王族としての自覚 ①
新学期が始まる少し前。
シスツィーアが騎士団長とメイド長から、個別に教えられ始めた頃から
アランも新たに母である王妃から、王族としての心構えや人付き合いの方法を学ぶことになった。
「いい?アラン。まず大事なのは、何事にも公平さと公正さを持つことよ」
優雅に微笑みながら、王妃がアランの前に座って1つ1つ教えていく。
そこには息子が健康になり、こうやって自ら教え導くことが出来る喜びが隠しきれてない。
「ああ。うん。兄上もよく言ってたよね?」
「そう。わたくしたちが、誰か特定の人物ばかり贔屓にしていたら、他の人たちは面白くないでしょう?」
「・・・そうだね」
兄ばかりが褒められて、認められて。
確かに面白くなかったし、兄に嫉妬に似た感情を持ったこともあった。
兄と自分の度量の違いを見せつけられて、自分の器の小ささや不甲斐なさや惨めさで泣くことも。
「だから個人的なお付き合いと、大勢の前で王族として振る舞っている時のお付き合いの仕方は、少し変える必要があるわ」
「じゃあ、ツィーアとも?」
「そうなるわね」
むー。っと眉を顰めるアランは、ピンときていない様子だ。
「あなたとシスツィーア嬢の、仲が良いことは聞いているわ。けれど彼女にも、他の方と同じような接し方が必要よ。それに個人的なお付き合いだとしても、節度あるお付き合いが必要だわ」
「側近なのに?」
「だからこそよ。身近な者にはどうしても甘くなってしまうわ。情が移るというのかしら?日頃の人となりを知っているからね。けれど、だからこそ厳しい態度で接することも必要なのよ」
微笑みながらアランを諭す王妃。
『あなたには無理をしてほしくないの』
これまでのそんな雰囲気から
『立場に相応しい威厳と立ち居振る舞いを』
と言う、王子の立場を意識したものへ変わっている。
アランはそれを嬉しく思う反面、期待に応えられるか不安で、王妃へ向ける視線が弱々しいものになる。
「僕にできるかな?」
「できるわ。最初は難しくても、意識していれば自ずと見に付くものよ。レオリードというお手本もいるでしょう?」
「う・・ん。そうだね」
思い浮かぶ兄の顔。
けれど、シスツィーアに対する姿とキアル、オルレンに対する態度は違うとは思えなくて
(あ、でも。ツィーアには、兄上ちょっと違うかも)
キアルたちとは違って、ちょっとだけよそよそしい態度。
仕事の事では話しかけているけれど、個人的な話はした事がないように思う。
あれが側近と、そうでない者への違いなら
(キアルにはわからないけど、オルレンにはどうかな?)
アランも幼い頃からほとんど一緒に育ったキアルへは、従兄弟なこともあって遠慮することはあまりない。キアルもそこまでアランやレオリードへ畏まった態度は取らないから、気にしたことはなかったけれど
(やっぱり、オルレンには違うのかな?)
オルレンはレオリードへ、いつも畏まった態度を取る。
それはアランへも同じだけど、キアルにはどうだろう?
キアルもオルレンには違うのかな?
キアルが『王族』として振る舞う姿をアランは知らない。『王族』としてキアルが行動するときは、どんな風なんだろう?
そう考えると、アランはみんなの立ち居振る舞いに興味が湧いて。
「ちょっと、意識してみるよ」
「ええ。あなたになら出来るわ」
笑みを深めて、優しく王妃は頷いた。
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