異母兄弟
「アラン?体調はどうだ?」
「今日も変わらないよ」
レオリードの問いかけに、アランと呼ばれた青年はきつそうに寝がえりを打ち、側に椅子を持ってきて座っているレオリードへ身体を向ける。
「そうか。今日は街へ出たから土産を持ってきた。あとで食べると良い」
「ありがと」
返事する声も怠そうで、やっとという感じだ。
アランの本名はアランディールと言い、レオリードの一歳年下の異母弟だった。
レオリードは学園が休みの日に、原因不明の魔力不足でずっと寝たきりの異母弟のもとを訪れることにしている。
幼い頃はレオリードと共に遊んだりしていたのだが、いつの頃からか寝たきりとなり「魔力不足」と診断され、学園にも通えずにいるアラン。
『最低限』の生活はできる。けれど、レオリードと同じような『日常』生活は送れない。
そのせいで17歳になろうと言うのに、友人と呼べる間柄の者もいない。
そのことを不憫に思うが、本人が傷つくから口や態度にだすことはせずにレオリードは時間を見つけては見舞うことにしていた。
それにレオリードには異母弟に対する負い目もあったから、余計に気にかけているのもある。
「今日はどこに行ったの?」
「東側にある孤児院だ。老朽化が進んで危ないと意見書が出ていたからな」
「ふうん。建て替えるの?」
「そうなるだろうな」
アランは喋るのもきつそうだが、少しでも外の世界を知りたいのとレオリードくらいしか会話をする相手がいない事もあって、異母兄が来た時はできるだけ話すようにしていた。
「学園では変わったことないの?」
学園の話を聞くのはアランにとって少しだけ苦痛だが、同年代の子たちの様子を知りたい好奇心もあって、時々レオリードに様子を尋ねる。
レオリードも弟のそんな複雑な思いを知っているから、学園の話を自分からすることは殆どなく、聞かれたら答えるだけだ。
いつも通り、最近の流行りだったり授業の様子やちょっとした笑える話をして、弟の気分を和らげる。
「あとは・・・魔力が多い下位貴族が入学してきた。マリナと同じクラスだ」
「そうなんだ。マリナ嬢と一緒ってことは、苦労しそうだね」
レオリードの婚約者のマリナとは、アランは一度だけ会ったことがある。
見た目の可憐さに反してプライドの高そうな、いかにも高位貴族のご令嬢だった。
アランに対しても、『憐みから優しくして差し上げてます』感がありありと伝わって、あまりいい印象はない。
そんな彼女が下位貴族と一緒のクラスだなんて、きっと内心屈辱を感じているに違いなくて。そう思うと少しだけ笑えて、口を歪める。
「せっかく入学したんだ。少しでも学園生活を楽しめるよう気を配るつもりだ」
何気なく口にしたレオリードの言葉。
異母兄が特定の者を気にするのは、珍しい。いつもは「王族だから、公平にしないとな」が口癖なのに。
「珍しいね。よっぽどその人のこと気に入ったの?」
「いや、入学式早々マリナたちが絡んでいたからな」
「・・・・てことは、その子、女の子?」
「・・・そうだが?」
「へぇー。どんな子?」
「そうだな・・・。マリナたちに絡まれても、泣くこともなく耐えていたな。大勢に詰め寄られて怖かっただろうに、少なくとも表には出してなかった。気丈な子だと思うよ」
レオリードが思い出すようにしながら話す。顔が少し曇っていて、そのことも珍しくてアランは更に問いかける。
「可愛い?」
「あ、いや・・・」
今度は顔を少し赤くして、口ごもる。
「人の容姿を、どうこう言うのは、どうかと・・・」
いつもとは違う兄の様子に、アランはおかしくて口元が緩む。
「じゃ、身長はどのくらい?髪の色や目の色は?」
「ああ・・・。身長は、俺よりだいぶ低いな。髪の色は、アランと似ていたな。瞳は晴れた日の空の色だろうか?」
レオリードが身長はこれくらいか?と手で示しながら話す。なんだかんだ言いながらも、彼女の話をするレオリードは楽しそうだ。
「僕に近い髪色かぁ。『女神の髪色』に近いってことだよね」
アランの髪の色は、『女神の髪色』と言われる、明るい白っぽくも見える金色の髪だ。
この国の信仰の対象である女神セフィリア。
彼女がこの国に顕現したとき、太陽が昇る時の明るい光を集めたような輝きを纏い、女神の輝きは大地に光を人々に希望を与えた。
そのときの明るい光の色を『女神の色』と言いい、明るく白っぽい金色の髪は『女神の髪色』と呼ばれている。
この国の貴族社会において金色の髪は珍しくなく、それは女神から受けた『祝福』の名残だと言われている。
幼い子どもは明るい金色の髪が多く、成長と共にだんだんと髪の色が変わり、8歳を過ぎるころには自分の髪色は決まる。だから、成長しても女神と同じ髪色を持つ者は、特に女神の加護があると言われ、実際魔力量が多い者がほとんどだ。
「そうだな。明るい中で見たから、余計にそう見えたのかもしれないが」
「へぇ。会ってみたいな」
自分と同じ髪色と聞いて、アランも興味を示す。
「そうだな。機会があれば会わせよう」
弟が珍しく口にした願い。レオリードも頷いた。
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