表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/41

第20章 ― 代償の刻、白銀の欠片 ―

 境界が、悲鳴を上げた。


 空が裂け、

 霧が逆流し、

 白銀と黒が渦を巻いて衝突する。


 蓮の身体から放たれた光は、

 眩いほど強い――

 だが、安定していなかった。


「っ……!」


 胸を押さえ、蓮は膝をつく。


 白銀の火花が、

 血管のように全身を走り、

 “人の形”を内側から壊そうとする。


 審判者が、

 冷たく告げた。


 ――第三ノ選択ヲ選ンダ代償ダ。

 汝ハ……

 人ト守護獣ノ“境界”ヲ失イ始メテイル。


 フェンリルが、

 鎖に繋がれたまま吼えた。


 《――やめろォォ!!

 蓮ハ……

 俺ノタメニ……!!》


 鎖がさらに軋み、

 一本が――砕け散った。


 白銀の欠片が宙を舞い、

 蓮の胸へ吸い込まれる。


 その瞬間。


 蓮の視界に、

 “二つの世界”が同時に映り込んだ。


 ――境界に囚われるフェンリル。

 ――現実世界のE.O.D本部。

 ――苦しげに横たわる自分の身体。


「……え……?」


 現実世界――

 医療区画。


 警告音が鳴り響く。


「脳波異常!!

 精神負荷、限界値超過!!」


 関守博士が叫ぶ。


「まずい……!

 蓮くんの“自我境界”が崩れ始めている!!」


 志乃がモニターに駆け寄る。


「蓮!!

 お願い……戻って……!!」


 だが、蓮の意識は、

 境界に縛られたままだった。


 ■ 境界の代償


 境界世界。


 蓮は立ち上がろうとするが、

 身体が“重い”。


 いや――

 重さの感覚が、曖昧になっている。


(……俺……

 ちゃんと……人間のまま……?)


 審判者が続ける。


 ――代償ハ、段階的ダ。

 第一段階……

 汝ハ、完全ナ人ノ枠ヲ失ウ。


「……それが……

 どうした……」


 蓮は、

 ふらつきながらも前を向いた。


「俺は……

 人か獣かなんて……

 そんな区別で守ってきたわけじゃない……!」


 その言葉に、

 フェンリルの瞳が揺れる。


 《……蓮……

 オ前ハ……

 強すぎる……》


「違う」


 蓮は、

 ゆっくりと首を振った。


「怖いよ。

 全部……怖い。

 戻れなくなるのも……

 忘れられるのも……」


 声が震える。


「でも……

 お前を見捨てるほうが……

 もっと怖いんだ」


 その瞬間。


 蓮の背後に、

 白銀の影が現れた。


 狼の輪郭。

 だが、完全なフェンリルではない。


 半分は人、

 半分は獣。


 ――“共鳴体”。


 審判者が一歩退く。


 ――……代償ガ……

 変質シテイル……?


 フェンリルが、

 初めて笑ったように見えた。


 《……蓮……

 オ前……

 俺ト……

 同ジ所ニ立ッテイル……》


「やっと……

 並べた気がするよ」


 ■ 部分解放


 鎖が、

 二本、三本と砕ける。


 だが――

 すべては壊れない。


 フェンリルの身体は、

 まだ半分以上が影に囚われていた。


 審判者が告げる。


 ――完全解放ハ……不可。

 現時点デ許サレルノハ……

 “部分解放”ノミ。


 蓮は頷いた。


「……それでいい。

 今は……それでいい」


 フェンリルの身体から、

 白銀の光が剥がれ落ち、

 蓮の中へ流れ込む。


 激痛。


 だが――

 それ以上に、温かさがあった。


 《……蓮……

 この力ハ……

 貸ス……

 ダガ……》


「わかってる」


 蓮は息を整えながら言う。


「俺が使うんじゃない。

 一緒に使う」


 白銀の影が、

 蓮の背に溶け込む。


 ■ 現実世界の異変


 E.O.D本部上空。


 突如、

 雲が渦を巻き、

 白銀の光柱が一瞬だけ立ち上った。


 矢守が叫ぶ。


「なんだ今の……!?」


 玲奈司令官が、

 静かに呟く。


「……“部分顕現”。

 蓮くんは……

 戻ろうとしている」


 医療区画。


 蓮の身体が、

 大きく息を吸い込んだ。


「……っ!」


 モニターが安定する。


「脳波回復!!

 ただし……

 パターンが……人間のものじゃない……」


 志乃が、

 涙を浮かべて笑った。


「……いい……

 生きてるなら……」


 ■ 境界の別れ


 境界世界。


 フェンリルは、

 鎖に繋がれたまま、

 蓮を見つめる。


 《……蓮……

 戻レ……

 今ハ……

 ここマデダ……》


 蓮は、

 名残惜しそうに頷いた。


「絶対……

 迎えに来る」


 《……待ッテイル……

 相棒……》


 境界が、

 光に包まれる。


 蓮の意識は、

 引き戻されていった。


 ■ 目覚め


 蓮は、

 ゆっくりと目を開けた。


 白い天井。

 消毒の匂い。


 志乃が、

 すぐそばにいた。


「……蓮……?」


 蓮は小さく笑う。


「……ただいま」


 志乃は、

 声を上げて泣いた。


 その胸の奥で――

 白銀の鼓動が、

 確かに脈打っていた。


 フェンリルは、

 まだ囚われている。


 だが――

 繋がりは、失われていない。


 戦いは、

 次の段階へ進んだ。


 ――第20章・終。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ