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はじまりの物語  作者: はあや
本編
6/431

入学式 ③

「初めまして、ですわね。マーシャル公爵家のマリナと申します。あなたとは同じクラスですわ。改めて、よろしくお願いいたしますね」


食堂で同じ新入生のリボンを付けた令嬢たちに、少し離れた中庭へと誘われた。


(これって、あれよね?いわゆるお呼び出しよね?)


表情は変えてないつもりでも、シスツィーアの心臓はばくばくで、何が起こるのかと怖くて仕方がない。


マリナに続いて取り巻きの令嬢たちも自己紹介をしてくれるけど、さすがに覚えきれずせめて顔だけでも覚えようと必死だ。


「初めまして、アルデス子爵家の養女でシスツィーアと申します。至らないことばかりで、ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いいたします」


そう挨拶を返すけど、マリナを中心に左右に二人ずつ令嬢が並んでいて、一人はシスツィーアを睨みつけている。


(マリナさまが、リーダーね)


怖くて震えないように自然に振る舞っているつもりだが、その態度がふてぶてしく映るのか、取り巻き令嬢が怒りを込めた声で口を開く。


「あなた、一体どんな手を使ってAクラスに入りましたの!?」


(始まった・・・・)


そう思った時には、次々取り巻き令嬢が口を開いていた。


「わたくしたちは、幼いころから交流がありましたの」


「マリナさまのお宅に、よくお招きいただいてお茶会などをしておりましたのよ」


「わたくしたち高位貴族は、中等科まで家庭教師に教わるので、あなたのような下位の方と違って学園には高等科しか通うことがないでしょう?」


「ですから、仲の良い5人で同じクラスに通うのを楽しみにしていましたの!なのに、一人だけBクラスになってしまって・・・・・」


「それが、あなたのような下位貴族の方がAクラスだなんて!」


「いったいどんな手を使ったの!?」


じろりと上から下まで見られる。


(えっと・・・・・)


残念ながらシスツィーアは小柄で痩せているし胸もないから、色仕掛けは無理な体型。


だけど、令嬢たちの視線は厳しさを増すだけだ。


シスツィーアはおもわず胸の前で両手を握りしめる。


初等科でも、中等科でも同じように「生意気だ」と詰め寄られることはあった。その時だって、どうにか切り抜けてきた。


高位貴族から詰め寄られるのは初めてだけど、Aクラスにいる以上いずれあるかもと考えていたし、それが今日だっただけだ。


(大丈夫・・・・大丈夫・・・・)


高位貴族には逆らえない。だから、じっとタイミングを狙って謝罪して。


そんなことを考えていたシスツィーアだが、黙っているからか益々相手はヒートアップしてきて、段々と一人の令嬢が距離を詰めてくる。


「だいたい、普通なら辞退なさらない!?」


「そこまでしてAクラスに通いたかったの!?」


「・・・まさか、マリナさまを通じてレオリード殿下とお近づきになろうとなさったの!?」


「え?」


おもわず声が出てしまう。


(殿下・・・?婚約者?)


「ご存じありませんでしたの?マリナさまは第一王子殿下の婚約者ですわよ?」


訝しむような、本当に知らなかったのかと疑う声と視線。


「存じませんでした」

シスツィーアも誤解されてはたまらないと、はっきり否定する。


「そう?あまり公にはしていませんもの。下位の方がご存じなくても不思議ではないわ」


ここに来てから、ずっと変わらず笑顔のマリナ。


マリナがそういったおかげで、取り巻きたちもそれ以上このことは言わなかったけど、その後もシスツィーアを責める声は止まなくて・・・・


(えっと・・・・要するに・・・・)


ずっと黙ってシスツィーアを睨んでいる少女が、一人Bクラスになった子で伯爵家のご令嬢。


一番怒っているのは同じ伯爵家の方で、今までは力関係で上だったのが、彼女がいないクラスでは立場が下になってしまって、お怒りの様子。


他の2人は侯爵家出身で、下位貴族と同じクラスなのが許せないみたいで、マリナは分からない。


Bクラスになったご令嬢を慰めていたところにシスツィーアを見かけて、一言いいたくて声を掛けてきたのが事の始まりのようだ。


(わたしなら、クラス離れて煩わしさもなくて、嬉しいと思うけど・・・・)


家の事情もあるし、あれだけ睨んでいるのだ。きっとプライドも高いだろう。親からも叱られたかもしれない。


少しだけ同情もするけど、シスツィーアも辞退できるならしていた。でもそれを言ってしまうと、火に油を注ぐだろうし・・・・。


(どうしよう・・・・・)


逆らえない相手から、大勢で詰め寄られるのは怖い。


さすがに態度に出すと不味いと思うから、平静を装っているけど気を抜くと足が震えてしまう。


令嬢たちもネタが尽きたのか、勢いが治まってくる。だから、話が途切れた頃を見計らって


(よし!)


心の中で気合を入れて、すうっと大きく息を吸い込み、声が震えないように気を付けてシスツィーアはマリナに向かって頭を下げる。


「みなさまのご気分を害してしまい、申し訳ありません」


(ここでのトップはマリナさまだから、これでいいはず・・・)


「あなっ!」


取り巻きの一人が声を荒げるのと同時に


「どうかしたか?」


不意に男性の声が被った。


足音が近づき、その音が近づくにつれて場の空気が変わる。


とげとげしさがなりを潜め、「知られたくない相手が来てしまった」そんな気まずい空気が流れる。


微かな衣擦れの音


そして


「なんでもありませんわ。失礼いたしますわね」


そうマリナが言って、去っていくのが分かる。


顔を上げるタイミングを失って、そのまま頭を下げていたシスツィーア。


「顔を上げてくれ」


声に従って姿勢を戻すと、長身の男性がいた。


精悍な整った顔立ちで、深い海のような青色の瞳の男性。薄い色や明るめの瞳の色が多い中で、珍しく深い色の瞳。


だけど、髪の色は高位貴族に多い金色。


(でも、少しグレイがかってる?珍しいわね)


じっと見つめてしまい、はっとなって慌ててお礼を口にする。


「助けていただいて、ありがとうございます」


肩の力が抜けて、少し笑ってした一礼。


けれど、相手は何も言わずにじっとシスツィーアを見下ろしていて


「あの・・・・?」


「あ、ああ。すまない。見慣れない顔だと思って」

「この度、新しく入学いたしました。アルデス子爵家の養女でシスツィーアと申します。助けていただき、ありがとうございます」

「ああ。君がそうなのか」


新入早々マリナに絡まれていたから、予想していたのだろう。


少し引き締めた、厳しい表情。


(学園中が、わたしのこと知ってるの?だったら、やっぱり高位貴族の方は気に入らないのね)


ため息をつきたくなるのを抑え、早々に立ち去ろうと口を開きかけると


「私は3年生のレオリードだ」

「え・・・・」


(レオリードって、第一王子??マリナさまの婚約者??)


さっき聞いたばかりの名前。


内心では慌てて、でもそれを態度に出さないようにして


「大変失礼いたしました、殿下。マリナさまとは何もありませんでしたので、ご心配なさらないでください。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。わたしはこれで失礼いたします」


そう言って、その場を立ち去った




最後までご覧いただき、ありがとうございます

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