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「……クシナサラ、僕は……僕……は」

「む、無理して言わなくても、いいよ?」

「……小さなバブルの、ヒーローなんだ」

「……まだ言うんだ、それ」

「そのバブルは、平和なとこだ。みんな、争いを望んじゃいないし、ワケもわからず寝るたびにあっちとこっちの世界を行き来するようになった人たちで、でも生きているんだから、死にたくはないよなって言いあって、今宵まで、凶悪なヴィランたちと死線を潜り抜けて、生きてきた」

「……殺したの」

「殺した。いっぱい、いっぱい、殺した。死体の数なんて、いちいち数えちゃいない」

「向こうが悪いからって、責任を全部押しつけて、同じ夢世界に生きる仲間を、切り捨てるの!?」

「君はあの世界がどんな世界かわかっていないんだ、クシナサラ!」

「わかってないのはチクタクだよ! だって……」

「聞けよ! 何をしても罪に問われないと思い込んだ人間がどれだけ醜悪な行動を取るか! 想像できるだろ! 他者を犯し、ペルソナを剥がし、現実世界の生活さえも滅茶苦茶にする。そんなやつらが、あっちの世界にはゴロゴロいるんだ!」

「でも、私はだから殺してもいいとは思わない! 絶対、絶対に思わない。魔が差すって言葉、あるでしょ。今でもニュースで使われてる言葉。あれ、私ステキな言葉だと思うの。魔が差すんだよ。その人が悪いからだけじゃないの。いろんな外的要因が、あるんだよ」

「ない、ないんだよ。クシナサラ。悪はどこまでいっても、クズで、悪なんだ」

「……だから、排除するの?」

「そうやって、僕らは生きてきた」

「社会不適合者を間引けば、確かによりよくなるかもしれない。でも、間引かれた人たちはどうなるの。弱者の居場所はどうするの。君の村に馴染めなかった人は、どこで生きていけばいいの。いらない人間を煮詰めて出来上がる最終的な人数は、自分ひとり、よ」


 そんなことはない。

 僕は三番街フォーク村のみんなの顔を思い起こす。

 ヤマト、マスター。それに、村のみんな。

 食べ物屋、洋服屋、武器屋のクリエイターも大勢いる。

 でも、みんなは、戦いを望んじゃない。


「僕は常に戦いの中で生きてきた。でも、戦いの中で自分の生きる意味を見つけていたわけじゃない。君の理想は、僕には、眩しい。あまりにも眩しく見えるよ、クシナサラ」

「私は、弱者に救いの手を差し伸べたいだけだよ。それは、誰にでもできる。難しいことじゃない。私には、君がとても卑屈な、臆病者に見えるよ、チクタク」


 僕はその言葉を、そうだろうなと頷く。


「……理解、できない」

「そうだね」


 僕とクシナサラは、互いに顔をそらす。

 こんなこと、初めてだった、

 多少の価値観の違いはあれど、今まで何となく折り合いをつけていたのに。

 ついに、関係が破綻した。


「もしも夢世界で会ったら、敵同士、だね」

「……そうだね」

「……ねぇ、チクタク」

「何」


「私も、殺すの」


 絞り出すような彼女の言葉に、僕は答えられなかった。

 背を向け、屋上の扉に手をかける。

 その手に、いつの間にか追いついたクシナサラの手が、そっと添えられた。

 絹のような滑らかな質感に、ほんのりと温もりを覚える、元バレー部の大きな手。


「……チクタク」

「……殺したくないに、決まってるだろ」


 僕は屋上への扉を開けた。


「やっぱり、優しいね、チクタクは」


 心の底から安堵したような、柔らかい声音が、より、より強く、僕の心を混沌の渦に叩き込む。

そのまま後ろを見ずに階段を駆け下りた。

 今夜、眠れば幽王組との最終決戦が待っている。

 ぐしゃ、と僕は自分の髪を握り潰すように撫でつけた。



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