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◆ 第3章 ― 兆し、白銀の記憶 ―

 朝焼けが薄い雲を染める。

 昨日の戦闘で粉塵に覆われた街は、

 まだ完全に息を吹き返してはいなかった。


 E.O.D臨時ベースとなった市庁舎前広場では、

 応急テントが立ち並び、隊員たちが忙しなく走り回る。


 蓮はその中心にある医療ブースで目を覚ました。


 鈍い痛みが全身を走り、

 腕には点滴。

 胸の奥ではまだ、あの“地響きのような鼓動”が微かに残っていた。


 視界に入ったのは、

 白い医療服を着た女性――E.O.D医療班の 志乃しの だった。


「……あ、起きたのね。蓮くん。

 意識を失ってから六時間よ」


「六時間……そんなに……」


「身体の表面に目立った外傷はないけれど、

 筋肉繊維が極度に疲労してるわ。

 まるで“巨大な荷重を受けた”みたいにね」


 蓮の心臓が小さく跳ねた。


(巨大な荷重……

 フェンリルとして戦っていた時の……?)


 志乃は蓮の表情から何かを察したのか、

 ふっと眉を寄せた。


「蓮くん。あなた……何があったの?」


「……えっと……」


 言葉が喉につかえる。

 話すべきなのか――

 話せばどうなるのか。


 蓮自身にも分からない。


 そこへ、ゆっくりカーテンが開く。


「目を覚ましたか、蓮」


 現れたのは 玲奈司令官 だった。

 完璧な軍服姿のままだが、疲労の色を隠し切れていない。


「昨日の巨獣……“銀狼”と呼ぶべきか。

 あれが災獣ラガンを撃退した。

 そして――

 お前が現場で倒れていた」


 静かな声。

 だがその奥には、確かな緊張があった。


「蓮、お前はあの巨獣と何か関わりがあるのか?」


 蓮は息をのむ。

 嘘はつけない。

 だが、すべてを言っていいのかもわからない。


 その時――

 蓮の胸の奥がふっと温かくなった。


(……言わなくていい……

 まだ……時じゃない……)


 あの低い声。

 地球の意思。


 蓮はわずかに息を吸い、

 慎重に言葉を選んだ。


「……すみません。

 自分でも、何が起きたのかわからないんです。

 ただ……気づいたら災獣が倒れていて……

 僕も意識を失っていました」


 玲奈は蓮の瞳をじっと見つめる。

 嘘を見抜く眼だった。


 だが彼女は、それ以上追及しなかった。


「……分かった。

 だが蓮、君は当面、

 “重要保護対象”として扱う」


「えっ……!?」


「昨日の巨獣が現れた地点に、

 君が居合わせていたことは偶然と言い切れない。

 もう少し詳しい検査が必要だ」


 蓮は反論できなかった。

 むしろ自分が一番、

 “何が起きたのか知りたい”のだ。


 玲奈は蓮の肩に手を置いた。


「安心しろ。

 君を拘束するつもりはない。

 ただ――また同じことが起きた時、

 私たちも対応できる準備が必要なんだ」


 その言葉には、

 司令官としての冷静さと、

 一人の人間としての優しさが共存していた。


 蓮は静かに頷く。


「……はい」


 ■ リエナの足跡


 同じ頃、

 街から2キロ離れた廃ビルの屋上。


 白銀の狼と少女――リエナが、

 街の方向を静かに見つめていた。


 風に揺れる白い髪。

 狼の瞳は、まるで蓮の姿を追うように細められている。


 リエナがぽつりと呟く。


「……フェンリルを呼び起こすなんて。

 あなた、やっぱり“選ばれた子”なんだね」


 白銀の狼が小さく鼻を鳴らす。


「ええ、大丈夫。

 あの子は壊れたりしないよ。

 むしろ……もっと強くなる。

 だって――

 地球の意思が、ようやく目覚め始めてるんだから」


 言葉の途中で、

 リエナの首元に吊るされた古い飾り玉がちらりと揺れた。


 その瞬間、

 都市の遠方――深い森の奥から、

 重々しい“何か”の鼓動が響いた。


 ドン……ドン……ドン……


 リエナの表情がわずかに曇る。


「……次の災獣が動き出した。

 今度は“人間の街”を狙ってる……」


 狼が低く呻く。


「分かってる。

 でも、私たちだけじゃもう止められない」


 リエナは街の方角を見つめる。


「――蓮。

 次は、あなたの力が必要になる」


 ■ 蓮の“共鳴”


 蓮は医療ベッドの上で深呼吸した。

 胸の奥の鼓動がまた強まっている。


(フェンリル……

 あれは……本当に俺なのか?

 なんで俺が……)


 すると胸の奥から、

 あの声が再び響いた。


 《……呼ぶ……

 また……災いが来る……》


(災い……?)


 《……“地”は傷つき……

 “瘴”が満ち……

 獣が……目覚める……》


 朧げな言葉。

 だが確かな危機の予感。


 蓮は思わずベッドから身を起こした。


 その瞬間だった。


 ――ズゥゥゥン!!


 大地の奥から鈍い振動が走る。

 医療ブースの機器が一斉に揺れ、

 隊員たちが駆け込んでくる。


「司令! 南西森林帯で異常振動を確認!」

「地殻熱反応が急上昇! 災獣出現の可能性大です!」


 玲奈司令官が振り向きざまに叫ぶ。


「全隊、戦闘準備!

 空挺、装甲隊、緊急出動!」


 蓮の胸の奥で、

 鼓動が爆ぜるように鳴った。


(また……来る……!)


 志乃が蓮の肩を掴んだ。


「蓮くん!? まだ安静に――!」


「……行かないと……」


 蓮は震える足で立ち上がる。


 たとえまだ自分が何者なのか分からなくても――

 たとえ恐ろしくても――

 あの街を、誰かを犠牲にしたくない。


 その瞬間、

 地鳴りがさらに強くなる。


 ――大地の奥から、巨大な何かが“目覚めた”。


 蓮の鼓動と、大地の脈動が共鳴し始めた。


(来る……!

 あれが……災獣……!)


 蓮は走り出した。

 自分でも理解できない衝動に突き動かされて。


 “ビースト・フェンリル”が、

 再び呼ばれようとしていた。


 ――第3章・完。

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