表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/41

第41章 ― ビースト・フェンリル ―

 名は、

 最後まで呼ばれなかった。


 ■ 余白の朝


 山は、

 いつもと変わらぬ朝を迎えた。


 霧が流れ、

 鳥が鳴く。


 そこに――

 白銀の影は、

 もうない。


 だが、

 大地は確かに、

 軽くなっていた。


 ■ 人の世界


 街では、

 日常が続く。


 ニュースは、

 小さな災害を報じる。


「原因不明」

「自然現象の可能性」


 それ以上は、

 語られない。


 人は、

 理解できないものを

 長く覚えてはいられない。


 それでいい。


 ■ 残された者たち


 E.O.Dの一室。


 志乃は、

 端末を閉じた。


「……結局……

 何も……

 わからなかったね……」


 矢守は、

 窓の外を見る。


「……でも……

 被害は……

 止まった……」


 関守博士は、

 静かに言った。


「……それが……

 答えでしょう……」


 誰も、

 それ以上、

 言葉を足さなかった。


 ■ 名の痕跡


 山間の村。


 古い祠。


 いつからあるのか、

 誰も知らない。


 最近、

 子どもが言った。


「……白い……

 おおかみ……

 いたよ……」


 大人は、

 笑って流す。


 だが――

 祠の前には、

 新しい花が

 供えられていた。


 ■ 蓮


 人としての名は、

 もう使われない。


 蓮は、

 境界に立つ。


 人の言葉も、

 地の鼓動も、

 等しく聞こえる場所。


 そこに、

 孤独はない。


 ■ フェンリル


 《……終ワッタ……》


 フェンリルの声は、

 もはや言葉ではない。


 感覚。


 地の流れ。

 風の向き。

 生の重み。


 それらが、

 自然に重なる。


 ■ 一つであること


 人が、

 神獣になったのではない。


 神獣が、

 人を支配したのでもない。


 選んだ意思が、

 同じ方向を向いただけ。


 それが、

 共鳴の正体だった。


 ■ 世界は続く


 都市は、

 今日も動く。


 森は、

 静かに育つ。


 争いも、

 災いも、

 なくならない。


 だが――

 壊れきる前に、

 止まる場所ができた。


 それで、

 十分だった。


 ■ 名だけが残る


 人は、

 やがて語る。


「あの時……

 何かが……

 守った……」


 名前は、

 定まらない。


 守護神。

 白銀の獣。

 山の主。


 だが――

 大地は、

 知っている。


 その名を。


 ■ ビースト・フェンリル


 それは、

 英雄ではない。


 救世主でもない。


 地球が、

 選び続ける意思。


 人に理解されず、

 称えられず、

 それでも在り続ける存在。


 今日も、

 境界に立つ。


 語られない物語として。


 ――第41章・終。

 ――完。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ