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◆ 第2章 ― 銀狼の咆哮、災獣の影 ―

 フェンリルの咆哮が空を裂いた瞬間、

 砂塵が一斉に吹き飛び、周囲の大地が揺れた。

 衝撃波は災獣ラガンに直撃し、

 瓦礫のような体表から岩片が剥がれ落ちる。


「な、なんだ……あの巨獣……!」


 E.O.D装甲車の中で、隊員たちが叫んだ。

 誰も見たことのない存在。

 災獣でも、既知の生物でもない。


 銀の毛並み、獣人の骨格、

 額で輝く一本角。

 大地そのものが共鳴しているかのような足取り。


 指揮通信が一斉に飛び交う。


「総員、後退! 巻き込まれるぞ!」

「空挺部隊は上空待機を維持!  攻撃許可は出すな!」

「災獣より――いや、あの巨獣に警戒を……!」


 玲奈司令官が状況を見つめる。

 表情は冷静だったが、彼女の胸にも“未知”への恐怖が走っていた。


「……あれは災獣ではない。

 だが……何者?」


 問いに答えられる者は誰もいない。


 だが、その答えを知る者がただ一人いた。


 白銀の狼を従えた少女――リエナ。


 彼女は大地に膝をつき、静かに巨獣を見上げていた。

 その横顔に恐れはなく、むしろ慈しみのような光があった。


「……フェンリル。

 大地の守り手……目覚めたんだね」


 白い狼がリエナの足元で静かに吠え、尻尾を揺らした。


 ■ 災獣ラガンとの初戦


 フェンリルは災獣へ向かって歩み出す。

 その動きだけで地面が震え、

 砂の粒がふわりと浮かび上がる。


 ラガンが咆哮し、

 巨体を持ち上げて突進してきた。


 ゴオオオオオッ――!!


 フェンリルは一歩、踏み込んだ。

 足元から白銀の光が走り、

 大地が鳴動する。


 《ギィアアアアアッ!!》


 互いの咆哮がぶつかり合い、

 衝撃の余波が風となって巻き起こる。


 ラガンの岩腕が横薙ぎに振り下ろされる。


 ドゴォッ!!


 だがフェンリルは体をひねり、その爪で受け止めた。

 火花のような白い粒子が散る。


 蓮の意識が、フェンリルの中で揺れていた。


(――重い……!

 けど、引けない……!

 このまま暴れられたら……街が……!)


 すると、もうひとつの声が重なる。


 《……守りたいのは……同じ……》


 地球の意思のような声。

 低く、深く、優しい響き。


(……ああ、分かってる……!)


 フェンリルの胸が脈打ち、

 角が淡く輝く。


 リエナが小さく呟いた。


「地脈が……反応してる……」


 次の瞬間、

 フェンリルが雄叫びを放つ。


 《ビオォォオオオオオ!!》


 衝撃波が放たれ、

 ラガンの岩体を押し返した。

 巨体がたたらを踏み、地面をえぐる。


 フェンリルは跳躍し、

 白銀の尾が弧を描く。


 ――風が唸り、岩片が舞い散る。


 ラガンの頭部を尾が叩きつけ、

 巨獣は大地へ沈んだ。


 砂煙の向こうで、

 フェンリルは姿勢を低くし、

 喉の奥で低い唸り声を響かせた。


 《……グルゥゥ……》


 災獣は苦悶の声を上げ、

 体を震わせ――

 やがて、黒い泥のような霧を放ちつつ崩れ落ちた。


 ラガンは完全に沈黙した。


 ■ フェンリルの影、蓮の目覚め


 災獣が倒れると同時に、

 フェンリルの周囲に漂っていた白銀の粒子が薄れ、

 巨体が淡く揺らぎ始めた。


 蓮の意識が浮上する。


(……消える……?

 身体が……戻る……)


 地球の意思の声が静かに囁いた。


 《……守りたい……願い……それが共鳴……

 また……呼ぶ……》


(……また……?)


 意識が途切れる直前――

 フェンリルの視界にリエナが映った。


 彼女は悲しげでもなく、恐れてもいない。

 ただ、どこか知っている者だけが見せる表情で、

 フェンリルを見つめていた。


「……おかえり、フェンリル」


 光が弾ける。


 白銀の巨獣はほどけ、

 蓮の身体が地面へ崩れ落ちるように戻った。


 蓮が目を開けると、

 視界に少女の姿がぼんやりと映った。


 白銀の狼が隣に立ち、

 その瞳で蓮をじっと見下ろしている。


「君……は……」


 蓮が言いかけた瞬間――

 E.O.Dの装甲車が横へ滑り込んできた。


「蓮ッ!! 無事かッ!?」

 隊長が蓮を抱きかかえるように引き起こす。


 蓮はかすかに頷きながら、

 少女の姿を探すが――

 すでに彼女は、白銀の狼とともに

 霧のように消えていた。


 ただ、大地の奥で微かに響く。


 ――ドン……ドン……ドン……


 蓮の胸の奥に、

 あの巨大な脈動だけが残っていた。


「フェンリル……

 あれは……一体……」


 蓮が呟くと、

 隊長が息を飲んだ。


「フェンリル……?

 おい蓮、それは何だ?

 巨獣の名前か?」


 蓮は答えられなかった。


 答えられるほど、自分自身も分かっていなかった。


 ただひとつだけ確かだった。


 ――自分の内側に眠る何かが、確実に動き始めている。


 それは、

 蓮と地球を結ぶ“巨大な宿命”のはじまりだった。


 ――第2章・完。

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