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「……」

「動けば撃つ。僕の勝ちだな」


 【デパータートレイン】。最後の『行け』の詠唱を唱えるまで、手元でとどめておける氷の柱を打ち出す魔法。

 それを彼女の眼前に突きつけて、降参を促す。


「すげぇ、あの化物みたいな狐面の女を……」

「早口言葉だけで完封しやがった……!」


 あれ、建物内を占拠しろって命令してたのに、僕の戦いを見てたやつがいたらしい。

 働け。バカちんどもが。

 クシナサラが、静かに声を発した。


「……手前、名前は」


 彼女の喉から聞いたこともない、ドスの効いた低い声。


「僕は”クロック”……君は」

「私は”タマモ”。手前らは、なぜこんなことをする」

「僕たちは、明日を穏やかに過ごしたいだけだ」

「だから私たちを殺すのか」

「お前たちが殺すのなら、殺す」

「更生する機会さえも奪うのか」

「ああ。無駄だからな」

「クズどもめ」


 クシナサラからそう言われて、ズキリと胸が痛む。

 言葉に棘がある。

 夢世界では、こんなに刺々しい発言をするのか。この子は。


 なんだか僕は、とても悲しい気持ちになって、魔法の影響以上に冷える右腕をさすりながら、彼女を見下ろしていた。


「クロック! 無事か!」

「おー、その片ヒゲはヴィルヘルムかな。無事だ無事。こっちは死者ひとりいねー」

「流石だな」

「ヒーローだからな。そっちは」

「組長を捕らえた」


 鎖を生み出す魔法で、雁字搦めにされた、やせっぽちの男が砂利の上に投げ込まれた。

 こいつが、一連の犯罪助長計画の一助を担っていた問題児か。

 刈り上げられたもみあげに、痩身。片眼が割れたサングラスをしていた。

 ラスボスにしちゃ、しょっぱいな。

 やっぱ、クシナサラのほうが、強かったな。


「殺さなかったのか、ヴィルヘルム」

「捕らえたほうがいいだろう」

「他のやつらも生かしたのか」

「やつらは降伏した。それ以上、奪うものはない」

「はいはい。監視を徹底しろよ。脳みそ以外なら液状にして逃げられるぞ」

「もちろんだ」


 お互い甘ちゃんだな、と僕は思う。

 気持ちを切り替え、全体へ指示を出す。


「追加の人形が来る前に、さっさと連行しよう。ヤマトなら、いい始末をつけてくれる」 

「待て」

「まだ何かあるのか、タマモ」

「彼は、悪人ではない」

「いいや、人殺しだよ」

「彼は弱者救済を謳っている。犯罪をしなければ生きていけないような、そんな貧しい心の人たちを集めて、平和に生きようと……」


『行け』


 ずがん、と氷の柱がクシナサラの頬を掠め、庭園に突き刺さる。

 かつん、からんと弾き飛ばされた砂利があちこちに散らばる音が鳴り、クシナサラは、ただ棒立ちで、微動だにせずふらふらとしていた。


「犯罪をしなければ生きていけない? 食事が必要ないこの世界でそんな人種は、被害者でもなんでもない。犯罪者予備軍に声をかけて犯罪をさせていたこいつは、紛れもなく悪なんだ。わかったら―――」


 甘ちゃんだ。ホントに。


「わかったら、さっさと、どっか行け」


 僕のその言葉に、真っ先に異を唱えたのは後ろにいた、名前も知らないジュエリーだった。


「待てよ! そいつだって諸悪の根源だろ」

「いやー、ショアクノコンゲンではないんじゃないかな」

「なんでもいい! そいつにだって、仲間を何人も殺されてるかもしれないんだ。生かしておく理由はない!」

「でも、殺してないかもしれないでしょ」


 闘技者のジュエリーを抑えて、ヴィルヘルムから質問が来る。


「クロック。今回は勝てたようだが、次また同じように勝てるとは限らない。彼女は尋常ならざる力を持っている。有り余る力は時として意図せず人を傷つける。殺すには充分すぎる理由だ」

「んー。僕はそうは思わんな。根っからの悪って感じは、しなかった」

「いつか、必ず後悔するぞ」

「……そんときは、僕が落とし前をつける。タマモ。話は聞いてただろ、行け」


 相変わらず腰を抜かしたままのクシナサラは、びくりと体を動かし、状況をゆっくりと整理し、もうどうにもならないと察し、飛び上がり、電柱の上に位置取った。

 手元を見られないように、テレポで移動していった。

 そうそう。テレポの使い方も、ちゃんと教えてあげたっけな。

 にしてもあの魔力レベル……。食らった相手の魔力レベルをそのまま経験値として組み込めるほどだったな。

 次会うとき、どんだけ強くなってるんだろ。

 ああ、考えたくもないな。


「俺はこれから、どうなる」


 残った組長が、弱々しくそう呟いた。

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