表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/41

第17章 ― 白銀の残響、影の階級 ―

 災獣〈グローム・ブルート〉の巨腕が、

 蓮の頭上へ振り下ろされた――その瞬間。


 カァン――!!


 金属がぶつかるような、

 だがどこか澄んだ音が響いた。


 衝撃波が四方へ広がり、

 地面が円状に抉れる。


 蓮は、

 確かに“叩き潰された”はずだった。


 ……だが、痛みは来なかった。


「……え?」


 目を開けると、

 自分の前に――薄く揺らめく白銀の壁が立っている。


 それは、完全なフェンリルの姿ではない。


 半透明で、

 輪郭だけを残した“白銀の残響”。


 矢守が無線で叫ぶ。


「な、なんだあれ……!?

 フェンリルの……残像……?」


 志乃が息を呑む。


「……蓮を……守ってる……?」


 白銀の壁は、

 災獣の腕を弾き返し、

 その勢いで災獣がよろめいた。


 蓮は呆然としながら、

 胸に手を当てる。


(……今の……俺の力じゃない……

 でも……フェンリル……!)


 白銀の残響が、

 わずかに揺れ、

 蓮の意識に直接語りかけてきた。


 《……蓮……

 完全な力じゃねぇ……が……

 まだ……繋がってる……》


 蓮の喉が震える。


「フェンリル……!

 生きてる……無事なんだな……!」


 《……ああ……

 だが……俺は今……

 “境界の狭間”に……》


 蓮は歯を食いしばる。


(境界の……狭間……?)


 その時――

 空間が、歪んだ。


 白銀の残響の向こう側、

 空気が溶けるように黒く揺らぎ、

 “影”が現れる。


 人型。


 背は高く、

 全身を黒い外套に包み、

 顔は仮面で覆われている。


 だが――

 これまでの“影”とは、

 明らかに格が違った。


 志乃が震える声で言う。


「……あれ……

 今までの……“触れ手”じゃない……」


 影は静かに歩み出る。


 足音はない。

 影が影を踏むだけ。


 ――白銀ノ残響……。

 マダ……繋ガッテイタカ。


 その声は、

 蓮の頭の中に直接響いた。


 蓮は前に出る。


「お前……誰だ」


 影は首を傾ける。


 ――我ハ“階”。

 アバターズ第二位階層――

 《調停者モデレーター》ト呼バレル。


 矢守が呻く。


「……階級……だと……?」


 調停者は白銀の残響を一瞥し、

 淡々と告げた。


 ――フェンリルハ……拘束完了寸前ダ。

 影ノ連鎖ハ……既ニ半分、完成シテイル。


 蓮の心臓が強く打つ。


「……嘘だ」


 ――真実ダ。

 白銀ノ守護獣ハ……

 “器”ノ覚悟次第デ、完全ニ堕チル。


 志乃が叫ぶ。


「やめて!!

 蓮を……これ以上追い詰めないで!!」


 調停者は志乃を一瞬見た。


 ――情緒的要素……不要。

 器ノ安定性ヲ……試シテイルダケダ。


 蓮の怒りが爆ぜる。


「試す……だと……!?

 人の心を……守護獣を……

 実験みたいに扱うな!!」


 調停者は静かに言った。


 ――感情ハ……干渉ノ鍵。

 オ前ノ怒リ、恐怖、執着……

 全テ……影ノ栄養トナル。


 蓮は息を呑む。


(だから……俺が揺れるたびに……

 影が強くなる……!)


 白銀の残響が揺れ、

 フェンリルの声が苦しげに響いた。


 《……蓮……

 聞ケ……

 俺ヲ……助ケル方法ガ……アル……》


「何だ!?

 どうすれば……!」


 《……影ハ……

 境界ノ狭間ニ……“いかり”ヲ……

 打チ込ンデイル……》


 調停者が初めて、

 わずかに反応を見せた。


 ――……余計ナ事ヲ。


 フェンリルの声が続く。


 《……錨ヲ……壊サナケレバ……

 俺ハ……戻レナイ……》


 蓮の目に、

 確かな光が宿る。


「……行く。

 俺が……その“境界”に行く」


 志乃が振り向く。


「蓮!?

 何言ってるの!?

 そんな場所……!」


 蓮は志乃を見て、

 静かに微笑んだ。


「志乃。

 俺は……守られるだけじゃ、ダメなんだ。

 今度は……俺が、フェンリルを守る」


 調停者が低く告げる。


 ――境界ヘノ侵入ハ……

 器ノ崩壊ヲ意味スル。


 蓮は迷わず答えた。


「それでもいい」


 その言葉に、

 白銀の残響が強く輝いた。


 《……蓮……

 覚悟、決マッタナ……》


 蓮は頷く。


「お前を助ける。

 絶対に」


 調停者は一歩後退し、

 影の中へ溶けるように消えた。


 ――次ハ……“審判者”ガ出ル。

 ソレマデ……器ヲ……磨ケ。


 空間が元に戻り、

 白銀の残響もゆっくりと消えていく。


 災獣は撤退し、

 戦場には静寂が戻った。


 志乃が蓮に駆け寄る。


「蓮……無茶すぎるよ……」


 蓮は志乃の手を握った。


「怖いよ。

 でも……行かなきゃ。

 フェンリルは……俺の“半身”だから」


 志乃は目を潤ませ、

 小さく頷いた。


「……わかった。

 一緒に……帰ってきて」


 蓮は空を見上げた。


(待ってろ……フェンリル。

 必ず……助け出す)


 その胸の奥で、

 白銀の火花が、確かな炎へ変わり始めていた。


 ――第17章・終。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ