第39章 ― 最後の災獣 ―
■ 顕現地点
山脈と平野の境界。
古い断層帯。
人の生活圏から、
わずかに外れた場所。
だが――
**地球にとっては要**だった。
大地が、
不自然に隆起する。
空気が、
歪む。
《……来タ……》
フェンリルの声が、
低く響く。
■ 災獣
それは、
「形」を持たなかった。
岩。
泥。
影。
骨。
過去に倒された災獣の残滓が、
無理やり縫い合わされたような存在。
意思はない。
あるのは――
侵食衝動だけ。
地脈に、
牙を突き立てる。
このまま放置すれば、
連鎖的な顕現が起きる。
都市が、
次に来る。
■ 選択
遠くに、
街の灯り。
避難命令は、
まだ出ていない。
蓮は、
一瞬だけ、
そちらを見た。
「……街に……
行けば……」
《……間ニ合ワヌ……》
フェンリルの答えは、
即座だった。
《……此処ヲ……
断タネバ……
全テガ……
繋ガル……》
守るか。
断つか。
人か。
地球か。
蓮は、
目を伏せた。
「……選別……
するのか……」
《……拒否デキルカ……》
問いではなかった。
事実だった。
■ 共鳴
白銀の鼓動が、
二つに重なる。
半分は、
人の心。
半分は、
地の意思。
どちらかに傾けば、
もう戻れない。
蓮は、
静かに息を吸った。
「……わかった……」
フェンリルの声が、
わずかに揺れる。
《……後悔……
スル……》
「……するだろうな……」
だが――
目は、
逸らさない。
■ 戦い
ビースト・フェンリルは、
踏み込んだ。
吠えない。
叫ばない。
ただ、
叩く。
拳で。
牙で。
尾で。
災獣の身体が、
崩れる。
だが――
再構成される。
地脈を、
使っている。
「……中心……
あそこだ……!」
フェンリルが、
即座に理解する。
《……断層核……
破壊スル……》
それは――
大地そのものを傷つける行為だった。
■ 躊躇
一瞬。
蓮の手が、
止まる。
「……それ……
地球を……」
《……短期ノ傷ト……
長期ノ死……》
選べ。
白銀の力が、
蓮を待つ。
■ 決断
蓮は、
歯を食いしばった。
「……やれ……」
フェンリルは、
躊躇しない。
一本角が、
輝く。
全力の一撃。
断層核が、
砕けた。
大地が、
悲鳴を上げる。
同時に――
災獣が、
完全に崩壊した。
■ 静寂
風が、
止む。
影は、
消える。
山は、
深く沈黙する。
遠くの街は、
無事だった。
誰も、
知らない。
誰も、
感謝しない。
■ 代償
蓮は、
膝をついた。
白銀の力が、
揺らぐ。
《……蓮……》
「……いい……
これで……」
《……一線……
越エタ……》
「……ああ……」
戻れない。
完全に。
■ 最後の災獣
それは、
倒された。
だが――
同時に。
フェンリルは、
人の守護者である可能性を
自ら断った。
残ったのは、
地球の意思としての存在。
ビースト・フェンリルは、
ゆっくりと立ち上がる。
人の世界から、
さらに一歩、
遠ざかりながら。
――第39章・終。




