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第16章 ― 白銀なき戦場、吠えられぬ守護 ―

 災獣〈グローム・ブルート〉が

 鋼のビルを蹴り倒し、

 地響きを立てて進んでいく。


 街が揺れ、

 瓦礫と黒い瘴気が空を満たした。


 E.O.Dの戦闘機「スカイ・パレット」が

 一斉に災獣へ攻撃を仕掛ける。


「全砲門、発射!!」


 砲火が災獣へ直撃し、

 装甲が一部砕け散る。

 だが、致命傷には程遠い。


 矢守の焦った声が無線に響く。


「ダメだ……! 有効打になってねぇ!!

 ビーストの援護がないと押し切れないぞ!」


 だが――

 肝心の蓮は変身できず、

 後方で膝を抱えるように座っていた。


 志乃が蓮に駆け寄り、

 必死に肩を支える。


「蓮……! 立って!

 今、あなたがいないと――!」


 蓮は震える腕で地面を握りしめた。


「……わかってる……

 わかってるんだよ……志乃……

 俺が戦わなきゃいけないのに……

 なんで……!」


 拳を地面に叩きつける。


 しかし白銀の光は起き上がらない。


 あれほど近くに感じた

 “フェンリルの気配”が、

 今はまるで霧の向こうに消えたように

 遠く、弱く、ぼやけている。


(フェンリル……

 どこにいるんだよ……!

 昨日のあの“鎖”は……!)


 胸の奥の黒い脈だけが

 温度を持って脈打つ。


 志乃は蓮の頬に触れ、

 震える声で言った。


「蓮……あなた一人のせいじゃない。

 フェンリルが沈黙してるんだもの……

 きっと理由がある……!」


 蓮は顔を伏せた。


「……聞こえないんだ。

 俺の声も、想いも……

 全部……届かない……」


 志乃が言う。


「……なら、届くところまで行こうよ。

 あなたがあきらめたら……

 フェンリルは、本当に戻ってこなくなる」


 蓮は息を呑む。


 志乃の瞳は涙で揺れながらも、

 真っ直ぐに蓮を見つめていた。


(俺が――あきらめたら、終わりだ)


 蓮は震える脚に力を込め、

 立ち上がった。


 しかし、

 次の瞬間。


 災獣がスカイ・パレットを薙ぎ払い、

 巨大な瓦礫が蓮と志乃めがけて崩れ落ちた。


「危ない!!」


 志乃を庇いながら、蓮は身を伏せる。


 爆風が吹き抜け、地面が裂ける。


 玲奈司令官の叫びが響く。


「蓮! 志乃!!

 誰か援護に――!」


 直後、

 アヤメが半身を包帯で固めたまま

 銃を抱えて飛び込んでくる。


「蓮くん、志乃!!

 下がって!!」


 アヤメが撃った弾丸が、

 災獣の足に突き刺さる。


 だが災獣は傷をものともせず、

 そのまま蓮の方へ猛然と突進してきた。


 志乃が蓮にしがみつく。


「いやっ……!!

 蓮、逃げて!!」


 蓮は動けなかった。


 変身もできず、力もなく、

 守るべき人を抱えたまま――


 ただ、迫る“死”を見つめるしかなかった。


(ダメだ……!

 このままじゃ……志乃もアヤメも……

 みんな……!)


 災獣の巨腕が振り下ろされる。


 蓮は叫んだ。


「フェンリル!!

 俺は……まだ戦える!!

 だから……だから力を貸してくれ!!

 返事してくれえええええ!!!」


 声は空に消えた。


 返事は――なかった。


 ……


 ……そのはずだった。


 だが、蓮の耳に

 微弱な、小さな、途切れかけの声が届いた。


 《……ぉ……れ……》


 蓮の目が見開く。


「……フェンリル!?」


 《……蓮……来ルナ……

 オレは……囚ワレ……》


 声は微弱すぎて意味が掴めない。


(やっぱり、捕まってるんだ……!

 あの黒い鎖……!

 影に囚われてる……!)


 蓮は歯を食いしばる。


「行く……

 お前のところへ絶対行く!!

 だから……負けるな!!」


 フェンリルの声が微かに揺れた。


 《……蓮……待……》


 通信が途切れた。


 蓮は震える身体で志乃を抱え、

 わずかに身をずらす。


 災獣の腕が地面を叩き、

 爆風が蓮たちを吹き飛ばした。


 アヤメが叫ぶ。


「蓮くん!!」


 蓮は地面を転がり、

 血に濡れた手で志乃を守るように抱えた。


 そして、

 立ちあがった。


「俺は……もう逃げない……!」


 矢守の声が無線に届く。


「蓮!!

 今の状態でどうする気だ!!

 変身できねぇんだぞ!!」


 蓮は短く言った。


「変身できなくても――

 俺は、守るためにここにいる。」


 志乃が目を見開く。


「蓮……」


 蓮は歩き出す。


 巨大な災獣の足元へ――

 武器もなく、光もなく、

 ただ“決意”だけを胸に。


 その姿を見て、

 玲奈司令官が呟いた。


「……なぜ、そこまで……」


 アヤメが答える。


「決まってる……。

 蓮くんは、守護獣の“器”だからじゃない。

 誰かを守りたいって……

 心の底から願う“普通の子”だからよ」


 蓮は災獣の前に立ち、

 両腕を広げる。


「来い……!

 俺はまだ終わってない!!」


 災獣が咆哮し、腕を振り上げる。


 蓮は動かず――

 ただ真っ直ぐに睨み返した。


(フェンリル……

 待ってろ。

 俺が必ず……お前を助けに行く……!)


 最後の瞬間――


 蓮の胸で、

 黒い脈が“逆方向”へ脈動した。


 黒ではなく――

 白銀へと。


(なっ……)


 胸の奥に、

 微かな白銀の火花が灯る。


 災獣の腕が蓮へ落ちる寸前――


 光が“弾けた”。


 ――第16章・終。

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