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はじまりの物語  作者: はあや
本編
94/431

ドレス ②

それからのアランの行動は早かった。


早速お針子と、ついでに新人メイドも呼び、昨年はどんなドレスが多かったか、どんなデザインが相応しいかを相談する。


同じドレスを使いまわすにしても、多少は変化をつけた方がいいとの意見もあり、フリルやレースは極力使わず、上半身はすっきりとさせコサージュなどで変化をつけやすく。

スカートも膨らみを少なくし、裾部分に生地と同じ色で刺繍をいれたらどうかと言うことで落ち着いた。


ぱっと見ただけではシンプルだが、近くでよく見ると手の込んだ刺繍が施されているドレス。


お針子が描いたデザイン画をレオリードが満足そうに頷き、アランは夜会用のドレスなど見たことなかったし、シスツィーアも夜会へ出席したことはないから、お針子とメイドとレオリードが納得したものなら。と、デザインは決まった。


後はドレスの色だ。


初めてのドレス選びだからだろう。アランが少し疲れた様子を見せたので、メイドとお針子は「ゆっくり選んでください」と、部屋を出ていく。


シスツィーアが新しく淹れたお茶を3人で飲みながら、お針子が置いていった色見本を眺めて話を続ける。


「んー。ツィーアはどんな色でも似合いそうだよね」

「そうだな。シスツィーア嬢は、どんな色が?希望はあるだろうか?」


「できれば、明るい色はではなく落ち着いた色合いが良いです」


それだけは、シスツィーアが譲らなかった。



「なぜ?明るい色も似合うと思うが?」

「明るい色だと・・・・目立ちそうで・・・・」

「・・・・どちらにしろ、ツィーアは目立つと思うよ?」


小柄で可愛らしいシスツィーア。それを自覚しているからこそ、これ以上目立ちたくなくて、地味な色合いで誤魔化したいのだ。


もちろんシスツィーアだって、華やかなドレスに憧れがないわけではない。

それよりも、余計な嫉妬を買うことが嫌だった。


(贅沢な悩み、なんでしょうけどね・・・・)


上位貴族へ気を使わなくて良ければ違ったのだろうが、逆らえない相手から目を付けられたくないという思いが強い。


「それに、落ち着いた色合いの方が、その、着回しもきくと思うので・・・」


(ドレス代って、かなりかかるもの。一着作って頂くだけでも十分よ)


これから先、お仕事で必要になったとしても作る必要がないように。


そんな思いから、おずおずと意見を述べるシスツィーア。


「それはあるかもね。んー。兄上、今年はどんな色が流行りとかある?」

「・・・さあ?」

「?兄上はマリナ嬢に、ドレス贈ったことあったよね?」

「あるが、色もデザインもマリナが希望したものを贈っているからな」


マリナの社交界デビューはレオリードの婚約者と言うこともあって、15歳の誕生日を迎えると行われた。そのときのドレスもだが、レオリードは婚約者として、社交界デビュー前も王家主催の昼のガーデンパーティーや茶会へ、マリナと二人そろって出席するときにはドレスを贈っていたし、デビューしてからは夜会用のドレスも贈っている。


けれどレオリードは、「この方にお願いしたいのです」「こういった色合いはお好きでしょうか?」と、マリナが希望するように手配し、時には頷いただけで・・・


「せっかくなら、自分の気に入るドレスを着たいだろう」と、口を挟むことはなかったのだ。



「そういえば、マリナに着て欲しい色やデザインで作ったことはなかったな」


レオリードは今更ながらそれに気づき、独り言ちる。


「え・・・と?」

「まあ、王都で評判の者に依頼しているし、マリナも満足そうだから問題はないだろう」


それはそれで良いのだろうか?政略結婚ってそんなもの?と、アランもシスツィーアも首を傾げるが、当の本人たちが納得しているなら、良いのだろう。


現にレオリードは今まで、疑問にも思っていなかったのだから。


「流行かは分からないが、ラデラの花にちなんだ薄いピンクや黄色や青色。あとは夜にあるからか、紺色や深い青色なんかもいたな。・・・ああ、さすがに黒色はいなかったと思う」


女生徒がどんなドレスを着ているかは、よく見ていたらしい。

色見本を眺めながら、レオリードは「このあたりか?」と指をさす。


「んー」


アランはしばらく見本をパラパラめくり、時折シスツィーアを見てはまた本へ目を落とす。そんな動作を繰り返して


「上とスカート部分の色を、少しずつ変えるのはダメ?」

「え?どういうこと?」

「夜って時間によって色が変わるでしょ?だんだん暗くなって、夜明けで明るくなって。真っ暗でもないし、紫っぽくもなるし、紺色にも。だから、上は少し明るくして、スカートになるにつれて濃くしたらダメかな?」


(グラデーションを付けるってことよね。色の変化があまりなければ良いかしら?)


実際のドレスを見たことがないから、なんといえば良いか分からない。


シスツィーアとアランの視線が、レオリードへ集まる。


「良いかもな。色の変化を抑え目にしておけば、そうおかしくはないだろう。お前が考えたドレスなら、今までにない、新しいドレスも受け入れられるだろうしな。多少は目立つだろうが、アランのパートナーである以上、注目されるのは避けられない」


後半部分はシスツィーアに、申し訳なさそうな視線を向けながら話すレオリード。


それはそうだ。限られた者しか顔を知ることのない第二王子が来て、目立たないわけがない。


(そうか・・・・アランのパートナーって時点で、注目されるのは避けられないのね)


もちろん、実際に注目をあびるのはアランだが、当日のことを考えてシスツィーアは気が重くなるのだった





「ね、兄上。香夜祭だけど・・・」

「どうかしたか?」


シスツィーアが帰ったあと、夕食のために二人で食堂へ向かう途中で、アランはなぜか『見られている』感じがして、足を止める。


(なんだろう?気のせい?)


王宮内ではいたる所に護衛騎士が立っている。そのおかげで、アランたちは王宮内なら護衛騎士を付けずに歩き回れるのだが、当然騎士たちはアランたちの安全を守るために、アランたちを『見て』いる。


アランが出歩くようになってからは、好奇の目を向けられることも珍しくない。


だから、アランも『見られている』ことには慣れているのだが・・・


そんな視線とは違った、『見張られている』感じがしたのだ。


「アラン?」

「あ、ううん。なんでもない。あのね、僕の衣装ってどうしたら良いかな?って思って」

「ああ。そうだな。俺と同じような衣装にすれば良い。明日にでも針子を呼んで相談しよう」


レオリードはいつも通りで、変わった様子はない。


(気のせい、だよね・・・)


なにか異変があれば、レオリードも気づいただろう。


なにも言わないのは、アラン(じぶん)の気のせいだから。


なんとなく気にはなるものの、そうアランは結論付けて、そのまま忘れてしまった。





最後までお読み下さり、ありがとうございます。

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