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2年前まで同居してた高校生の担任になってしまった  作者: 冴花


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小6男子を預かることになった

主人公と、出会った男の子、その他の出てくる人物に感情移入しながら丁寧に書きたいと思っています。

お付き合いいただけると幸いです。




3年前、弟が死んだ。


弟は再婚した母と新しい父との子どもだった。


弟は過保護に大切に育てられ、小遣いすらもらえない私とは対照的だった。

ほしいものは何でも買ってもらえたし、どこへ出かけても送迎までしてもらっていた。


そんな弟に嫉妬の感情しかなく、弟には冷たく接していた記憶しかない。

弟が泣けば私が怒鳴られ、叩かれているうちに弟とはほとんど口を利かなくなった。



だからもちろん、涙は出なかった。


ただ、弟が死んだことで両親が毎日泣いて過ごし、喧嘩が絶えなくなった空間にいることがただただ苦痛で仕方がなかった。

もし死んだのが私だったら、この人たちはどうすごしていたのだろう。





共働きだった両親がほとんど仕事に行かずに家にいるのを見かねて私は家を出た。

貧乏なわけでもなかったし、自分たちの好きなように過ごせばいい。

もちろん引き止められもせず、何も聞かれなかったので黙って家を出た。

引越のトラックが来ても何も言われなかった。






料理、掃除を含めたすべての家事から解放されたのはもちろん、引っ越してから親友がしょちゅう遊びにくるようになったのは少し嬉しかった。





なつめ、酒をよこせ」



今日も来た親友の志穂はすでに酔っていたが、缶ビールを2本開けて自分も飲んだ。




「タクシー呼んだからね」


「まだだめだよ!くだらない話より有意義な話しようよ。ねえ、教員生活はどう??」


「どうもこうも別に」


「もー、白雪先生、ちゃんとやってんのか?まさかいつもみたく死んだ魚みたいな目で授業やってないよね?」



白雪、は大嫌いな私の苗字だ。母の再婚相手の男の苗字だから。

そういえば、生徒には最近珍しい名前の子が多い。



「一番前にいる女の子の名前『ボアちゃん』なんだ。目が合ったら脳内でクリスマスソングが流れる」


「え?!やば!!絶対その親うちら世代じゃん」


「ね。あと男の子で『遊戯くん』がいる」


「じゃあ青眼白龍ブルーアイズホワイトドラゴンとかいる?(笑)黒魔術子ブラックマジシャンガールとか(笑)」


「帰れ」





志穂を見送ってから家に入ろうとして、近所の公園を見るとベンチに横たわっている人がいた。

ビールを持ってすぐにベンチに向かったが、やっぱりそうだった。



琥珀こはくくん」



秋月琥珀あきづきこはくくんとは今年この公園で出会った男の子だ。

引っ越した初日に琥珀くんと出会ったのが友達になったきっかけだった。



琥珀くんは目を開けたまま仰向けに寝ていて、私に気が付くと起き上がった。



「今日ごはん食べにくるよね」




琥珀くんは綺麗な茶色い瞳で私の目を見て、うなずいた。

普段から口数は少ない子だ。





はじめて出会った数か月前は傷だらけの姿で現れ、長時間ベンチに座っていた。

引越記念と、20歳になった自分のお祝いにビールを買って飲んでいた日だ。

あまりにも長時間ずっと座っているのでいたたまれない気持ちになり、衝動に駆られて絆創膏を渡した。


その次の日の夜もビールを飲んでいると現れて、大きな葉に入れた木苺を食べていた。

私に気づくとぺこっと頭を下げたので、お腹が空いているのだと思い、酒のつまみにしていたスナック菓子を渡すと綺麗な目で私を見た。

本当に綺麗な目で、子犬みたいにきゅるきゅるしていて、数秒見つめてしまうくらいだった。

その日はストックで買った、残り10袋を全部渡して帰った。



それから公園で会うとお菓子を食べたり、買ってきたおにぎりを一緒に食べたりしていた。

ケガをしていることが多く、気にはなっていた。



そんなある日、ビールを飲んでいると琥珀くんが現れた。

琥珀くんは私に気づかず、よろよろとベンチに向かい寝転がるとがたがたと震えていた。

季節は冬から春になりかけていたが、薄手の長袖の服一枚で震えていた。




「大丈夫?」



声をかけると、琥珀くんが目を開けて私を見たが、またぐったりと目をつぶった。

隣の少し空いているスペースに座り、琥珀くんを見る。

手の甲に紫の痣ができており、めくれた服から見えた腹部にも痣があるのが見えた。


出会った時から傷が絶えない。

喧嘩をする年齢とは思えない。


もしかして虐待されているのではないだろうか。



そっとコートをかけた。酔っているせいか、自分は思ったよりも寒くない。

マフラーをたたみ、頭の下にひいた。




「勝手なことしてごめんね」


「・・・ありがとう」



はじめて声を聞いた。



「痛そうだね」


「・・・うん」


「私、親に手をあげられたことが何回もあるの」


「・・・」


「もしかして、琥珀くんもそうなの・・・?」



琥珀くんはうなずいた。




「辛いよね」


「・・・うん」




なんだか涙が出てきた。酒を飲み過ぎたのだろうか。


喉がしゃくりあげる。



「ごめん。泣くことじゃないのに。泣きたいのはそっちだよね。気にしないでね」



琥珀くんを見ると、琥珀くんも静かに泣いていた。


私たちは二人でただ泣いて時間を過ごした。






この日以降、毎日のように一緒に持ってきたものを食べたり、少しずつ会話をするようになった。

志穂が来ても、帰った後に公園にいくと必ずいた。




ただ話を聞いてくれる琥珀くんに、私は信じられないくらい自分の身の上話をしてきた。

弟が死んだことも、私の闇深い部分を知っているのは親友の志穂と琥珀くんだけだ。


琥珀くんも自分の話をたまにしてくれた。

名前を聞くと教えてくれた。死んだ弟と同じ12歳だと知った。

母親に虐待されていると言い、一時期足を引きずっていたこともあった。

他人の私にできることは、傷の手当と少しの会話と一緒にご飯を食べることだけだ。


弟よりも大人びていて、口数が少なくて、たまに綺麗な落ち着いた声で話すのを聴くのが嬉しくて、すっかり愛着が湧いてしまった私は料理をふるまったり、家でテレビを見たり、一緒に遊んだりしていた。

弟にできなかったことを琥珀くんにすることで、無意識に自分の欲を満たしていたのだと思う。



「おいで」



少し歩くと、いつものように少し離れてとぼとぼとついてきた。子犬を拾った気分だ。



「どうぞ」



卵粥に梅干しを乗せたものと、OS-1を用意すると、琥珀くんは少しずつ口にした。

昨日は熱を出して早退していたのに、こんな時間に外にいるのは理由がある。


琥珀くんの両親は離婚していて父親が養育費、生活費を支払っているらしい。

母親は体が弱く、入退院を繰り返してはほぼ寝たきりの生活をしてきた。アルコール依存症で施設に入っていたこともあった。




「熱はもう下がったの?」



額に手を当てようとすると、琥珀くんは手を止めて顔をそむけた。



しばらく沈黙が続く。

テレビでは新しいスイーツの紹介がされていて、琥珀くんは時折横目で見ている。



「・・・お母さん、まだお酒飲んでるの?」


「毎日飲んでる」



以前、酒に酔った母親が暴れたことで近所の住民が通報し、母親は重度のアルコール依存症だということが判明した。母親は入院することになり、琥珀くんはその日に施設に預けられたが職員からの性被害に遭いかけて私の家に逃げてきたことがあった。つい最近のことだ。

他の施設はこの町にはない。


その事件ももちろんだが、琥珀くんが戻ってきたことで母親が入院をとりやめて学校に乗り込み、学校の対応のせいだと責任逃れをしたらしい。そこから学校は全く対応をしなくなってしまった。




これから誰がこの子を守ってくれるのだろう。私はどうするのが正解なんだろう。

わからないまま、ただ毎日のように公園に行って安否確認のように関わってきた。


ただ、もう数か月が経つ。

こんな無責任なことは続けられない。



「今日ここで寝てもいい?」


琥珀くんが言った。綺麗な目で私を見ている。


「お母さんは大丈夫なの?」


「今日ずっと酒飲んでる。帰りたくない」


「琥珀くん。私と一緒に相談しに行こう。もしまた叩かれたり、ご飯を食べさせてもらえないのが続くようなら、もうこのままじゃいられないよ。お母さんも入院してないわけだし、そろそろ」


「またあんなところに行くくらいならここで死にたい」


「いや、ここで死なれたら困る・・・」



お風呂に入ってもらい、体を温めてもらった。

仕方なく同じ服を着てもらった。

しばらく一緒にテレビを見た後、ベッドに寝かせた。

ソファーで横になっていたが、夜中に琥珀くんのすすり泣きで目が覚め、背中をトントン叩いているうちに睡魔が襲ってきた。












「え、誰と寝てんの?」



志穂の声で目が覚めた。顔を覗き込まれた琥珀くんは、おびえて私にしがみついた。



「え・・・何でうちにいるの?・・・え、朝?・・・あれ、なんで・・・

 ん?あーそっか・・・こっちで寝ちゃった」


「ピンポンしても出ないからドアガチャガチャしようとしたら鍵開いてたんだよ」


「・・・あ、そっか。最後に家に入ったのが・・・・」


「あれ。よく来てる子じゃん。何で?学校は・・・あ、今日土曜か」


「話せば長くなる。面倒だから周りには黙っておいて」


「おーけー」



志穂は口が堅い。おしゃべりなくせに、余計なことは詮索しない。

人間関係に疲弊している私の唯一の友達で、唯一の親友だ。



「いやー琥珀くん今日もかわいいね。アイドルやる気になった?推すよ?」


「やばい、今何時だろう。琥珀くん起きて、家に帰らなきゃ。あ。熱下がったね」


「ねえまず朝ごはん作ってよ。何のためにきたと思ってんのさ」


「・・・」




朝ごはんを作って食べ、琥珀くんの自宅に向かうと志穂もついてきた。



「なんであんたまで来るのさ」


「今日買い物行く約束してたじゃん。この子送ったら行くよ」


「近くまでしか行かないけどちょっと様子見てから行く」



琥珀くんが家に入ったことを遠巻きに確認し、その場を離れて少し歩いていたときだった。



「棗、琥珀くん戻ってきたよ」



志穂の声に振り向くと、琥珀くんが走ってきた。

焦ったような、怖がっているような表情をしている。



「どうした?」


「お母さん、死んでるかも」


「え」



志穂と琥珀くんが遠くで震えている中、家に入って母親が倒れているのを確認した。

口から泡を吹いたようなあとがあり、頭から血が出ている。

食器棚の角には血が付着している。


すでに心停止しているが心臓マッサージをしながら待機し、救急車が到着すると私と琥珀くんが乗り、志穂は一旦自宅に帰った。



結局意識は戻らず、死因は吐しゃ物が原因の窒息死だった。

倒れた際に頭を強打したことにより脳内で出血も起きていたようだ。




琥珀くんの母親の葬儀は2日後だった。


喪主は母親と離婚後に別居している琥珀くんの父親で、葬儀に参加するのは少し気が引けたが、琥珀くんが一人でうずくまって座っているのを想像するとどうしてもいたたまれず、喪服を着て葬儀に参加するために受付をした。



「どちら様ですか」



受付の近くにいた父親が怪訝そうに私を見る。



「えっとあの、秋月くんの、あの、琥珀くんの、友達・・・です」



不審者のような話し方になってしまった。



「友達・・・?」


「はい・・・・」


「・・・・」



成人女性が友達だという男子小学生は私も見たことはない。

とにかく何か言わなきゃと思っていると琥珀くんがタイミングよく私のところに来てくれた。



「あんたなんでいるの」


「こんにちは・・・この度はご愁傷さまでした」



二人に頭を下げると、父親が「まあこちらにどうぞ」といい、頭をかきながら別室へ消えた。

別室に入ると、親族たちが何やら話をしている。



「遺産ももらえないのに自腹で面倒見れってかい」



年配の女性が大きな声を出し、隣にいる男性が人差し指を自分の口に当てた。



「とにかく、それは実父の役割でしょ」


「いやだからうちは無理だし、離婚してるから関係ないから。他人だから」



父親が冷たく言い放った。

横目で琥珀くんを見たが、表情に変化はなかった。



「養護施設に」



琥珀くんの表情が変わり、父親を見ると視線に気づいた父親は一瞬言葉を止めた。



「・・・いや、しょうがないだろ。俺と住みたいの?」



黙っている。父親はため息をついた。



「養育費やら葬儀代やらで遺産もクソもねえよ、俺は金がないしだめだ」


「嘘つくんじゃないよ、あの人は養育費も生活費も全額貯金してたんだから」


「あんたキャバクラの女連れ込んでるって知ってるからね。女にばっか金使ってんじゃないよ」


「そんなに財産あるのになんで私たちはもらえないんだか」



なぜ他人の前でこんな話ができるのか。

トイレに行こうと立ち上がったときだった。

琥珀くんが私の服を引っ張った。



片手で胸を押さえ、呼吸が荒くなっていく。



「わかった。大丈夫。ここにいるから。ゆっくり息しようか」




養護施設でのトラウマもあるのだろうか。

こんな状況も重なっているし、無理もない。



「どうした?」


「過換気症候群(過呼吸)です」



寄りかからせ、背中をトントンと叩いていると、しばらくしてから落ち着いた。

琥珀くんの汗ばんだ額を袖で拭う。


死んだ弟も泣いた後によく過換気を起こしていたが、両親に心配してもらっているのを見て疎ましさすら感じていた。




罪滅ぼしの時かもしれない。





「私の家で面倒見ます」



とっさに口から出てしまった。



「あなた誰なの?」


「琥珀の友達だって」



父親が肩をすくませた。



「はい。しょっちゅう会ってますし、よく泊まりにきてたので」


「あなたいくつ?」


「20歳です」



ざわついた。



「まだ子供だろ?他人に預けるわけには」


「じゃあ、誰が預かってくれるんですか?」




静まり返った。




「別に友達の家で暮らすならいいじゃないですか。貯金もあるんで生活には困ってません」


「養育費をあんたに渡せって?」



父親が笑った。



「養育費は琥珀くんに渡してください。義務なので。通帳は本人に預けますが、無駄使いはさせません」


「あんたに預けるメリットは?」


「家賃光熱費、食費はは私が負担するのでお父様には負担はさせません」


「養育費払うじゃん」


「先ほども言いましたが、それは義務であって琥珀くんのものなので」



引越やら自分の名義にする手続きやらを終わらせたので、わずかな知識はあった。



「琥珀くんにかかる学費とか給食費はそこから払います。もし保険に入っていないのならかけてください」


「保険は死んだアレ名義でかけてたけど」


「お父様の名義で変更してください。なにかあったらお父様に保険金がおります」


「ああ、そうなの?」



周りから賛成の声が上がる。



「へえ。しっかりしてるね。私はいいと思うけど」


「お前は黙っとけ」


「この子のこと何も知らない私たちより、気が知れた人のところで住むほうがいいんじゃない?」


「未成年と住んでいいの?」


「お父様が承諾すれば、同居は可能です。必要なら契約書を交わします」


「いや別にそこまではいいかな・・・」


「施設に預けるほうが安心じゃないか?」


「琥珀くんは性被害に遭いかけたことがあります。本人は拒否しています」



ざわついた。



「琥珀くんの意思もあると思うのでまず本人に」




琥珀くんは私の服をつかんだ。


全員納得するしかないようだった。

すんなり一緒に住むことが決定し、それを聞いた志穂の反応が肯定的だったので私はやる気すら芽生えた。

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