表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

Ep 4



休みに入ってからというもの、シーティエンは毎日のように父親にムエタイの特訓をさせられていた。

朝はまだ暗い午前4時に起きてランニング。帰ってきたらシャワーを浴びてご飯を食べ、すぐにまた練習。

昼過ぎにももう一度走りに行く――そんな日々を何日も続け、ついに試合の日が近づいてきた。


鏡の前に立つシーティエン。

伸びかけた短髪、午後の炎天下で走ったせいで日に焼けた肌、前よりずっと引き締まった筋肉。

こうして見ると結構イケメンで、本人が自覚していないだけで女子にこっそり好かれている。

“オネエ”だと分かっていながらも、だ。


よくジムに遊びに来るプライファーは、毎日のようにシーティエンをからかう。


「ねぇ、スーティアン。もしそのまま学校行ったら、先輩も後輩も女子がめちゃくちゃ寄ってくるよ?」


その言葉にシーティエンは飛び上がって叫ぶ。


「やだぁぁぁっ!! フィー、無理無理無理!!」


「いや、ほんとだって。しかも最近、ターンクン兄ちゃんに似てきたし。髪伸びたらもっと似るよ?」


その瞬間、シーティエンは真っ赤になってプライファーを追いかけ回した。

プライファーは小柄で足が速いので、ひらりとかわして逃げる。

二人がバタバタと走り回っていると、ターンクンが止めに入った。


「何してるの、二人とも? なんでケンカしてるの?」


様子を見ただけで、誰が誰をからかったのか大体わかったらしい。

ターンクンはプライファーの鼻を軽くつまんで注意した。


「プライファー、シーティエンをからかったんでしょ? 友だちなんだから、あんまりいじめちゃだめだよ?」


素直にうなずくプライファー。それを見てタンくんはふっと優しく笑った。

すると今度はシーティエンの鼻もつまんでくる。


「シーティエンも、力で押したらだめだよ。前より強いんだから、友だちがケガしちゃうでしょ?」


結局、二人はターンクンに言われて仕方なく仲直りのハグ。

……と言っても、抱き合いながらこっそりつねり合っていたのだが。


「覚えとけよ、フィー。兄ちゃんいなくなったら仕返ししてやる!」


「こわ〜いこわ〜い。」


プライファーは笑いながら返した。


.

.

.

.

.

.


その日の夕方、プライファーはジムでシーティエンの家族と一緒に晩ごはんを食べることに。

何度も来ているので父母にもすっかり気に入られて、たまに料理まで手伝わせてもらう仲だ。


「シーティエン、来週はいよいよ試合だぞ。サボるなよ」


父親が少し厳しい声で言うと、母親がすぐに肘でつついた。


「そんな言い方しないの。シーティエン、自分の力を出せればそれで十分よ。勝ち負けなんて気にしなくていいからね」


「お前は甘いんだよ…こんなんじゃ男らしく――いや、シーティエン、母さんの言うとおりでいいぞ」


母ににらまれた父は、背筋をピッと伸ばして黙り込む。

その様子にシーティエンもタンくんも吹き出し、プライファーは笑いを堪えていた。


晩ごはんのあと、ターンクンがプライファーをバイクで家まで送っていくことに。

夜風が気持ちよくて、二人は特に会話をしなくても気まずさがなかった。


家の前に着くと、プライファーがヘルメットを外して言った。


「ありがとうございます、ターンクン兄さん」


でもターンクンはすぐに帰らず、その場に止まったまま。


「この辺、夜は暗いからね。君が家に入るまで待つよ」


その言葉にプライファーの胸がどきんと跳ねる。

そして、もう一度ターンクンが口を開いた。


「またジムに遊びにおいで。もしよかったら、ムエタイも教えてあげるよ。タダでいいから」


「女子の選手、欲しいんですか?」


プライファーがからかうと、ターンクンは慌てて首を振った。


「ち、違う違う。ただ…護身術くらいはできたほうがいいでしょ?シーティエンとケンカしたときも使えるし、もし誰かにいじめられたら反撃できるよ」


その笑顔に、プライファーの顔は真っ赤になる。


「お、おしまいです!」


「え?」


「な、なんでもないです!」


プライファーは誤魔化すようにため息をつき、家に入る前に振り返った。


「じゃあ、気をつけて帰ってくださいね」


「うん。おやすみ、プライファー」


彼女は家に入ってからも、窓からこっそり様子を見ていた。

ターンクンがバイクを走らせて帰っていくのを確認し、ほっと胸をなでおろす。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ