11.拉致
第十一話
ランディア王国 東沿岸部 魔王軍司令部跡 深夜
破壊された司令部と周辺の宿営地の復旧の為、本国から派遣された魔王軍(ヴェルシア帝国)の兵士達がテントで眠っていた。
ゴソゴソ…
「ん…?カイル?しょんべんか?」
「あ、すまんルイス起きちゃったか」
「いや、大丈夫だしょんべんなら俺も行くぞ」
「お、じゃあいこーぜ」
外へ出ると周りは松明の明かりだけが辺りを照らしていた。
「げっ、今日新月かよ〜」
「なんだよカイル怖いのか?」
「怖くはないけどよぉなんか不気味じゃないか?」
「やっぱり怖いんじゃねぇか」
「怖くねぇって」
そんな話をしながら用を足すと先に用を足し終わったルイスがカイルを置いてテントに戻り始めた。
「おいルイス待てよ!」
「怖くないなら俺が先に戻っても大丈夫だろー?」
「そんな意地悪すんなって!おい待てってんむっ!?」
「やっぱり怖いんじゃねぇか…ってあれ?カイル?」
ルイスが振り向くとカイルはどこかへ消えていた。
「おい冗談きついぞカイル…やり返しか?悪かったから戻ってこいって!」
カイルからの返事はなく、ルイスの声だけが辺りに響く。
「そうかお前がそう来るなら俺は戻るからな!!」
がさっ
ルイスが戻ろうとすると背後から何かが迫ってくる気配がした。
「やっと来たか怖がり野郎。なっ誰だおmんぐっ!」
翌朝、2人が行方不明になったことで兵士達は困惑し不安に陥った。
昼 航空駐屯基地
「司令、魔王軍の兵士2名を乗せたブラックホークが到着しました」
「もう連れてきたの!?昨日指示したばっかだよね!?」
「明日には人間も連れてくる予定ですよ」
「早過ぎない?」
「司令の命令にはすぐ応えたいので」
「それは嬉しいけど…あ、人間はここじゃなくてブルー・リッジに連れてきてね」
「わかりました。では早速お会いしますか?」
「じゃあ会おうかな。場所はクレールの時と同じ?」
「はい、拘禁所です」
拘禁所
「ろ…い..きろ…!」
「ん…?」
「おいカイル起きろっ!」
「ルイス…?」
「やっと起きたかドジっ子」
「誰がドジっ子だよ!」
「お前が捕まったからこうなってんだろうが!」
「捕まった…?」
「覚えてないのか?昨日のこと」
「あっ…」
「思い出すのおせぇって」
「じゃあここは…」
「あいつらの牢屋ってこった」
「どどどどどうしようか」
「落ち着けって」
「落ち着けるわけないだろ!」
コツコツコツ
辺りに靴の音が響き、その音はこちらに近づいてきた。
「だ、誰か来るっ…!」
「まさかお前と一緒に死ぬなんてなぁ」
「諦めんなよ!!」
「随分と賑やかだな〜」
「「!?」」
牢屋の前に来たのは立派な軍服を着た赤眼の薄い青色の髪をした女の人間だった。
「お、ゴブリンか〜ってまだ君たち子供じゃん!小学校…高学年ぐらいかな?」
「人間…!」
「だ、誰だ?」
「俺はレグナ。ここの司令官だ。よろしくね」
「レグナ…お、お前が俺たちを誘拐したのか?」
「あぁそうだよ。すまないね急に拉致ったりして」
「なんで俺たちを誘拐したんだよ」
「まぁ別に誰でも数人拉致れれば良かったんだけど偶然それが君とそこでブルブルしてる子だっただけだよ」
「おいカイルしっかりしろって」
「で、でも、こ、声がふ、震えちゃうんだよ」
「君カイルって言うの?大丈夫だよ何もしないから」
「誘拐しといて何もしないわけないだろ」
「まぁ何もしないと言ったら嘘になるけど怖いことはしないよってことだよ」
「何が目的だ」
「君たちに確認してほしいことがあるんだよね」
「確認してほしいこと?」
「俺の魔力を確認して欲しいんだ」
「魔力を…?」
「あぁ、俺の魔力どんな風に感じる?」
「どんな風にって…あれ、何も感じないぞ」
「え、まじ?薄めすぎたかな。ちょっと待っててくれ」
「これならどう?」
「普通の人間の魔力って感じ…だよな?」
「あ、あぁ、に、人間の魔力としか…」
「なるほどこんな感じでやれば良いのか。ていうかこれじゃあ人間を拉致る必要なくなっちゃったなぁ。いや、人間からも色々と聞いた方が良いかな」
レグナは1人でブツブツと何かを言っていた。
「なぁ、用が済んだなら解放してくれよ」
「うーん…」
「まだ何かあるのかよ」
「魔法を解除したらどんな反応するか試しとこうかな」
「魔法を解除?何を言って…」
「解除っと」
「「!?」」
突如周囲の空気が揺れルイスとカイルに異常な量の魔力が押し寄せた。
「な、なんなんだよお前…」
バタッ
「あれ、カイル君気絶しちゃった?」
「…!」
ルイスが隣を向くとカイルが倒れていた。
「おいカイル!おいっ!!」
「ん…んん…」
「気絶してやがる…」
「なるほどな〜」
「おいっ!頼むから元に戻してく…くれませんか」
「え、なんで急に敬語?」
「いや、こんな魔力量とは思わなかったから」
「元に戻すけどそんな敬語じゃなくていいよ?」
再び霧纏いの結界を発動させるとカイルは目を覚ました。
「ん…んん?」
「起きろカイルいつまで伸びてんだよ」
「俺…さっき確か…」
「起きたかいカイル君」
「あっ…てあれ、さっきもの凄い魔力だったような…」
「もう元に戻したから大丈夫だよ?」
「そ、そうか…」
「それより、もう用は済んだんだから解放してくれよ」
「君たちがいた所に送れば良いのかな?」
「あぁ、早く戻って仕事に取り掛からないといけないからな」
「けど、それだと君たち死んじゃうよ?」
「な、何言ってんだよ… 」
「君たちが今直してるとこ、また攻撃するから」
「なっ…」
「う、嘘だろ…?」
「おい、またってもしかしてお前らが…」
「そう、俺たちが攻撃したんだ」
「お前っ…!」
「そんな怒んなって。ここに残ってれば君たちは死なずに済むかもしれないんだよ?それでも戻るのか?」
「….あぁ、戻って力をつけてお前をいつか必ず殺してやる」
「る、ルイス!あ、あまり刺激させるようなこと言ったらまずいって!」
「お前悔しくないのかよ!」
「く、悔しいけど、今俺たちは捕まってるんだからあまり強気なこと言ったらまずいって」
「うんうん。カイル君はちゃんと自分の置かれてる状況が分かってるみたいだね。偉い偉い」
「まぁわかった、君たちを返すよ」
「おい待てっ!お前らが攻撃したならクレール指揮官がどうなったか知ってるだろ!」
「クレール?あいつなら死んだよ」
「嘘だろ…あのクレール指揮官が…」
「マジかよ…」
「はいじゃあちょっとおねんねしとこうね〜」
「な、何を…うっ…」
「なんか眠く…」
レグナが手をかざすとルイスとカイルは深い眠りに落ちた。
「司令、なぜ偽名で名乗ったり声を変えたりしたんです?」
「いや〜せっかく異世界に来たんだしイメチェンしようかなぁーって」
「そうですか。レグナって名前似合ってると思いますよ」
「そう?ありがとね。さて、出港しようか」
「はい。では指示通りに」
数時間後
夜 ランディア王国 東沿岸部 魔王軍司令部跡から少し離れた海岸
「これでよしっと。じゃあ起こすかぁ。ほら起きろー」ペシペシ
「ん…いてぇな..て、お前本当に返してくれたのか…」
ルイスが目を覚ますとレグナがしゃがんでこちらを見ていた。その後ろには真っ黒な服装をした数人の人間が立っていた。
「ここは…」
「あ、カイル君も起きた?ここを真っ直ぐ進めば戻れるよ」
「それでいつ攻撃してくるんだよ」
「数日後かなぁ」
ルイスは隣に落ちいている石に目を向ける。
「その前に…」
「その前に?」
「…っ..殺してやるっ!!」
ルイスは石を拾いレグナの顔に殴りかかった。
ガーンッ
「いってぇ!」
ルイスが殴ったのはレグナの顔ではなくその前に現れた分厚い障壁だった。
「はっはっはっ、わかりやすいなぁ君はぁ!」
「司令官!」
「大丈夫大丈夫。撃たなくていいよ」
「舐めやがって…!」
ルイスは何度も攻撃するがその度に瞬時に現れる分厚い障壁が現れ防がれた。
「くっそ…なんなんだよあれ…」
「おや、疲れちゃったかな?それでどうやって殺すのかな?」
「ルイス!今のお前には無理だ!早く戻るぞ!」
「ほらカイル君もあー言ってるんだから諦めなよ」
「クソがぁ!」
「だから無理だって…」
グキッ
「ありゃっ?」
「ぐあぁっ!ァアアッ…ぐっ…!」
ルイスが胴体めがけて入れた全力の蹴りをレグナは掴んだがまだ戦闘に慣れてないにも関わらず無駄にレベルが高いレグナは手加減出来ず誤ってその足を折ってしまった。
「やっべ俺まだ手加減知らないんだった。おーい大丈夫か?」
「カイル!大丈夫か!?」
「こんなのっ…はぁはぁ…へっちゃらだ…」
「まともに立ててないじゃん。もう良いからさっさと行ってくれないかな?それに今の君じゃ勝てないんだから」
「くっそ…!」
「ほらルイス行くぞ!」
「いつか、俺が絶対殺してやるからな…」
「はいはい待ってますよー」
「司令官、良いんですか殺さなくて。我々が撃ちましょうか?」
「いや良いよ。こう言うのは後で成長して戻ってきた時が楽しいんだよ。撃つのはその時までお預け。わかった?」
「はっ、了解しました」
「まぁ、それまで生きてればの話だけどね」
そんなことを言いながらレグナと数人の護衛兵はルイスとカイルの2人を見送った。
「随分度胸がある子でしたね司令」
「将来有望だね〜。あの子はきっと化けるよ」
「その前に死ななきゃの問題ですけどね」
「はは、確かに。どうなるかね明日。あの子にはまだ死なないで欲しいな」
「気に入ったんですか?」
「あぁ、あの子が成長した時どうなるかすごい気になる。まぁ良いや、皆んな撤収しようか」
「「「了解しました」」」
「もう少しだからなルイス」
「クソっ…俺にもっと力があれば…」
ゴォォォォォォ….
「なんだ…?」
「雷…ではなさそうだな」
突然の背後からの聞いたことのない重低音に2人は後ろを向いた。
ゴォォオオオバタバタバタバタッ
2人の真横を見たことの無い二つの巨大な影がゆっくりと横切って行った。そのうちの一つにはレグナがこちらに向かって手を振っていた。そしてその二つの影はゆっくりと暗闇へ溶け込んで行った。
「お、おいルイス…今のレグナだよな…?」
「っ…レグナ…!馬鹿にしやがって…!」
「あれで連れてこられたのか…」
数十分後
ルイスとカイルは仮設の司令部へこれまでのことを説明していたわけではなく一日任務を放棄した為、懲罰として拘留施設へ入れられていた。ルイスは一応治癒魔法を受け骨は治ったがまだ痛みが続いていた。
「もう少ししたら尋問官が来るから大人しく待ってろよ」
ガチャン
「まぁこうなるよな。ルイス、まだ痛むか?」
「少し痛いがこのくらい大丈夫だ。クソっあの野郎…絶対殺してやる」
「今はそれよりどうやって信じてもらうかだろ」
「…命かけるしかねぇだろ」
「な、何言い出すんだよ急に…」
「数日間何も無かったら死刑にしろって言うんだよ」
「いやいやいや。明日になれば出れるんだからそれまで大人しくしてたほうが良いだろ」
「ばーかそれがあいつの狙いで明日攻撃してきたらどうすんだよ!」
「そんな深く考えてないだろ」
「とにかく俺は尋問官が来たらそう言うからな」
「やっぱルイスって頑固だよなぁ」
「かもな」
数分後 審問室
「尋問を始める。では何故任務から一日中無断で離れそして右足を折ったのか説明してもらおうか」
ルイスは事の全てを話した。
「だから一刻も早く司令部に伝えて欲しいんだまた攻撃されるって!」
「それは何かの物語か?」
「本当なんだって!!」
「子供は想像力豊かと言うがここまでとはな」
「…じゃあ命をかけるって言ったらどうだ?」
「なんだと?」
「数日間何も無かったら俺を死刑にする。これなら良いだろ?」
「…..」
「俺は本気だぞ」
「…どうなっても知らないからな。それと、お前が報告しろよ」
仮設司令部
「おいお前は前線をもう一回確認してこい!」
「はっ!」
「おい昨日の哨戒報告書どこかわかるか?」
「何?見失っただと?」
いつもこの時間帯は静かな司令部内が何故か慌ただしくなっている。
「な、何が起きてんだ?」
「俺にもわからん。おいそこの人、これは何の騒ぎだ?」
「あぁ、さっきの聞いた事ない咆哮の正体と思われる飛翔体を哨戒中だった飛龍が見つけたんだ。それでこの騒ぎってことよ」
「謎の咆哮?何だそれ」
「お前達が帰ってくる少し前に龍の咆哮のような音が響いたんだ。」
「それって…!」
「あんな音初めてだったから龍じゃないかもしれんがっておいっ!どこに行く!!待てっ!!」
「おい誰だ貴様!」
「勝手に入るな!」
「どけっ!」
ルイスは衛兵の静止を振り切り指揮官達のいるテントに強行侵入した。
「誰だ貴様!」
「衛兵は何をしてるんだ早く抑えろ!!」
参謀長が命令すると衛兵達はルイスを抑え始める。
「放せ!指揮官!俺は謎の飛翔体の正体知ってます!!」
「なに?」
「馬鹿馬鹿しい。早く下がらせろ!!」
「待て参謀長。衛兵も下がってくれ」
「しかし… 」
「良いから。それで君は誰なんだ?」
「一昨日に本国から派遣された第121工兵部隊所属のルイスと申します」
「ルイス、それで君は謎の飛翔体の正体を知っていると言ったが何か知ってるのかね」
「はい。俺と友人のカイルは一昨日その飛翔体に誘拐されました」
「指揮官、こんな戯言に付き合う必要ありませんよ」
「まぁまぁ。ルイス、それならその飛翔体の形はもちろん知っているんだろうね」
「はい。箱状で尾が生えているような形でした」
「「「!?」」」
「貴様…本当に見たのか…?」
「はい。(だから見たって言ってんだろうがっ)」
「ルイス、君の話を詳しく聞かせてくれ」
「はいっ!」
数十分後
「それでここに戻ってる時見たんです。あいつが飛翔物体に乗って手を降りながら去って行くのを」
「彼と共に連れ去られたカイルもほぼ同じことを証言していました」
「何でお前がいるんだよ尋問官」
「お前が勝手に走り出すからだ」
「そうか。クレールは死んだか…」
「はい…」
「彼は同期だった。静かなやつだったが良いやつで、成績も優秀だった」
「…」
「あいつが死ぬとはな…」
「…」
「すまない。場を白けさせてしまったな」
「いえ、同期を失ったんですから悲しむのもおかしくないです…」
「ありがとう。しかし、連合軍とも関係無いとなるとやはり第三の勢力が参戦してきたということか」
「第三の勢力…」
「それでルイス、そのレグナが数日後にまたここを攻撃すると言ったがその攻撃方法について何か言わなかったか?」
「いえ、そのようなことは言いませんでした。ただまた攻撃するとしか…」
「そうか」
「せめてどこから攻撃してくるかわかれば….」
「それは大丈夫かもしれんぞ」
「どういうことですか?」
「飛翔体は北の方に飛んでいったと報告されてる。だから恐らく彼らは前回北から攻撃してきて次も北から仕掛けてくると私はそう踏んでいる」
「では北の守りを固めないと!」
「いや、前回攻撃された時も守りは万全だったが一方的にやれらたから意味ないだろう」
「ではどうすれば…」
「あえて守りを薄くするんだ」
「大丈夫なんですか?」
「君の言う通りならレグナというやつは相当我々を下に見ている。つまり慢心しているということだ。我々はそこを突くしかないだろう」
「なるほど…」
「参謀長、今すぐ兵と飛龍を避難させ相手の攻撃が止み次第、北へ飛龍を飛ばすよう指示してくれ」
「わかりました。ではそう伝えます」
「伝令兵、君たちは本国へこの事を伝え至急飛龍の増援を要請してくれ」
「「「はっ!」」」
「ルイス」
「はい!」
「よく教えてくれた。感謝する。後はゆっくり休んでくれ」
「い、いえ、俺も手伝います!」
「有事とはいえ子供に徹夜をさせたくない。これは命令だ」
「わかりました…」
ルイスは尋問官と共に仮設司令部を後にした。
「よろしいですか指揮官」
「どうした参謀長」
「先ほど飛翔体を追っていた最後の一騎が帰還中に魔信が途絶えたと報告がありました」
「落とされたか」
「恐らく」
「あの飛龍が二騎も落とされるとは…一応、救助を飛ばしてくれ」
「わかりました。しかし、指揮官はわかってたのですか。彼の言うことが本当だと」
「いや、私も彼が飛翔体の詳細を語るまで参謀長と同じで信じてなかったよ」
「そうでしたか…」
「さぁ諸君、辛いかもしれんが今日は徹夜になる。頑張ってくれ」
遅くなりました。




