第40章 ― 共鳴 ―
夜明けは、
山の向こうから来た。
薄い光が、
白銀の輪郭を縁取る。
ビースト・フェンリルは、
動かない。
ただ、
大地に立っている。
■ 余韻
断層核を断った場所は、
深い沈黙に包まれていた。
破壊の痕跡はある。
だが――
拡がらない。
地は、
自ら傷を閉じ始めていた。
《……始マッタ……》
フェンリルの声は、
低く、落ち着いている。
《……回復ガ……
優先サレル……》
蓮は、
その言葉を聞きながら、
胸の奥に、
微かな痛みを覚えた。
「……人には……
わからないな……」
《……理解ハ……
必要カ……》
問いは、
責めではなかった。
■ 声の消失
遠くで、
ヘリの音がした。
一機。
二機。
だが――
近づかない。
警告も、
呼びかけも、
ない。
《……遮断……
完了……》
フェンリルの声が、
淡々と告げる。
「……聞こえない……」
《……地球ノ……
選択ダ……》
人の通信。
人の命令。
すべてが、
薄膜の向こうへ退いた。
■ 対等
白銀の鼓動が、
一定になる。
強くも、
弱くもない。
蓮は、
気づいた。
(……引っ張られていない……)
主導されていない。
同時に――
抗ってもいない。
「……これが……
共鳴……」
《……名ヲ……
付ケル必要ハ……
ナイ……》
フェンリルの声が、
重なる。
《……我ラハ……
同時ニ……
選ンデイル……》
■ 人の世界
街では、
いつも通りの朝が来た。
電車は走り、
人は歩く。
ニュースは、
小さな災害を報じる。
原因は、
不明。
名は、
出ない。
それで、
よかった。
■ 蓮の変化
蓮は、
完全な人の姿に
戻っていなかった。
角の名残。
爪の影。
だが――
焦りはない。
「……戻る理由が……
なくなったな……」
《……残ル理由モ……
ナイ……》
フェンリルの言葉は、
優しかった。
■ 立ち位置
ここは、
人の世界でも、
神の領域でもない。
境界。
地と、人の
あいだ。
ビースト・フェンリルは、
そこに立つ。
守らない。
救わない。
ただ――
均衡を保つ。
■ 共鳴の確定
白銀の光が、
穏やかに収束する。
暴力性は、
消えた。
残ったのは、
確かな存在感。
《……蓮……》
フェンリルが、
静かに呼ぶ。
《……今……
我ラハ……
一ツダ……》
蓮は、
小さく頷いた。
「……ああ……」
それだけで、
十分だった。
■ 次へ
山の向こうで、
風が動く。
地は、
息を整える。
人の声は、
もう届かない。
だが――
それは、
拒絶ではない。
役割が、
変わっただけだ。
ビースト・フェンリルは、
ゆっくりと歩き出す。
終わりは、
近い。
静かに。
確実に。
――第40章・終。




