第33章 ― 獣の答え、人の選択 ―
山間の集落で起きた出来事は、
隠しきれなかった。
公式には、
「原因不明の地盤災害」。
だが、
人は知っていた。
――“白銀の守護者が来たが、間に合わなかった”
その事実を。
■ 波紋
ニュースの片隅。
小さな扱い。
だが、
SNSでは違った。
――「結局、救えなかったじゃないか」
――「守護者なんて幻想だ」
――「祈っても意味はない」
以前は、
感謝と恐怖が混ざっていた。
今は――
失望が混ざり始めた。
期待が高かった分、
落差は深い。
■ 祈りの変質
かつて花が供えられていた場所。
紙は、
剥がされていた。
代わりに、
落書き。
――「偽りの神」
それを見つめる老人が、
ぽつりと呟く。
「……神様は……
助けてくれる時だけ……
神様なんだな……」
その言葉は、
誰に向けたものでもなかった。
■ 内側の揺れ
簡易拠点。
蓮は、
端末を見ていない。
見る必要が、
なかった。
「……蓮……」
志乃が、
声をかける。
蓮は、
静かに答えた。
「……大丈夫」
だが、
その声に力はない。
(……期待させた……
守れると……
思わせた……)
その思考が、
胸を締めつける。
■ フェンリルの答え
夜。
静まり返った施設。
《……蓮……》
フェンリルの声は、
いつもより明確だった。
《……答エハ……
単純ダ……》
「……なに……?」
《……間ニ合ワナイ場所ヲ……
作ラセナケレバ……
イイ……》
蓮は、
息を呑む。
《……影ノ芽ヲ……
根コソギ……
消ス……》
白銀の鼓動が、
強く鳴る。
《……予兆ノ段階デ……
叩キ潰セ……》
それは、
合理的で、
獣としては正しい。
だが――
■ 拒否
「……それは……
人を……
“選別”することになる……」
《……結果的ニ……
多クハ……
守ラレル……》
「……それでも……」
蓮は、
はっきりと言った。
「……それは……
“守る”じゃない……」
フェンリルの声が、
低くなる。
《……ナラバ……
オ前ハ……
何ヲ選ブ……》
「……失敗する可能性を……
含んだまま……
立つ」
《……愚カダ……》
「……人間だ」
その一言で、
空気が張りつめる。
■ 亀裂の自覚
白銀の影が、
蓮の背後に揺れる。
以前より、
距離がある。
完全に離れてはいない。
だが――
完全にも重なっていない。
《……蓮……
オ前ハ……
俺ノ最適解ヲ……
拒ンダ……》
「……ああ」
《……次ニ……
同ジ状況ニ……
ナッタラ……》
「……その時も……
拒む」
フェンリルは、
長い沈黙の後、
低く告げた。
《……理解……
デキナイ……》
それは、
怒りではなかった。
困惑だった。
■ 支える者
翌朝。
矢守が、
静かに言う。
「……世論……
完全に味方じゃない……」
関守博士が、
続ける。
「……だが……
“期待しない者”が……
残る……」
志乃が、
蓮を見る。
「……それで……
いいんじゃない?」
蓮は、
ゆっくり頷く。
「……神じゃない……
守護者でいたい」
■ 人としての立ち位置
蓮は、
空を見上げた。
白銀の鼓動は、
確かにある。
だが――
それに、
飲み込まれない。
期待されなくても。
失望されても。
それでも、
立つ。
それが――
人としての選択だった。
フェンリルは、
沈黙のまま、
その背中を見ていた。
理解できなくても、
拒まれても。
共にいることだけは、
変わらない。
影は、
この対立を――
確実に、
観測していた。
次は、
もっと大きな問いを、
突きつけてくるだろう。
――第33章・終。




