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はじまりの物語  作者: はあや
本編
73/431

王族としての自覚 ②

「シスツィーア嬢!」


キアルの鋭い、怒気を含んだ声。


「っ!」


さすがにシスツィーアも一瞬で正気に戻って


「申し訳ありません!」


目を見開いてアランを見たあと、勢いよく頭を下げる。


(どうしよう・・・やってしまったわ・・・)


怒鳴られた恐怖からか、シスツィーアの目には涙が浮かぶ。


今の自分の行いが、『王族に対しての不敬罪』にあたる。


そのことに青ざめるが、それよりも腕を引っ張る、強引なアランにむっとしたのも事実で。


(アランは、心配してくれただけなのに)




本当なら、午前中にメイド長と一緒に家具の運び入れを行うはずだった。

けれどメイド長の予定が変わって午後からになったため、シスツィーアは午後の予定だった騎士団長のところで訓練を受けていた。


「遅い!」


今日は上手く身体を動かすことができずに、騎士団長から叱責されることが多くて。


敵役の騎士が振り上げた棒を防ごうとして手にあたって、みみず腫れのような赤い跡が残ってしまったのだ。


医務室に行こうかとも考えたが、棒が当たった時はジンっと痺れていた右手も、しばらくすれば痺れは治まって痛みも引いた。


だから、そのまま執務室へ行ったのだ。


(まさか、アランが気付くなんて・・・)


赤い跡はうっすらだったし長袖のブラウスを着ていたから、アランが気付くなんて思いもしなかった。


そもそも反射的に手を振り払うなんて、びっくりしたのもあるけど、心のどこかにあった、アランに対しての不満。それを自制できなかったからだ。


昨日は具合が悪かったと言え、妙に不機嫌だったアラン。


(なんであんなに不機嫌だったのかしら・・・?わたし、なにかいけなかった?)


シスツィーアはシスツィーアなりに、アランに迷惑を掛けないように頑張ってきた。


魔力を渡したら身体は重くなって、疲れた感じになるけど、アランに普通に過ごして欲しかったから、できるだけ気づかれないように振る舞っていた。


騎士団長との慣れない訓練だって、メイド長からのお茶の淹れ方だって


『お仕事に必要だから』


側近の仕事を引き受けたのはシスツィーアだから、一生懸命にしてきた。


けれど、アランのところで仕事をするようになったから


アルデス家とも生家とも、かろうじてあった繋がりもなくなりそうで


それだけじゃなくて、


ひとりで放り出されそうな不安や、心細さとかが消えなくて


(なんで、わたしばっかり・・・)


訓練中、そんなことが頭をよぎってしまって、怪我もしてしまった。




けれど、そんなことは関係なくて




「申し訳ありませんでした」


下げた頭のまま、更に謝罪を重ねる。


「今のは王族に対する不敬罪として、処罰されてもおかしくない」

「・・・はい」

「ちょっとキアル!」


当然だ。王族の手を振り払うなんて、してはいけない。するにしても、もっとやんわりとした穏やかなやり方でするべきだ。


ふたりの会話を聞いて、慌ててアランが間に入る。


「僕がツィーアに急に触ったからだろ!?僕は気にしてないし」

「そういうわけに参りません。どんな理由で会っても、王族に手を上げたことには変わりがないのですから」


いつもとは違い、キアルの態度は王族に対する家臣の姿。


アランは呆然として、キアルを見つめる。


(嫌がるツィーアの手を無理やり掴んだのは、僕なのに)


シスツィーアは涙を止めて、唇をきゅっと噛みしめる。


(キアルさまの言っていることは、当然のことよ)


守られるべき王族に、怪我を負わせるところだった。


今回、アランに怪我はなかった。


けれど、振り払った時に、例えばシスツィーアの爪でアランの手をひっかいてしまったら・・・?


それは、シスツィーアの落ち度になる。


「申し訳ありません。せっかくの殿下のお気遣いを無下にし、お怪我を負わせるところでした」

「ツィーア!?」

「処罰をお受けします」

「っ!」


戸惑いをみせるアランに、頭を下げたままのシスツィーア。


アランはレオリードを見るが、彼もつらそうに歯を食いしばっている。


(どうしようも・・・ないの・・・?)


キアルの姿勢は揺らがない。


レオリードも、目をそらしていて


今この場でアランに出来ることは、なかった。


「・・処分は、明日伝える。だから、今日はもう帰って」

「畏まりました」


ぐっと歯を食いしばって、かろうじて絞り出したアランの声。


シスツィーアも少し震えた声で答え、頭をあげたシスツィーアとアランの視線が交わる。


二人とも泣きそうな顔をしていて


シスツィーアはアランの視線を振り切るように、レオリードへも謝罪する


「レオリード殿下にも、不快な思いをさせて申し訳ありませんでした。失礼致します」

「・・ああ」


重苦しい雰囲気だけが、部屋に残された。





「なんでキアルがあんなに怒るんだよ!」

「あのな、当たり前だろ!?お前の安全を守るのが彼女の仕事で、怪我させるなんて問題外だ!」

「キアルも見てただろ?!僕が急にツィーアに触れたから、彼女が驚いて僕の手を振り払ったの!」

「見てた!けど、シスツィーア嬢が振り払った時点で、シスツィーア嬢は咎められても仕方なくなるんだよ!」

「そんなの横暴だよ!」

「それだけ王族は守るべきものなんだよ!そもそも、お前もご令嬢に気安く触れるな!」

「うー」


シスツィーアが部屋をでたあと、アランがキアルに食って掛かる。

けれどキアルの言い分が正しくて、アランに勝ち目はなかった。


口惜しそうに恨みがましい目をキアルに向けるアラン。

それを真っ向から受け止めながら、畳み掛けるようにキアルが続ける。


「あのな?急に触れられたら彼女だって反射的に手を払っても仕方ない!けどなぁ、いくらお前とシスツィーア嬢の仲が良くても、お前が「気にしない」と言っても、それでも咎められるのは彼女なんだ!お前も少しは自覚しろ!」





最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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