表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

今日のご飯は美味しかったです(ヒューマンドラマ)

土曜日。

いつも通りの日常。

変わらない日々に軽くため息を吐く。


唯一安心できる自宅で、私は無為に過ごしている。

といっても1Kの安アパートで、なにができるかと言われれば……。

1階だから気を使うし。


なにかしらの変化を期待しては、結局、日中をいつも通りに過ごしてしまったことに自己嫌悪。


時間が経つごとに、無気力に苛まれる。


ちら、と時計を見る。

いつの間にか23時を過ぎていた。

夕食も食べてない。


あまりに遅すぎる食事は体に悪いが、とりあえず生きるために食べる。

そう考えて、レトルトのカレーを用意する。


パックのご飯を用意して、カレーと一緒にレンジで温める。


レンジ古い型だから温め時間長いなぁ……。


ぼんやりとレンジを眺めていると。

部屋の外、窓側の共用庭あたりからゴソゴソと音がする。


こんな時間に……まさか泥棒?


この辺りは治安は良い。

大きな事件があったこともなく、だからこそ安心出来ているのに。


レンジのブーンという音だけがうなる部屋で、動けずにいた。

すると。


……ワン


微かに声が聞こえた。

犬……?


しっとりした部屋に通る鳴き声。

本当に犬?泥棒が真似しているだけかもしれない。


本当に犬だとしたら?野犬が紛れ込んだのかもしれない。


逡巡する中、チーンとレンジの音が響いた。

仮に泥棒だとしても、野犬だとしても、音でバレてしまったかも。


私は急いで風呂場に行き、武器に洗面器を持って戻る。

そして、意を決して、窓を開けた。


そこには。


……ワン


犬だった。サイズは中型。

それも首輪をしている。


想像に振り回されていたからか、急に力が抜ける。


でも、なんでこんなところに……?


首輪があるなら誰かに飼われているはずだ。

なら、リードが外れて逃げてしまったのかな。


チーンと、レンジが出来上がりを催促する。

ひとまずレンジからご飯とカレーを取り出して机に置く。


そうしてから、窓を開けて犬に近寄る。

見た目からして元気がない。体も汚れている。

逃げて来たからか、ご飯を食べていないのかも。


このアパートはペット禁止。

大家が動物嫌いでバレたら即日退去させられるほど。


……でも、1日くらいならいいよね。


目の前のフラフラな犬を見捨てることは出来ず、屈んでシーっとジェスチャーする。


犬は首を傾げたが、わかってくれたのか伏せをした。

それを見て、なにか食べさせようと思い冷蔵庫へ行く。

ただ、開けては見たものの碌なものが入っていない。


犬って食べちゃいけないものあったよね……?

カレーはダメだろうし、カニカマ?サバ缶?魚肉ソーセージ?


とりあえずあるものを持っていき、何がいいか選んでもらおう。


冷蔵庫のありったけを、それでもかなり少ないけど、犬の前に置く。

すると匂いを嗅ぎ、魚肉ソーセージをほおばり始めた。


私より頭いいかも……。


しばらく食べるところをボーッと眺めてたけど、自分のご飯を忘れていた。


すっかり冷えたカレーを食べながら、犬を見る。

勢いよく次のカニカマにがっついていた。


よく見ると、首輪にタグがついていた。


……もしかして、住所とか書いてあるかも。


そう思った私は急いでカレーを食べ終え、犬に近寄る。

ご飯を取られるのかと勘違いしたのか、唸られたけどなんとかなだめてタグを見る。


名前と住所がある……!。


犬の名前はキリコ、住所は今住んでるアパートから3時間くらいの場所だった。


どおりで汚れているはずだ。

なんでここまで来たのかはわからないけど。


もう遅い時間だし、とりあえず簡単に体を拭いてあげて部屋にあげる。


明日、家に帰ろうね。

ゆっくり撫でて落ち着かせる。


少しは安心したようで寝息を立て始めた。

私もそれにつられ眠気に誘われて、そのまま寝落ちしてしまった。


◇◆◇◆◇◆


翌朝。

やかましいチャイムの音で目が覚める。

でも体は上手く動かない。

見ると犬が私の上に覆い被さって寝ていた。


あんたはのんきだね……。


犬をどかし、凝り固まった身体をほぐしながら玄関をあける。

そこにいたのは、凄まじい形相をした大家だった。


寝起きに辛い怒声が頭に響き、そのまま有無を言わさず部屋を追い出されてしまった。

もちろん犬も一緒に。


……やってしまった。


携帯だけは持ってこれたけど、あとは着の身着のまま。

昨日風呂入ってないから臭いかも。

ああ、これからどうしようか……。


ワン!


そんなとき犬の声が私を取り戻した。

尻尾ふって元気にこちらを見ている。


……そう、だね。今はあんたのことだね。


とりあえず、追い出されたものはしょうがない。

あとで土下座でも何でもして謝ろう。

アパート前にあったスズランテープを拝借し、簡易リードにして首輪に結える。


……行きますか。


片道3時間。

かなりの怠さを覚えつつも、私たちは出発した。



いつも通りの道から外れて、見も知らぬ道を行く。

とても新鮮、だけど怖さもある。


それは発見と今後のこと。


こんなところにコンビニあったんだ、小学生が多いなぁ、高めだけどオシャレなカフェだ。


犬を届けた後家どうしよう、大家は許してくれるか、帰れなかったらイヤだな。


そんな事が交互に浮かび私を混乱させる。


40分ほど歩いただろうか。

前から6歳くらいの女の子が走って来た。

キリコ──この犬の名を呼びながら。


女の子は私に目もくれず犬に抱きつき大泣きしている。

犬も女の子をベロンベロンと舐めちぎれんばかりに尻尾をふる。

感動の再開……みたいだ。


どうしたものかと思っていると、父親らしき人物が息を切らせてやって来た。

女の子をなだめながら私に話を聞いて来る。

うちの犬をどうして連れているのか、と。


疑われているのかと嫌な気持ちになりながら、私は説明する。


昨日の夜迷い込んできたので保護した事。

家に連れて帰っている途中だった事。

……さすがに追い出されたことは言えなかった。


それを聞いた父親──実は大学生の兄らしい──は恐縮してしきりに謝ってきた。


誤解が解けてホッとしたのも束の間、家に招待してくれることになった。

そこまでされる事はしていないので固辞すると、是非にと押しきられてしまった。


どうやら二人は車で探しに来たようで、近くに停まっていた。

流されるままお兄さんの車に乗り彼らの家へ向かう。



女の子──妹ちゃんはキリコに抱きつき眩しい笑顔。

お兄さんは気を遣いながら、私に何度もお礼と事情を言ってきた。


なんでも昨日の夕方、妹ちゃんが散歩に出かけた時リードが切れて迷子になってしまったんだとか。

両親も困り果て今日見つからなかったら張り紙しよう……と思っていたとのこと。

それを聞いて保護してよかったと、少し嬉しくなった。


彼らの家に着いた後。

家族への挨拶もそこそこに、それはもう盛大なおもてなしをされてしまった。

昨日までアパートで冷えたカレーを食べてた自分が、今こんなにもてなされているなんて、不思議でしょうがない。

変化を求めてはいたけど、こんなに変わるなんて。


お酒も出されて、日曜の朝だと言うのに遠慮せず飛びついてしまったのが恥ずかしい。


しかも酒の勢いで愚痴ってしまった。大家に追い出されたことを……。


お兄さんはすごいビックリして、うちの犬が迷惑かけて申し訳ない、良ければ泊まっていってくれ、と言い出した。


それこそ私がビックリした。

犬を届けただけなのに、なんでそこまでしてもらえるのかと。


するとお兄さんはモジモジし出した。

せっかくだからからみ酒で詳しく聞いてみると、なんと一目惚れした……って。


嘘でしょ。私にそんな要素ないよ。

今絶対臭いのに。


でもお兄さんは、家を追い出されたにも関わらず見ず知らずの犬を助けるなんて出来ないと、私を聖人かのように持ち上げてきた。


そんな事言われたの初めてだ。私のなにがヒットしたのかな……。


流石に泊まるのはと断ったけど、それも押しきられてしまった。

お兄さんも酔っているのか、絶対に離さないという目つきをしていた。


私、押しに弱かったんだな。


なんだか、あれよあれよと外堀を埋められてる気がした。

でも、まぁ、悪くない……かな。



その日の夜。

お兄さん家族に囲まれながら、一緒に夕食をとった。

妹ちゃんは笑顔で、お兄さんはアピールなのか爽やかスマイルで、ご両親もどんどん食べろと言ってくる。


これからどうなるかわからない。

愛を育むのか、今日で終わりなのか。


でも、これだけは言える。

今日のご飯は美味しかったです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ