ってくれてありがとう。ごちそうさま」
「あのさ、嫌じゃなければ俺と付き合ってほしい」
こんな急展開、あっていいのか。
「えっいや、でもまだ」
「1回しか会ってないのはわかってる。でも高校の時からかわいいなって思ってた」
高校の時からだったなんて。嬉しすぎる。
でもまだこっち初見なんだよな。
え、てか私でいいのかな。
普通の人ならどうするの・・・?
「だめかな、嫌だ?」
「いや、だめじゃない、いやじゃない・・・」
「じゃあ・・・俺は彼氏ってことで」
嬉しそうに笑って、陸翔くんは手を振った。
話し声が聞こえていたのかたまたまなのか、琥珀が家から出てきた。
「おかえり」
「あ、琥珀~ただいま~」
琥珀が陸翔くんに気が付いてぺこっと頭を下げると、陸翔くんが笑った。
「そんな怖い顔しないでよ(笑)なつめちゃんのこと頼むね」
「送ってくれてどうも」
「水飲ませてあげてね」
「もう用意してあるから」
「ちょっと琥珀、何その言い方」
「いいって。じゃあねなつめちゃん」
陸翔くんは手を振りながら帰って行った。
琥珀に支えてもらって家に入る。
「大丈夫?」
「ちょっと飲み過ぎた。ちょっと気持ち悪い」
「これ飲みな」
「ありがとう」
「そんな酔ってんの久しぶりだね。楽しかったの?」
「楽しかった。すごい話し上手だった。なんかおしゃれなバーに行って、柔軟剤みたいな名前のお酒飲んだ。さっきまでお腹空いてたけど今は空いてない」
「よかったね」
「付き合おうって言われて、付き合うことになっちゃった」
「あいつと付き合ったの?」
「高校の時から私のこと好きだったんだって」
「なつめはそいつのこと好きじゃないみたいじゃん」
「好きになれる気がする。ってか多分好き?だと思う」
「そうなんだ」
「嫌いな人とは付き合わないよ(笑)」
「浮かれてんね」
「会った初日に付き合っちゃった~」
「はいはい。もう寝るよ。着替えな」
琥珀がパジャマを持ってきて着替えを手伝ってくれて、寝室まで引っ張って行ってくれた。
次の日になって、昨日陸翔くんから連絡が来ていたのに気が付いた。
1時。寝るの遅いんだな。
「今度この店に行きたいんだけどどうかな」
ソファー2人席で、窓に向かって配置されている。またおしゃれな店だ。
お風呂に入らずに寝たのを思い出し、急いで入った後に返信した。
「おはよう~おしゃれな店だね!何着ていこう」
「おはよ!昨日みたいにスカートとかでいいと思うよ」
やべ。1着しかない。捨てなきゃよかった。
いや、あのスカートはダサいからダメなのか。
追いLINEがきた。
「昨日は具合悪くならなかった?」
「大丈夫。酔っぱらい過ぎて着替えもままならなくて(笑)いろいろ助けてもらって寝たよ」
「手伝ってもらったってこと?」
「ちょっとね」
「それはダメだよね」
ん?
「別に裸見られたりしたわけじゃないよ」
「そういうことではない。あんなでかいと思ってないし」
「中2だよ。あれ、言ったよね・・・?」
「てか酔ったら誰でもそうなるってこと?」
あー、そっか。琥珀に手伝ってもらったっていうのがダメだったんだ。
誰の前でもそういう感じになるって思われたってことか。
「お互い何も思ってないというか、歳も離れてるしさ」
「弟じゃないんだからさ。気をつけてほしい。彼氏だから普通に嫌だし」
あー。そうか。ミスった。
ほしいのは弁解じゃないよね。
不安を解消しなきゃ。
「ごめん、気をつける」
「琥珀くんには彼女いないの?」
「今はいないはず」
「そうなんだ。誤解されやすいから琥珀くんも気をつけたほうがいいよね」
そうか。たしかに私たちの関係って普通じゃないかも。
彼氏ができたら琥珀との関係も一線引かなきゃいけないよね。
とりあえず、ベッドをもう一つ買おう。
それから、着替えを手伝ってもらうのもやめよう。
あとは、お揃いもやめたほうがいいのかも。
ごめんね琥珀。
「いつかは出てくんだよね?」
「いや、まあいつかは・・・」
「俺の知り合い高校生で一人暮らししてるよ」
いや、中学生だし。
このやりとりはどこへ向かうのか。
「とりあえず気をつけるね」
昼になっても既読はつかなかった。




