1-13. 【閑話】悪魔の考え
メフィストは、肩に担いだ少女へちらりと視線を向けた。
さきほどまで「絶対に落とすな!」と騒いでいたのに、今は諦めたのか、ただ大人しくメフィストの服をぎゅっと握りしめている。その身体は、かすかに震えている気がした。秋の夜空を飛ぶのは、人間には少し酷なのかもしれない。
(魂は半分しかもらえないけど……。まあ、ひとまず契約は成立した)
本当なら、魂を丸ごと渡してもらえれば話は早かった。しかし、普通の人間は、余程のことがない限り、そのような契約に応じることはない。今回のように窮地に追い込まれて、ようやく首を縦に振る。
(――あいつみたいに、若返りたいからって契約する向こう見ずはそうそういないか)
メフィストは、かつての契約者を思い出す。あの時は、こき使われた挙げ句に、魂を取り逃がす羽目になった。とんだ骨折り損だ。
そして――。
あの時、魂を奪うのを邪魔したのが、今、肩に担いでいるこの少女だった。
(しかしまあ、人間というのは……生まれ変わると、随分と見た目が変わるものだな)
茶色の髪に、焦げ茶色の目。地味で、どこにでもいるような平凡な少女。もし、あの力を目にしていなければ、きっと興味すら持たなかっただろう。
(契約の履行を邪魔した、あの力。絶対に俺のものにしてやる)
力を奪うための布石は打った。まずは、あの力の使い方を調べなければならない。
『君の言うことを何でも聞く下僕になってあげる。そして、ずっと君の魂の側にいる。その代わり、君の魂の半分を貰う』
力の使い方さえ分かれば、魂の半分をいただく。そして、「ずっと君の魂の側」にいる、という制約を設けたおかげで、残りの半分をどうにかできる。
再契約は面倒だが、何度生まれ変わろうと、文字通り「ずっと」側でついてまわれる。チャンスは必ず来るだろう。
(神官とレムルに対して、力を使わなかったということは、まだ使い方が分かっていないのか? そもそも、もし生まれ変わりに力が引き継がれていなかったら、また無駄骨……いや、魂の半分は手に入るから、無駄ではないか)
「メフィスト……」
頭の中で考え事をしていたところに、声がかかる。メフィストは意識を引き戻して「なに?」と返す。
「ごめん……上下の揺れで、酔って、吐きそう……」
「えっ」
小刻みに震えていたのは、寒さではなく、吐き気からだったのか。
「うぇ……」
「……落としていい?」
「絶対に駄目」
メフィストは小さくため息をつくと、静かに揺れないよう、高度を下げた。
グレーテル「おえぇ」
メフィスト(間に合ってよかった)
グレーテルは ゲロインのしょうごうを てにいれた!




