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第14章 ― 影の痕、白銀の痛み ―

 蓮が暴走寸前の状態から救い戻された翌朝。

 E.O.D本部・医療区画は、

 普段にない緊張感に包まれていた。


 天井のライトが白く光り、

 金属の匂いが薄く漂う。


 蓮はベッドの上に座り、

 簡易モニターに繋がれた右腕をぼんやり眺めていた。


 志乃が隣で腕を組む。


「……蓮、本当に大丈夫?」


 蓮は微笑もうとしたが、

 うまくいかなかった。


「志乃が呼んでくれたから戻れたよ。

 でも……胸の奥のあれは、まだ……」


 右胸の中心で、

 黒い脈のような痛みがわずかに脈動する。


 志乃は眉を寄せた。


「また……鳴ってるの?」


「うん。

 正確には……うずく、って感じかな」


 志乃は蓮の腕を掴んだ。


「蓮、絶対に一人で抱えないで。

 昨日みたいに急に倒れたら、私……」


 声が震え、

 蓮はそっと彼女の手を握った。


「大丈夫。

 もう約束しただろ」


 志乃は小さく頷いた。


 その時、医療室のドアが開き、

 白衣を着た鷹守博士が入ってきた。


「蓮くん、準備ができた。

 詳しい検査に移るぞ」


 志乃が立ち上がった。


「私も行きます」


 鷹守は一瞬だけ志乃を見て、

 苦笑した。


「……止めても無駄だろうな。

 好きにしなさい」


 ■ 深層スキャン ― “黒い影”の痕跡


 蓮は巨大なフレームに横たえられ、

 全身を包むように光のリングが起動する。


 鷹守博士がモニターを操作しながら呟く。


「……ここまで強い反応は初めてだ。

 ビースト化の負荷……いや、それだけじゃないな」


 志乃が不安そうにモニターを覗き込む。


「博士……蓮の体に、何が?」


 鷹守は眉をひそめて言った。


「……“黒い影”だ。

 昨日、蓮くんの意識を蝕んだ何か。

 あれの残滓が、体の中に微細に残っている」


 蓮は息を呑む。


(やっぱり……あれはただの幻じゃなかったんだ)


 志乃は震える声で問う。


「蓮に……危害は?」


 鷹守はすぐに答えられなかった。


 沈黙の後で、ゆっくり言った。


「……放っておけば、蓮くんを“向こう側”へ引きずる可能性がある」


「向こう側?」


「つまり……“アバターズの領域”だ。

 蓮くんはフェンリルと共鳴している分、

 あちらからすれば“侵入口”になりやすい」


 志乃の表情が蒼白になる。


 蓮は、ゆっくりと瞼を閉じた。


(俺が……アバターズの囁きを呼び込んでる……?

 だったら、フェンリルにも……)


 胸がざわついた。


 ■ フェンリルの沈黙


 検査が終わり、

 蓮は一人、外の空気を吸うために屋上へ出た。


 風が頬を撫でる。


 だがその風の奥――

 蓮の意識の深層に、

 いつもなら感じるはずの“白銀の気配”がなかった。


「……フェンリル?」


 呼びかけても反応がない。


 蓮は胸を押さえる。


(まるで……遠くへ行っちゃったみたいだ)


 その時、

 背後から玲奈司令官の声がした。


「蓮くん。

 ここにいたのね」


 蓮が振り返ると、

 玲奈司令官が珍しく柔らかい目でこちらを見つめていた。


「……フェンリルと、繋がらないんです」


 玲奈は静かに頷いた。


「暴走しかけたのは、蓮くんだけじゃない。

 フェンリルも……“痛んでいる”。

 地球の意思を背負う存在だからこそ、

 黒い影の干渉は深いのかもしれない」


 蓮は拳を握る。


「俺が弱かったから……?」


「違うわ」


 玲奈はきっぱりと言った。


「蓮くんが弱ければ、戻れなかった。

 志乃の声が届いたのも、

 あなたが“戻りたい”と強く願ったからよ」


 蓮は目を伏せる。


「……でも、フェンリルは?」


 玲奈は蓮の肩に手を置く。


「彼はきっと戻ってくる。

 地球の守護獣は、そう簡単には折れないわ」


 蓮は小さく息を吸った。


(フェンリル……戻って来てくれ)


 だが――

 その願いに反するように。


 蓮の胸の奥で、

 黒い脈が“トクン”と強く鼓動した。


 ――器ハ……育ツ。

 器ニハ……影ガ必要ダ。


 蓮の背筋を冷たい汗が伝う。


(また……聞こえた……)


 その時、志乃が走って屋上へ駆け上がってきた。


「蓮!!

 大変、アヤメが……!」


 蓮は振り返る。


「アヤメが? どうしたの?」


「さっき……未知の“影”に襲われて……!」


 蓮の胸の黒い脈動が、

 まるで“笑うように”震えた。


 蓮の顔色が変わる。


(まさか……あれが……アヤメを……?)


 玲奈が叫んだ。


「蓮、行くわよ!

 チームを集めて現場へ向かう!」


 蓮は即座に駆け出した。


 胸の黒い脈は、

 まるで何かを知っているように

 不気味に脈打ち続けていた。


 ――第14章・終。

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