表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/41

第4章 ― 森が鳴く、災獣の胎動 ―

 南西森林帯。

 その中腹に位置する、地図にもほとんど記されていない深い森――

 太古から“地が眠る場所”として人が近寄らなかった、

 〈黒霧谷〉。


 その谷底に、ひび割れた地面がぽつりと剥がれ落ちた。


 ドン……ドン……ドン……


 夜明け前の静寂に似つかわしくない重低音が、

 ゆっくりと地中から響き始める。

 樹々が震え、無数の鳥が一斉に飛び立つ。


 土壌の下で、何かが“巨大な息”を吸い込んだ。


 そして――。


 黒い“瘴煙”がふつふつと噴き出し、

 周囲の植物が瞬く間に枯れ落ちていく。


 森が、痛みに耐えるように軋んだ。


 《ギ……ッ……アァァ……ッ》


 地中から聞こえる声は、

 もはや生き物のものとは思えない。


 “災獣の誕生”は始まっていた。


 ■ E.O.D、緊急出動


 市内の臨時E.O.Dベース。

 アラートが一斉に鳴り響く。


「南西森林帯に異常振動! 地殻反応、急激に上昇!」

「“瘴気濃度”が前回のラガン出現時の三倍を超えました!!」


 司令室の空気が一気に張り詰める。

 玲奈司令官がスクリーンを鋭く睨む。


「災獣……新種か。

 全隊、通常戦闘コードE-4で行動。

 空挺部隊は待機状態から即応へ移行!

 装甲小隊は森林帯手前でライン形成!」


 隊員たちが一斉に走り出す。

 その中にいる蓮は、未だ胸の奥が落ち着かなかった。


(……まただ。

 あの時と同じ……いや、それ以上に強い“鳴り”がする……)


 蓮の鼓動が、災獣反応の上昇とともに増している。

 それはまるで、災獣の胎動と“共鳴”しているかのようだった。


 志乃医療官が蓮の腕を掴む。


「蓮くん、まだ検査が――」


「すみません、行きます。

 ……僕にも“聞こえてる”んです。

 あの気配が……」


 言葉を言い切る前に、玲奈司令官の声が蓮を呼んだ。


「蓮! 出動班に回れ!」


「えっ……俺も、ですか?」


「お前は現場を知っている。

 昨日の戦闘で何か感じたなら、必要だ」


 蓮は迷った。

 自分が何者かもまだわからない。

 でも――


(逃げたくない……!)


「……了解しました!」


 蓮はヘルメットをかぶり、走り出した。


 ■ 森林帯へ


 装甲車が森へ向かい、

 未舗装の道を揺れながら走る。


 蓮は窓の外をじっと見つめた。


(この奥に……何かがいる……

 前の災獣とは違う……もっと“濃い”……!)


 隣に座った先輩隊員・矢守が口笛を吹いた。


「おい蓮。昨日の“銀狼の巨獣”の話、

 マジで何にも覚えてねぇってのか?」


「……正直に言えば、全部じゃないです。

 でも……守ってくれた、気がします」


「守護神様かよ。

 まあ、昨日のあれは……

 オレらも正直、助かったけどな」


 矢守は笑ったが、

 蓮自身は重い気持ちのままだ。


(守ったのは……俺じゃなくて、フェンリル……?

 なら俺は……何なんだ?)


 胸の奥で、またひとつ鼓動が鳴る。


 《――呼ばれている……》


 蓮は息を呑んだ。


 その時、装甲車が急停車する。


「隊長! 前方、視界不良! 瘴気が広がっています!」


 薄い霧が、森からゆっくりと溢れ出していた。

 ただの霧ではない。

 黒く、重く、冷たい“悪意”のような霧。


 矢守が顔をしかめる。


「……こりゃ普通じゃねぇな。

 蓮、離れるなよ」


 蓮は頷いた。


(……こいつは、俺の中の何かが震える……

 フェンリルが……“警告”してる……)


 その時だった。


 森の奥で、重低音が鳴った。


 ――ズゥゥゥン。


 地面が揺れ、鳥たちが飛び立つ。


「来るぞ……!

 災獣の出現だ!!」


 隊長の叫びと同時に――

 黒霧を割って、巨大な影がゆっくりと姿を現した。


 ■ 新たな災獣タルガーノ


 森を裂いて出現したのは、

 樹木を無数に巻き込みながら歩く、

 “蔦と甲殻で覆われた巨獣”。


 背中には巨大な樹のような突起、

 全身から黒い瘴煙を吐き出している。


 《グォォォォォ……ッ!!》


 その咆哮だけで、

 空気が震えた。


 矢守が顔を青くする。


「なんだ、この化け物……!

 前回の岩獣よりでけぇぞ!?」


「撤退ライン確保! 装甲部隊は散開だ!」


 隊員たちが一斉に散る。

 しかし――


 《ゴッ!!》


 災獣の脚が大地を踏みしめた一瞬で、

 衝撃波が前方の装甲車を吹き飛ばした。


 蓮は叫ぶ。


「くそ……! これじゃ誰も近づけない!」


 胸の奥が熱くなる。


(行かないと……!

 このままじゃ……誰かが死ぬ!)


 《……呼べ……》


 また、あの声。


 《……守りたいなら……呼べ……》


(でも……!

 どうすれば――)


 蓮は苦しみながら胸を押さえる。

 息が乱れ、視界が揺れる。


 その瞬間――

 黒霧の中に白い影がすっと現れた。


 白銀の狼。

 そして、その後ろに立つ少女、リエナ。


 彼女は蓮を見つめ、静かに言った。


「蓮。

 大地は呼んでいるよ。

 あなたを――“フェンリル”として」


 蓮の鼓動が跳ねる。


(フェンリル……

 俺が……フェンリル……?)


 リエナは一歩近づき、そっと蓮の手を取る。


「あなたの意思と、大地の意思。

 二つが重なるとき――“ビースト化”は起こる。


 さあ、蓮。

 選んで」


 蓮は震える手を見る。


 災獣の咆哮が響く。


 隊員たちの悲鳴が聞こえる。


 胸の奥では――

 大地の脈動が、蓮の鼓動と重なり始めていた。


(守りたい……!)


 蓮は、拳を握った。


「――来い……フェンリル!!」


 その瞬間。

 白銀の光が蓮の身体を包み込み、

 地面が大きく震えた。


 ――蓮が、“ビースト化”を再び迎えようとしていた。


 ――第4章・完。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ