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第21章 ― 不完全なる顕現、白銀の咆哮 ―

 警報が、

 E.O.D本部全域に鳴り響いた。


「――災獣反応、急増!!

 都市圏外周、同時多発出現!!」


 オペレーターの声が重なり、

 ホログラム上に赤い警告が次々と点灯する。


 玲奈司令官は即座に指示を出した。


「スカイ・パレット、全機発進。

 市民避難を最優先。

 ――蓮くんは?」


 医療ベッドの上で、

 蓮はゆっくりと上体を起こしていた。


 胸の奥が、

 熱を帯びている。


 いや――

 鼓動そのものが、重く、強い。


 志乃が駆け寄る。


「蓮!

 まだ動いちゃ――」


 蓮は志乃の手をそっと握り、

 小さく首を振った。


「……大丈夫。

 今までと……違う」


 関守博士がモニターを見て息を呑む。


「脳波と共鳴波形が……

 フェンリルの残響と……

 “部分的に同期”している……!」


 蓮は立ち上がった。


 足元が揺れる感覚はない。

 だが――

 地面のほうが、蓮に合わせている。


(……来てる)


 胸に手を当てると、

 白銀の鼓動が応えた。


 《……蓮……

 時間ハ……長クナイ……》


 フェンリルの声。

 以前よりも、はっきりと。


「わかってる」


 蓮は深く息を吸い、

 志乃を見た。


「志乃……

 今回は……

 “完全”じゃない」


 志乃は一瞬だけ不安そうな顔をしたが、

 すぐに頷いた。


「……それでも。

 あなたが行くなら……

 私は、信じる」


 蓮は微笑み、

 出口へ向かう。


 ■ 災獣の進軍


 都市外縁部。


 灰色の雲の下、

 三体の災獣が地面を踏み砕いていた。


 融合型。

 爬虫類の外殻、

 獣の脚、

 昆虫の複眼。


 ――初期の“災獣”より、

 明らかに統制が取れている。


 矢守が叫ぶ。


「くそっ……!

 動きが連携してやがる!!

 まるで……指揮されてるみたいだ!」


 上空で、

 影が揺らいだ。


 人型のシルエットが、

 雲間に浮かぶ。


 ――侵攻段階、開始。

 器ノ反応……確認。


 アバターズ。

 影側は、

 すでに“次の局面”へ進んでいた。


 ■ 部分顕現


 蓮は、

 瓦礫の広がる空き地に立った。


 災獣が、

 こちらに気づく。


 咆哮。

 大地が震える。


「蓮!!

 まだ巨大化反応は――」


 無線を遮り、

 蓮は静かに言った。


「……来い、フェンリル」


 空が、

 低く唸った。


 白銀の光が、

 蓮の足元から立ち上る。


 だが――

 以前のような“爆発的変化”ではない。


 光は、

 絡みつくように、形を作っていく。


 骨格が引き延ばされ、

 筋肉が重なり、

 皮膚の上に白銀の体毛が現れる。


 一本角。

 牙。

 尾。


 だが――

 完全な獣ではない。


 顔には、

 人の面影が残り、

 瞳は理性を宿したまま。


 身長、約四十メートル。


 ――ビースト・フェンリル(不完全顕現)。


 矢守が言葉を失う。


「……人……

 なのか……?」


 志乃が呟いた。


「……蓮……」


 白銀の巨体が、

 ゆっくりと息を吸う。


 《……蓮……

 今ノ俺ハ……

 オ前ト半分ダ……》


「それでいい」


 ビーストは、

 拳を握った。


「一緒に戦う」


 ■ 白銀の戦闘


 災獣が突進する。


 ビースト・フェンリルは、

 正面から受け止めた。


 ドンッ!!


 衝撃が走る。


 だが――

 以前のような圧倒的な力ではない。


 押し合い。

 殴り合い。


 牙で噛みつき、

 拳で叩き、

 尾で薙ぐ。


 神獣同士の、原始的な戦い。


 《……蓮……

 力ヲ……使イ過ギルナ……》


「わかってる……!」


 ビーストは踏み込み、

 災獣の顎を打ち上げる。


 もう一体が背後から襲いかかるが、

 スカイ・パレットの援護射撃が炸裂する。


「今だ、蓮!!」


 ビーストは吼え、

 地面を踏み抜いた。


 白銀の衝撃波が走り、

 災獣が吹き飛ぶ。


 だが――

 その瞬間。


 蓮の視界が、

 一瞬だけ暗転した。


(……っ)


 《……無理スルナ……》


「……まだだ……!」


 ビーストは膝をつきかけ、

 なんとか踏みとどまる。


 不完全。

 制限付き。


 ――これが、代償。


 最後の災獣が撤退するように後退し、

 影が空へ溶けていく。


 ――確認。

 器ハ……

 “未完成ノ段階”ニ到達。


 雲が閉じ、

 戦場に静寂が戻った。


 ■ 戻る場所


 白銀の光が、

 静かに消えていく。


 巨体は縮み、

 蓮は地面に膝をついた。


 志乃が駆け寄る。


「蓮!!」


 蓮は荒い息を吐きながら、

 笑った。


「……ちゃんと……

 戻れた……」


 志乃は涙をこぼしながら、

 強く頷いた。


「……うん……

 おかえり……」


 胸の奥で、

 白銀の鼓動が、

 弱く、だが確かに鳴っていた。


 フェンリルは、

 まだ完全ではない。


 影は、

 本格的に動き出した。


 それでも――

 蓮は立っている。


 人として。

 守護獣と並ぶ者として。


 ――戦いは、

 新たな局面へ入った。


 ――第21章・終。

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