生徒会へのお誘い
担任教師から釘も刺された。
高位の貴族令嬢方からのお呼び出しもクリアした。
なぜか王子殿下とも会話した。
だから、当分何もないとシスツィーアは思いたかったが・・・・・
「こんにちは、少しよろしいでしょうか?」
入学して1か月たつ頃、図書館で会う眼鏡の先輩が、珍しくシスツィーアに声をかけてくる。
「はい。どうかなさいましたか?」
「その前に改めて自己紹介をさせてください。3年のオルレン・レザと申します。レオリード殿下の側近を務めさせていただいております」
丁寧に腰を折られ、シスツィーアも胸のあたりがざわっとしながらも挨拶を返す。
「ご丁寧にありがとうございます。アルデス家の養女で、1年のシスツィーアと申します」
「急にお声がけして申し訳ありませんが、レオリード殿下がお呼びです。生徒会室までお越し願えますか?シスツィーア嬢」
お断りしたくても王族からの呼び出しを断ることはできず、オルレンの案内で、生徒会室のある棟へ向かう。
騎士科や普通科のちょうど真ん中に位置する生徒会室。扉の前でオルレンが扉を軽くノックし、なかへ入る。
入って正面にあるデスクでは、レオリードが手に持っていた書類を机に置き、ソファーには3年のネクタイをした騎士科の制服の男性が座っていた。
「急に呼び出してすまない。座ってくれ」
レオリードがソファーを進め、自分もシスツィーアの向かい側に座る。オルレンはお茶を入れて二人の前に置き、ソファーから移動した騎士科の男性と一緒に、一歩離れたところに立つ。
「今日、来てもらったのは・・・・・」
レオリードの話は生徒会役員への勧誘だった。
上級生からの指名制の役員選出。良ければ下位貴族や平民、女性の意見も幅広く取り入れたいと言う理由だが。
「申し訳ありません。お誘いいただいたことは光栄ですが、遠慮させてください」
「理由を聞いても?」
「女性の意見もと言われるなら、婚約者の方が相応しいと思います。下位貴族や平民の意見と言われても、上位の方へは意見を申し上げにくいですし・・・」
「マリナに生徒会は無理だな。上位の者へ意見を言いにくいのも分かるが・・・・・」
「でしたら、将来王宮勤めを希望する学生から募っては如何でしょう?きっと、殿下のお役に立ちたいと、みなさま協力してくださいます」
マリナが生徒会の仕事をするとは到底思えず、レオリードは首を横に振る。
けれど学生生活の限られた時間とは言え、これ以上目を付けられるようなことはしたくないと、シスツィーアも必死だ。
「わたしの義姉も王宮侍女を目指しておりますし、同じような方は多いはずです」
「そうだな・・・・・」
「殿下、彼女が言うことも理解できます。ただでさえAクラスに入った彼女を快く思わない者もいますし、来年私たちが卒業した後のことを考えると、他の者が良いでしょう」
成り行きを見ていたオルレンも、助け船をだす。
「そうか・・・・残念だが仕方ないな。だが、1年はともかく3年からとなると・・・・」
「香夜祭だけ手伝ってもらえば良くないか?女子の意見を取り入れるってことで、2年・3年に声を掛けてさ」
「そうですね。2・3年生なら進路希望も出てますから、王宮希望者だけでなく商家の者にも声を掛けて、幅広く募りましょう」
騎士科の学生とオルレンの後押しもあって、シスツィーアへの勧誘はなくなりほっと息を吐く。
代わりに知り合いはいるかと聞かれ、仲の良かった友人を推薦する。
「商家なら、2年生のシールス・ルグランはどうでしょう?お母さまが以前王宮勤めをしていたと聞いております」
「知り合いかー?学年違うのに?」
キアル・カーマイトと名乗った騎士科の男性が、不思議そうに尋ねる
「初等科から一緒でしたので。ルグラン夫人には、数年ほど義姉と一緒に礼儀作法を教えていただきました」
「へー。初等科かぁ。楽しそうだな。俺もせめて中等科から通いたかった」
キアルが羨ましそうに言い、シールスも候補に入れると請け負った。
シスツィーアが生徒会室を出て行ったあと、キアルはレオリードの向かい側へ再び座り、オルレンも新しく三人分お茶を淹れて、キアルの隣に座る。
「意外とまともなご令嬢だったな」
「どういう意味だ?」
「いや、子爵家でAクラスだから、もっとこう・・・・・自信ありげな子かと思ってた」
お茶を飲みながら、キアルがちょっと言葉を濁して言う。本当はもっと自意識過剰で思い上がった女性かと思っていたのだが、さすがに失礼だと言うのをやめたのだ。
「努力家だと思いますよ。授業中の態度も問題ないとリディック師も仰ってました」
歴史と魔道具関係の授業を受け持つリディックは、オルレンの親戚でもある。
「へえ。じゃあ人柄は申し分なかったってことだなー。惜しかったが、まあマリナ嬢たちと揉めるより良いんじゃないか?」
「私もそう思います。できれば彼女はそっとしてあげてください。どうしてもクラスでは馴染めず苦労するでしょうから」
キアルもオルレンも、もともとシスツィーアの生徒会入りを良くは思っていなかった。
レオリードが彼女に興味を持つのも分かるし、「下位貴族や平民の意見」を取り入れたい気持ちも分かるから、その意見自体に反対はしなかったが、だからと言ってAクラスに入ったシスツィーアでは、他の生徒の反感を買うこと間違いなしだ。
婚約者であるマリナも、レオリードの側に女性が近づくのは面白くないだろう。余計な火種になりそうなことは避けたかった。
だから彼女が断ってくれて良かったとシスツィーアには感謝しているし、せめて彼女の身内や知り合いを候補に入れるくらいはしたかった。
さっそく職員室で「香夜祭を手伝ってくれる人材を探したい」と、生徒名簿と進路調査票を借りて、誰に声を掛けるか目星を付ける。
「彼女の姉はBクラスで成績も良いし、王宮志望だから声かけて良いんじゃないかー?」
「シールス・ルグランも問題ありませんよ。貴族との取引もある商店ですから、反発もすくないと思います」
「だったら、その二人は決まりだな。あとは・・・・・」
女子生徒を4人選び、男子生徒は役員もいるから2人に絞り、人柄なども考慮したうえで本人たちに打診していく。声を掛けられた生徒たちは喜んで参加したいと言ってくれ、反発があるかと思っていた他の役員もすんなり受け入れてくれた。
顔合わせも無事に済み、和やかな雰囲気で香夜祭の準備を行えそうで、レオリード達も満足だった。
シスツィーアが生徒会室に呼ばれて10日程たった日の夕食の席で、リューミラが香夜祭までの間、生徒会の手伝いをすると嬉しそうに報告した。
「よかったな、リューミラ。殿下のお役に立つよう頑張るんだぞ」
子爵も夫人も満足そうに微笑んでいる。
「おめでとう、お義姉さま」
「ありがとう。ツィーアも一緒ならよかったのに。わたくしが困っていたら助けてね」
「ええ、できることはお手伝いします」
嬉しそうなリューミラに、シスツィーアも良かったと胸を撫で下ろした。
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