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第15章 ― 影喰らう声、失われた咆哮 ―

 E.O.D本部・地下研究区画。

 警報が鳴り響き、赤いライトが瞬いていた。


 蓮は志乃と玲奈司令官を引き連れ、

 全力で駆け込む。


 視界に飛び込んできたのは――

 壁を焦がし、床を抉り、

 黒い痕跡が広がる凄惨な部屋。


 アヤメが、

 壁にもたれるようにして倒れていた。


「アヤメ!!」


 蓮が走り寄ると、

 アヤメは肩で息をしながら笑った。


「……ごめん……蓮くん……。

 こんな時に……ドジ、踏んじゃった……」


 志乃が治療キットを取り出しながら叫ぶ。


「喋らないで!

 傷の深さが……こんな……!」


 腕と脇腹に焼け爛れたような痕。

 だが普通の火傷ではない。


 黒いもやが、皮膚の上で揺れている。


 蓮の胸が跳ねる。


(これは……俺の意識世界で見た“影”と同じ……)


 玲奈司令官が矢守に命じた。


「空間を封鎖!

 未知生命反応を探知できるまで外部から隔離しなさい!」


 矢守が即座に操作パネルを叩く。


「封鎖完了!

 でも反応……消えました!

 どうやって侵入したのか……!」


 アヤメが弱く口を開く。


「……見たんだ……。

 白い仮面みたいなのをつけた……細い影……。

 あれが“声”を吐いた瞬間、

 体が……動かなくなって……」


 蓮が息を呑む。


(まさか……あれと同じ存在……!

 アバターズの“触れ手”か……?)


 アヤメの視線が蓮に向いた。


「……蓮くん……気をつけて……。

 あいつ……“蓮くんを探してた”……」


 蓮は凍り付く。


 志乃が蓮を見る。


「どういうこと……?」


 蓮は言葉に詰まった。


(俺が……狙われている……

 “器”って言われたあの声……)


 アヤメが震える手を伸ばす。


「……大丈夫……。

 蓮くんは……負けないって……知ってるから……」


 蓮はその手を握った。


「絶対に守るよ。

 アヤメも、みんなも――俺が」


 アヤメは微笑み、目を閉じた。


 救護班が到着し、

 アヤメは急ぎ治療室へ運ばれていった。


 蓮は拳を固く握りしめる。


(あの影……次は俺を狙ってくる……)


 胸の奥で、黒い脈が震えた。


 ――器ヨ。

 サア、境界ヲ越エロ。


 蓮は胸を押さえた。


(やめろ……!)


 志乃が蓮に寄り添う。


「蓮……?」


「……何でもない。

 大丈夫だよ」


 志乃は蓮の表情の硬さに気づき、

 何も言えなかった。


 ■ フェンリルの沈黙の理由


 その夜、蓮は一人で研究区画を訪れた。


 部屋は静かで、

 微かな風の音だけが響いている。


 蓮は目を閉じ、

 フェンリルに呼びかける。


(フェンリル……聞こえるか……?

 返事してくれ……!)


 しかし――


 何も返ってこない。


 蓮は唇を噛む。


(どうして返事してくれないんだ……

 このままじゃ、守れない……!)


 胸に手を当てると、

 黒い脈がまた強く脈打った。


 蓮はその痛みに耐えながら叫ぶ。


「フェンリル!!

 俺は……お前がいないと……!」


 その瞬間――


 “かすかに揺れる白銀の光”が

 蓮の視界の端で瞬いた。


(……フェンリル!?)


 蓮の意識世界に、

 朧げな“白銀の背中”が見えた。


 しかし――

 その背中には“黒い鎖”のようなものが

 絡みついていた。


 蓮の目が見開く。


(お前……捕まってるのか……!?)


 フェンリルは振り返らず、

 ただ低い声をこぼした。


 《……蓮……来るな……。

 今の俺は……“災獣”と同じだ……》


 蓮は胸を締め付けられる。


(そんな……!

 俺を助けてくれたお前が……!)


 フェンリルの声が苦しげに震える。


 《……俺は……影に……噛まれた……。

 “あれ”は……お前を奪うために……俺を……》


 プツン。


 通信が切れるように、

 白銀の背中が消えた。


 蓮は両膝を床につき、

 拳を震わせた。


(フェンリル……!

 嘘だ……!

 お前が……苦しんでる……?)


 涙が落ちる。


 しかしその涙に、

 黒い影が寄り添うように囁いた。


 ――守護獣ハ……弱クナル。

 器ニトッテ……今ガ機。


 蓮は叫んだ。


「黙れ!!」


 だが黒い脈は嘲笑うように脈動する。


 蓮は震える手で顔を覆った。


(俺が……

 フェンリルを……苦しめてる……?)


 心の奥に、

 深い絶望が沈んでいく。


 ■ “変身不能”という最悪の事態


 翌朝、

 新たな強力災獣が出現した。


 玲奈司令官の声が基地に響く。


「全隊緊急出動!

 蓮、すぐにビースト化の準備を!」


 蓮は走りながら胸に手を当てた。


(いける……はずだ……

 絶対に……!)


 現場に到着し、災獣が咆哮する。


 蓮は深呼吸し、

 強く叫んだ。


「――ビースト化!!」


 白銀の光が、

 背中から弾けるように立ち上がる――


 ――はずだった。


 だが。


 蓮の体は、

 何も変化しなかった。


 志乃の声が震える。


「れ……蓮?

 どうして……?」


 蓮は愕然とし、

 膝をつく。


(嘘だ……

 フェンリル……!

 返事してくれ……!!)


 胸の奥で黒い脈だけが、

 不気味に脈打った。


 災獣が蓮へ向かって走り出す。


 矢守が叫ぶ。


「蓮を援護!

 まだビースト化できないぞ!!」


 玲奈司令官の声が響く。


「全隊、蓮を守れ!!」


 志乃が蓮を抱き寄せる。


「蓮……蓮!!

 しっかりして!!

 あなたは……ビースト・フェンリルなんでしょう!?

 立って……!!」


 蓮の胸が痛む。


(フェンリル……

 俺は……どうしたら……)


 その奥で、また囁きが笑った。


 ――変身ハ、影ノ許シガ要ル。

 白銀ハ拘束サレタ。

 次ハ……器ノ番ダ。


 蓮は震えながら叫んだ。


「ふざけるなあああああ!!」


 しかし、

 白銀の光は戻ってこなかった。


 ――第15章・終。

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