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第13章 ― 白銀の深層、黒き囁きの正体 ―

 重災獣との戦闘は、

 一瞬で“異常事態”に変わった。


 白銀の巨獣――フェンリルは

 急激に動きが荒れ、

 まるで何かに追い立てられる獣のように

 牙を剥き始めた。


 その目の奥には、

 白銀の輝きとは違う“闇色の揺らぎ”がある。


 玲奈司令官が叫ぶ。


「――撤退! E.O.D全隊員、フェンリルの周囲から離脱!!」


 隊員たちが逃げるように距離を取る。


 志乃はモニターにしがみつき、

 震える声で叫んだ。


「ダメ……!

 蓮……聞こえる? 落ち着いて!

 あなたはそんな子じゃ――っ!!」


 だがフェンリルの耳にはその声が届かない。


 いや、届いていても――

 “黒い囁き”がそれをかき消していた。


 ――飲マレロ。

 ――光ト闇ノ境界ヲ越エロ。

 ――オ前ハ、モハヤ単体デハナイ。


 蓮の意識がぐらりと傾き、

 フェンリルの咆哮が空を裂いた。


 アオオオオオォォォン――!!


 その声は獣の叫びでありながら、

 どこか人の悲鳴に似ていた。


 ■ 蓮、意識の底へ落ちる


 蓮は、

 暗闇の中を落ちていた。


 周囲には形がない。

 光も、風も、温度もない。


 ただ――重く、冷たく、

 底のない深さだけがあった。


(ここ……どこだ……?)


 足も、手も、感覚が薄れていく。


 その時、

 足元で“何か”が蠢いた。


 黒い液体のような闇が、蓮の足に絡みつく。


(うっ……!?)


 闇は声を発した。


 ――片割レ。

 半身。

 オ前ハ……我ラノ器。


 蓮は身を震わせ、必死に引き剥がそうとするが

 闇は逆に嬉しそうに絡みつく。


「離れろ……!!

 俺は……お前たちのものじゃない!!」


 ――否。

 “フェンリル”ハ……元来、我ラノ敵。

 ダガ……“オ前ハ違ウ”。

 共鳴スル。

 引キ合ウ。


 蓮の胸の奥で、黒い脈動が震える。


 蓮は息をのみ、後ずさった。


(これ……俺の中の……?

 グロームの残した瘴気……?)


 その時だった。


 白銀の光が、闇を裂いた。


 ギャインッ!!


 荒々しくも、力強い光。


 フェンリルの声が響く。


 《蓮!! ここにいろ!

 お前、飲まれたら終わりだ!!》


 蓮は振り返る。


 白銀の狼の姿をしたフェンリルが、

 闇の海を必死に駆けてくる。


 だがその背後から、

 黒い触腕が無数に伸びていた。


 ――白銀ノ守護者。

 再ビ我ラノ害……


 《黙れッ!!》


 フェンリルが吠えると、

 白銀の波動が広がり闇が後退する。


 蓮は息をのみ、

 走ってフェンリルの元へ向かった。


(待ってろ……!

 俺は――逃げない!!)


 闇が再び襲いかかる。


 その瞬間――


 蓮の耳に、

 遠くから女の声が届いた。


「れん……!

 蓮、帰ってきて!!」


 志乃の声だった。


 蓮の胸が熱く跳ねる。


(志乃……!

 聞こえる……!)


 志乃の必死の呼びかけが、

 暗闇に白銀の光を少しずつ灯していく。


 フェンリルも振り返った。


 《あいつの声……届いてるな……!》


 蓮は頷く。


「志乃……俺は……ここにいる……!!」


 志乃の声がもう一度響いた。


「蓮は蓮だよ……!

 フェンリルにも闇にも負けない……

 蓮は絶対に――私の知ってる蓮のままだよ!!」


 光が、

 一気に闇を裂いた。


 ■ 意識世界の終わり、そして“囁きの正体”


 蓮は光を掴み、

 フェンリルと共に闇から飛び出した。


 だがその直後。


 闇の奥から、

 一つの“人影”が立ち上がるのが見えた。


 白い仮面のようなものをつけ、

 黒いローブをまとった存在。


 その影は蓮を真っ直ぐ見つめ、

 唇なき口を動かした。


 ――“器”ハ……整イツツアル。


 そして姿を溶かすように消えた。


 蓮は息を呑んだ。


(今の……何だ……?

 人型……?

 あれが“アバターズ”……?

 それとも……もっと上の……?)


 フェンリルの声も震えていた。


 《……蓮。

 あいつは……

 俺が戦った“黒い影”とは違う。

 もっと……嫌な気配だ》


 蓮の胸に、鈍く重い嫌悪が広がる。


(これが……俺を狙っている“何者か”……)


 視界が揺れ、

 意識世界は光に包まれた。


 ■ 現実世界へ


 蓮が目を開けると――

 目の前で白銀の巨体が苦しむように震えていた。


 フェンリルの暴走は寸前で止まっていた。


 E.O.D隊員たちが遠巻きに見守り、

 矢守が呟いた。


「……戻った、のか?」


 志乃が蓮の無事に気づき、

 涙を浮かべて叫んだ。


「蓮!!

 大丈夫!?

 意識……ちゃんとある!?」


 蓮はフェンリルの中から応える。


「ああ……志乃、ありがとう。

 声が……届いた」


 志乃は胸を押さえ、

 涙をこぼした。


「よかった……!

 本当によかった……!」


 フェンリルは静かに立ち上がり、

 白銀の光をまといながら消えていく。


 蓮が人の姿で地面に倒れ込むのを、

 志乃が駆け寄って抱えた。


「蓮……!!

 もう二度と……一人で抱えないで……!」


 蓮は弱く笑った。


「……うん。

 約束するよ」


 だが蓮は気づいていた。


 胸の奥の“黒い脈”が、

 微かに――だが確かに――震えていることに。


 ――器ハ……整ウ。


 その囁きは、

 蓮の未来に最大の影を落とす予兆だった。


 ――第13章・終。

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