第41章 ― ビースト・フェンリル ―
名は、
最後まで呼ばれなかった。
■ 余白の朝
山は、
いつもと変わらぬ朝を迎えた。
霧が流れ、
鳥が鳴く。
そこに――
白銀の影は、
もうない。
だが、
大地は確かに、
軽くなっていた。
■ 人の世界
街では、
日常が続く。
ニュースは、
小さな災害を報じる。
「原因不明」
「自然現象の可能性」
それ以上は、
語られない。
人は、
理解できないものを
長く覚えてはいられない。
それでいい。
■ 残された者たち
E.O.Dの一室。
志乃は、
端末を閉じた。
「……結局……
何も……
わからなかったね……」
矢守は、
窓の外を見る。
「……でも……
被害は……
止まった……」
関守博士は、
静かに言った。
「……それが……
答えでしょう……」
誰も、
それ以上、
言葉を足さなかった。
■ 名の痕跡
山間の村。
古い祠。
いつからあるのか、
誰も知らない。
最近、
子どもが言った。
「……白い……
おおかみ……
いたよ……」
大人は、
笑って流す。
だが――
祠の前には、
新しい花が
供えられていた。
■ 蓮
人としての名は、
もう使われない。
蓮は、
境界に立つ。
人の言葉も、
地の鼓動も、
等しく聞こえる場所。
そこに、
孤独はない。
■ フェンリル
《……終ワッタ……》
フェンリルの声は、
もはや言葉ではない。
感覚。
地の流れ。
風の向き。
生の重み。
それらが、
自然に重なる。
■ 一つであること
人が、
神獣になったのではない。
神獣が、
人を支配したのでもない。
選んだ意思が、
同じ方向を向いただけ。
それが、
共鳴の正体だった。
■ 世界は続く
都市は、
今日も動く。
森は、
静かに育つ。
争いも、
災いも、
なくならない。
だが――
壊れきる前に、
止まる場所ができた。
それで、
十分だった。
■ 名だけが残る
人は、
やがて語る。
「あの時……
何かが……
守った……」
名前は、
定まらない。
守護神。
白銀の獣。
山の主。
だが――
大地は、
知っている。
その名を。
■ ビースト・フェンリル
それは、
英雄ではない。
救世主でもない。
地球が、
選び続ける意思。
人に理解されず、
称えられず、
それでも在り続ける存在。
今日も、
境界に立つ。
語られない物語として。
――第41章・終。
――完。




