第31章 ― 切り離された場所で ―
蓮は、
E.O.D本部を去った。
それは追放ではなく、
配置転換でもない。
――“存在の解除”。
公式記録から、
彼の名前は消えた。
■ 非公式
小さな郊外の施設。
かつて、
観測用のサブ拠点として使われていた場所。
今は、
最低限の電力と通信だけが生きている。
「……ここが……
しばらくの拠点になる」
玲奈司令官は、
自ら案内役を買って出ていた。
「公式には……
私は関与していない」
蓮は、
苦笑する。
「……立場、
危なくないですか」
「もう……
十分危ないわ」
司令官は、
そう言って微笑んだ。
■ 選んだ者たち
その夜。
施設に、
数人の影が集まる。
志乃。
矢守。
関守博士。
誰も、
制服は着ていない。
矢守が、
腕を組んで言った。
「……俺たちは……
“E.O.D”としては……
ここにいない」
志乃が、
まっすぐ蓮を見る。
「……個人として……
来ました」
蓮は、
言葉を失った。
「……いいんですか……
ここにいたら……」
関守博士が、
静かに答える。
「……研究者として……
“正しい観測対象”を……
見失うわけにはいかない」
彼らは、
“命令”ではなく、
“意志”で立っていた。
■ 分断
一方、
本部では。
別の会議が開かれていた。
「……裏切りだ……」
「秩序を乱す……」
「管理できない力は、
排除すべきだ」
E.O.Dは、
一枚岩ではなくなった。
“守るために縛る派”と、
“縛れば守れなくなる派”。
その溝は、
もう戻らない。
■ 夜の対話
簡易施設の屋上。
蓮は、
一人で空を見ていた。
《……蓮……》
フェンリルの声は、
落ち着いている。
《……切リ捨テラレタ……》
「……ああ」
《……怒リハ……》
「……あるよ」
蓮は、
正直に言った。
「でも……
それ以上に……
選んでくれた人たちが……
いる」
胸の奥で、
白銀の鼓動が、
少しだけ柔らぐ。
《……オ前ハ……
群レヲ失ッタ……》
「……代わりに……
“関係”を得た」
フェンリルは、
低く唸る。
《……奇妙ナ……
人ノ生キ方ダ……》
「……そうかもな」
■ 裏の支援
翌日。
矢守が、
端末を操作する。
「……非公式ルートで……
監視網の一部を……
共有できる」
志乃が、
地図を広げる。
「……避難導線も……
最低限なら……
私たちで……」
関守博士は、
蓮を見た。
「……君は……
もう“切り札”じゃない」
一拍。
「……“最後の手段”だ」
蓮は、
深く頷いた。
「……それで……
十分です」
■ 孤立ではない
その夜。
街の遠くで、
微かな異変が起きる。
影性反応――
低レベル。
だが、
確実に。
志乃が、
蓮を見る。
「……行く?」
蓮は、
静かに立ち上がった。
「……公式じゃなくても……
呼ばれてなくても……」
白銀の気配が、
足元に集まる。
「……俺は……
立つ」
フェンリルの声が、
重なる。
《……共ニ……》
■ 新しい立ち位置
蓮は、
もう“象徴”ではない。
管理される存在でも、
認可された守護者でもない。
だが――
選び続ける存在になった。
誰に命じられず、
誰にも縛られず。
それでも、
人のそばに立つ。
その在り方は、
不安定で、
危うくて。
だからこそ――
本物だった。
遠くの空で、
雲が歪む。
次は、
影か。
それとも――
人か。
――第31章・終。




