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はじまりの物語  作者: はあや
本編
83/431

アランの決心

レオリードの執務室をでたあと、アランは庭へ出ていた。


頭に血が上っている。


その自覚があるから、少し風にあたって頭を冷やしたかった。


(キアルの言っていることは、正しいよね)


そのことはアランだって、分かっている。


けれど、シスツィーアが自分の側から離れていく。


シスツィーアを自分から引き離そうとする。


そのことは許容できなかった。


(キアルは知らないからだよ。ツィーアがいなければ、僕が生きていけなことを。だから、勝手なこと言えるんだよね)


シスツィーアがいれば、アランは他の人と変わらない生活ができる。


それが他の者に知れたら、きっとシスツィーアをアランの側に置くことに反対はでない。


アランを疎ましく思う連中もいるけれど、それだって表立っては反対できない。


シスツィーアから魔力を貰っても、自分の魔力を作る機能は損なわれてない。


定期的に行われる検査でも、それは証明されている。


(僕の魔力は作られて、そして奪われている)


それは今も続いているけれど


シスツィーアと魔力性質が同じ。


それが作用しているのか、彼女からの魔力はアランに悪い影響を与えていない。


だから、理由は調べられるだろうけど、シスツィーアをアランの側に置くことに問題はない。


アランもいずれは父のあとを継いで、国王になれる。


でもそれは、シスツィーアの献身があってこそ


このことが明るみになれば、シスツィーアはきっと本人がどんなに抵抗しようと、どんな思いをしようと、生涯アランの側に置かれる。


もちろん身の安全は保障されるし、城の中で王族と同じような生活もできる。


ただ、アランから離れられないだけだ


アランが反対したところで、誰も従わない。


『アランが王族のつとめを果たすこと』


それが、王族にとっての、臣下にとっての、最優先。



それが分かっているからこそ、アランはシスツィーアの意思で側にいて欲しかった。


結婚したいとかそんな思いはない。ただ、このまま側近としてでいいから


アランが強制するわけでなく、シスツィーアが納得して


シスツィーアがシスツィーアのままで、側にいて欲しかった。


最初はシスツィーアを、命令して強制的にでも側に置けばいいと、考えないわけではなかった。


けれどシスツィーアは、アランが寝たきりでもそうでなくても、いつも同じ態度で接してくれた。


迷惑がらずに、嫌な顔一つせずに魔力をくれた。


アランを蔑むことなく、自分に出来ることを一生懸命して、笑顔で接してくれた。


泣いてるときは、慰めてくれた。


それだけでアランの中から、シスツィーアを利用しようという考えがなくなってしまって。


(我ながら、甘いかな)


キアルが知ったらまた怒るだろうし、自分でも苦笑するしかないけれど、


レオリードと比べずに、アランをアランとして扱ってくれたシスツィーア。


それだけで、アランはシスツィーアを利用しようとする気持ちがなくなって


友人になりたいと


ずっと側にいて欲しいと、願うようになったのだ。


「アランディール殿下」


そっと、メイドが声を掛けてくる。


「なに?」

「昼食は如何いたしましょう?お部屋に運ばせますか?」


アランは三食をきちんと摂るように、医師から言われている。

今まで、寝たきりの生活で最低限の栄養しか取れなかった。だから、身体の為にも医師と料理人が相談して作る食事を、必ず摂るようにと言われているのだ。


メイドが声を掛けてきたのも、その為だろう。


「食べるよ。食堂へ行く」

「かしこまりました」


遅くなったからか食堂には誰もいなくて。

一人きりで食事を摂って、部屋に戻る。


昨日のことがあるから、午後からは部屋で休むけれど、



「アラン殿下の側近は、謹慎となったそうですわね」


夕食の席で、国王の側妃(レオリードの母)からそう言われた。


今日の夕食の席には、国王と王妃はいない。

ふたりは公務で出かけており、まだ戻ってきてなくて。だからこその側妃からの言葉だろう。


「よくご存じですね」

「ええ。小耳に挟んだものですから」


少しだけ愉悦を含んだ、側妃の笑顔。


側妃はアランが普通の生活を送れるようになったことを、表面上は喜んでいても内心は忌々しく思っていて。

いつもならレオリードが間に立って、側妃のアランへの非礼を防ぐのだが、今日はレオリードもいない。異母弟のリオリースは不安そうに瞳をゆらゆらさせるだけで、どう立ち回って良いのか分からずにいた。


(そう言えば、お昼に体調悪そうだっけ。お見舞いに行った方が良いかな)


自分の体調不良がうつったかもしれない。そう考えると、レオリードに申し訳ない気持ちで、更に自己嫌悪に陥りそうだった。


「殿下の足を引っ張ることしか出来ない方なんて、解任されては如何でしょう?きっとその方が、殿下の為でもありますわ」

「ご心配ありがとうございます。ですが、彼女は解任しません」

「まぁ。けれど、彼女も解任された方が良いと、そう考えているかもしれませんわよ。女性なのに身体に傷をつけるなんて、わたくしなら耐えられませんわ」

「どういう意味ですか?」


思い当たることがないアランは、怪訝そうに訊ねる。


「あら?ご存じありませんの?殿下の側近として殿下をお守りできるように、騎士団長から護衛の真似事を教わっておいででしたわ」


目を見開くアランへ、おかしそうに笑みを深めて


「下位貴族ですもの。礼儀作法もなっておりませんでしょう?メイド長からも、随分と厳しく躾けられていたそうですわ」


側妃の更に告げる声が、妙にアランの耳に響いて。


「ご存じありませんでしたの?もしかすると、彼女も恥ずかしくて言えなかったのかもしれませんわね。ご自分が、殿下のお側にいるにふさわしい振る舞いができないばかりか、かえって殿下の品位を下げるだなんて」


どこか嘲るように言う側妃。


「あなたにはその程度の者しか、側にはいないでしょう?」


そんなアランへの侮蔑を含んでいて


ぎゅっ。アランは一度目を閉じて、ゆっくりと側妃と視線を合わせる。



「教えてくれて、ありがとうございます。けれど、彼女ならきっと、やり遂げてくれると信じています」


泰然と微笑んでアランが言うと、側妃は気圧されたように一瞬目を見張り。

そしてすぐに、申し訳なさそうな笑みを浮かべて謝罪する。


「差し出がましいことを申し上げましたわ。お許しください」

「いえ。僕が頼りないからでしょう。ご心配をおかけしました」



シスツィーアとの、すれ違いの理由。


それは全部アランの為で


(ツィーア。ごめんね)


部屋に戻り、早めに休む。

明日シスツィーアは来ないけれど、アランは公務の続きをするつもりだ。


今のアランに出来ることは、シスツィーアがいない間も心配を掛けないように、彼女の負担を少しでも減らせるように、過ごすこと。


そして、シスツィーアが戻ってきたら


(守られてばかりじゃダメだ。僕も、彼女を守る)


今までも彼女を守っているつもりだった。けれどそれは全然足りてない。


王座につきたいとも思わないし、異母兄こそその座(王座)に相応しいと思っている。


けれど


(僕に力がなくて、大切なものを守れない。まわりに好き勝手言われて、利用される。そんなのは、冗談じゃない)


アランがこの先、大切なものを守るためには、自分の思い描いた道を歩むためには


その地位に相応しい能力を示し、揺るぎない存在になること


正当な王位継承者(アランディール)』の存在を、貴族たちに認めさせる


(誰にも、僕の邪魔をさせない)


そう決心した。



最後までお読み下さり、ありがとうございます。


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