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 学校の放課後は、至るところに生徒が顔を出す。

 教室はもちろん、特別教室へも文化部が頻繁に出入りするし、運動部はマップの空白埋めにいそしむゲーマーみたいに校舎を隙間なく駆け回っている。

 特別教室の渡り廊下は、放課後は使えない。

 でも、放課後まで言葉が見つからなかったから、仕方がなかった。

 だから、立ち入り禁止の屋上に呼び出すしかなかった。


「2回もチクタクのほうから私を呼び出すなんて、明日は槍でも降るのかな」

「……」


 相変わらずの軽口に、僕はかすかに眉をひそめる。

 僕は彼女の顔を、改めてよく見る。

 さっぱりとした目に、凛とした細い眉。小ぶりな鼻。薄い桃色の唇。白い肌に、ぽつりと浮かんだ、ほくろ。

 僕が、見間違えるわけがないんだ。

 他の人には、ペルソナが認識を阻害する効果を持っているため、少し欠けただけでは気づけない。ヴィルヘルムたちは当然、気づいていなかった。現に彼女自身も、自分の正体があの程度でバレたとは気づけていない。

 僕が、クシナサラが狐面の女だと気付いていることに、彼女は気づいていない。


「なあに? 人の顔をじっと見つめて」

「……いや、その」


 こんな、こんな平然とした態度なのに。

 裏ではヤクザと繋がって犯罪を促している……?

 本当に? 彼女が、なぜ、どうして。

 悪人を作ることが、許せないとあんなに語っていた彼女が、なんで?


「あー、分かった。私の魅力についに気づいちゃって、告白しようって言うんでしょ」

「……そういうんじゃ、ない」

「……わかってるよ。実はね、そういうお誘い、けっこう受けるんだ。でも君からは、そういう怖い空気を感じないから」

「……そう、か」

「あっちの世界での話でしょ。何? 相談事なら、乗るよ。いつも助けてもらって、ばっかだし」

「ああ、うん」


 僕は曖昧に相槌を打って、言葉を探す。

 遠回しに、遠回しに。

 気づかれていることを、気取られないように。


「せ、正義の話。正義って、なんだろうって」

「ヒーローじゃなかった?」

「あ、そ、そうかも。その……こっちの世界じゃさ、法律があって、これが悪くて、これはそうでもない、みたいな判別がされてるけど、夢の世界は、無法じゃん。そんな中で、正義とか悪とか、なんなんだろうって……僕は、よく、わからなくなってきて」

「……うん、うん」


 必死に言葉を紡ぐ僕に、クシナサラは、いつになく優しく頷いてくれた。

 僕が困っていることなんて、今までになかったから、頼られて、嬉しいんだ。

 畜生。

 なんでそんな、普通に可愛い女子高生でいるんだよ、君は。


「私は、悪者を悪いって決めつけることこそが、悪だと思う」

「……悪事をするやつが、悪いんじゃないの?」

「罪を憎んで人を憎まず、だよ。悪いことをするのは、もちろんよくない。だけど、”悪いことをした人間は殺してもいい”とは思わない。あっちの世界じゃ、割と極端じゃん? そっちが悪いから、悪いのはそっちだからって言って、一方的に排除しちゃうのはさ、よくないと思うんだ」

「だから、ヒーローはヴィランを作るから、良くないと?」

「うん。必要なのは、仲裁者だよ。悪いことしたら、いけませんって、言える人が必要だと思ったんだ。どんな悪人にも、情状酌量の余地は、きっとあるよ」

「……そ、そうか」

「だから私、強くなりたかったの!」


 にしし、と歯を見せて彼女が笑う。

 さらりと流れた風が、彼女のショートカットを優しく撫でた。


「……そう、だったんだ」

「だから君には感謝してる。あの世界での戦い方を教えてくれて」


 笑えない。僕は笑えないよ、クシナサラ。

 ”先輩風吹かしてあれこれ教えてあげていたやつがラスボスだった”なんて。

 笑えるわけ、ないだろ。


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