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第6章 ― 牙を隠す者、牙を探す者 ―

 蓮は救護車の中で、静かに目を閉じていた。


「蓮くん、痛むところはありますか?」


 志乃医療官の優しい声が耳に落ちる。

 蓮はかすかに首を振った。


「……身体は、大丈夫です。

 ただ……頭の奥が少し、ざらつくというか……」


 志乃は蓮の脈拍を測りながら目を細める。


「脳波が乱れているの。

 “あの光”を発した直後と似ているわ」


 その言葉を聞いたとき――

 蓮の胸に、鈍い不安が灯った。


(俺の中で……何が起きてる?)


 すると、


 《――眠るな。我を忘れるな》


 また“あの声”が聞こえた。

 フェンリルの声。

 蓮は眉をしかめる。


(やめろ……俺は……俺だ……)


 志乃が蓮の手を握る。


「蓮くん。

 本当に……何も覚えていないのね?」


 蓮はうなずいた。


「はい。

 でも……フェンリルが戦ってる感覚は……

 少しだけ、残ってる気がします」


 志乃は何か言おうとしたが――

 救護車の窓の外、白銀の影が横切った。


 志乃:「……白い狼?」


 蓮は息を止めた。


(フェンリル……? いや……違う。

 “あの狼だ”)


 救護車は基地へ戻り、

 蓮はそのまま医療ブロックに運ばれた。


 ■ E.O.D内部会議 ―「蓮という危険因子」―


 E.O.D本部の会議室。

 玲奈司令官を中心に、数名の幹部が集まった。


 スクリーンにはタルガーノ戦の映像。

 フェンリルと化した蓮の姿が大写しになっている。


「この巨獣……“フェンリル”。

 災獣を二度も撃退したのは事実だが……

 蓮との関連性が濃厚です」


 情報分析官の神谷が静かに言う。


「映像解析によると、

 蓮のバイタルが急激に変化した直後に光が発生。

 そしてフェンリルが出現している」


 副司令の宗方が深刻な表情を向ける。


「つまり蓮は――

 災獣にも匹敵する未知の存在だと?」


 玲奈は腕を組み、静かに言った。


「確証はまだない。

 だが少なくとも、蓮の中に“何か”がいる。

 私たちはそれを理解しなければならない」


 宗方は声を強める。


「だが司令、もし蓮が制御不能になれば?

 彼自身が都市の脅威になる可能性だって――」


 玲奈はきっぱりと言い切る。


「蓮は仲間よ。

 疑うのは後。

 今は彼の助けが必要」


 神谷が小さく頷く。


「ただ……

 蓮の“脳波の揺らぎ”は、災獣出現の前兆と似ています。

 彼が何かを感じる時、災獣出現率が上がる」


 沈黙が落ちた。


 玲奈は深く息を吸い、結論を出す。


「蓮には事実を告げる。

 そして――

 “彼がどう感じるか”を見極める」


 ■ 蓮、密かな揺らぎ


 医療ブロックのベッド。

 蓮は天井を見つめたまま動けずにいた。


(……俺の中にいる声。

 あれは……フェンリル?

 それとも……別の何か?)


 胸の奥で、鈍い脈動が響く。


 《……我を恐れるな……蓮……》


 蓮は布団を握りつぶすように叫んだ。


「黙れ……!

 俺は……俺はお前の“器”じゃない!」


 声はすぐに途切れた。

 次の瞬間、静寂が訪れる。


 そこへ、ノック。


 扉が静かに開き、玲奈司令官が入ってきた。

 彼女は蓮の前に立ち、優しい目を向ける。


「蓮。

 あなたに……話さなければならないことがある」


 蓮は身体を起こし、彼女をまっすぐ見つめた。


「……僕が“危険”だという話、ですよね」


 玲奈は驚かなかった。


「ええ。

 あなたの中にある力が、何なのかを知らなければならない。

 それがあなたのためであり、

 この街のためでもあるわ」


 蓮は拳を握る。


「……俺は……仲間を傷つけたくない。

 だから……なんでも受け止めます」


 玲奈はそっと蓮の肩に手を置いた。


「蓮。

 あなたは一人じゃないわ。

 ……忘れないで」


 蓮は微かに頷いた。


 しかしその瞬間――

 基地全体にアラートが鳴り響く。


『災獣反応発生! レベル3警戒に移行!』


 蓮は立ち上がった。


(また……!

 しかも、今度は……もっと近い!)


 胸の奥がざわつく。


 《来い……蓮……

 我らはまだ……“始まり”の途中だ……》


 蓮は胸元を押さえ、自分を落ち着かせようとした。


「司令……俺も行きます」


「蓮、まだ検査が――」


「行かなきゃ……

 俺の中が……暴れそうなんです……!」


 玲奈はわずかに眉を寄せた。


(フェンリルの力が……蓮を侵食している?)


 だが、蓮の目に宿る決意を見てうなずいた。


「わかった。

 一緒に行くわ」


 蓮は医療服のまま走り出す。


 その背中を、

 窓から白銀の狼が静かに見送っていた。


 そしてその狼の後ろ――

 いつものように、リエナが立っていた。


「蓮。

 あなたの“牙”は、まだ隠れたまま。

 本当の姿は……ここからよ」


 白銀の狼が静かに地面を踏み、

 森の方へ向かう。


 蓮の知らぬところで――

 新たな災獣が、ゆっくりと目を開けていた。


 ――第6章・完。

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