執務室作り
メイド長たちからの話があった翌日から、シスツィーアの毎日は目まぐるしかった。
「執務室もらえるの!?」
メイド長から執務室が用意されることを聞いたアランは、座っていたソファーから飛び上がって喜ぶ。
「ええ。ですから調度品のことをご相談したくて」
「そうだね。どんな部屋にしようか?ツィーアはどんなのが良いと思う?」
「えっと、レオリード殿下みたいな感じかしら?」
レオリードのところしか知らないシスツィーアが、思い浮かべながら言うと
「うーん。あの雰囲気、兄上には合ってるけど僕はちょっと。どうせなら、父上みたいなのが良いかな?」
「でしたら陛下のお部屋を参考にして選びましょう」
陛下の執務室へ入ったことのあるアランが言うと、メイド長が手元にある見本から幾つか選んで差し出す。
アランはそれを見ながら、どんな部屋にするかじっくりと選んでいく。
「部屋って、どこらへんの部屋になるの?」
「陛下が王太子時代に使われていたお部屋ですわ」
「あの部屋かぁ。調度品はどうなってる?」
「殿下に選んでいただけるよう、いまは全て移動させてありますわ」
(えっ!?)
陛下がかつて使用していたと聞き、シスツィーアは自分が出入りするが場違いなように思えてきて、胃のあたりがキューっとなる。
「机はこれが良いな。あ、椅子はこっちだけど、この部分って変えられる?」
「確認しておきますわ。来客用のソファーは如何いたしましょうか?」
「それはこれかな?テーブルは・・・」
「こちらのテーブルは如何でしょう?」
「うん、それにして。あとは・・・」
「本棚は必要かと思いますわ」
「そうだね。うーん、本棚は王族用の図書室にあったようなのが余ってない?あれなら部屋に合うと思うんだよね。あと、兄上のところみたいに茶器を置ける棚って」
「それでしたら、今日は間に合いませんでしたが取り寄せておりますわ。明後日には届くかと。本棚は確認しておきます」
「ありがと。あとは・・・・」
メイド長の用意してくれた見本を一緒に見ていたシスツィーアだが、日本で言うなら大手企業の社長室とかで使われるような、重厚な雰囲気の物ばかりで気後れしてしまう。
(そうよね・・・国を代表する方たちの使うものですもの・・・)
上質な素材を使って、洗練されたデザインで作られるものたち。
下手に意見を言って品格とか質を落としたくないと、シスツィーアは黙って二人のやり取りを眺める。
シスツィーアがここにいる必要がないくらい、アランとメイド長だけで話は進んでいく。
「大体はこんなものかな。あとはツィーアの机かな。どれか気に入った物ある?」
「えっと、アランのお部屋ですもの。アランが気に入った物にしましょう」
にこにこと上機嫌なアランはシスツィーアの様子に気が付かず、見本を広げて並べる。
「ツィーアも使う部屋だよ?少しくらい意見言いなよ。これなんてどう?こっちは?」
「えっと・・・」
「どちらを選んでも、お部屋の雰囲気を壊さないと思いますわ」
メイド長のさりげない言葉に、これまでアランが選んできた物と見比べながら
「えっと、こっちかしら?」
「うん。僕もそっちが良いと思う。メイド長、ツィーアの机はこれで椅子はこれね」
恐る恐るシスツィーアが指をさしながら言うと、アランも満足そうに頷く。
(良かった、あってた)
気付かれないように、ほっと静かに息を吐く。
「あと、全部を配置した時の見本図って」
「至急、用意させますわ」
「全部選び終えてからで良いよ。よろしくね」
アランが選んだ家具を配置してバランスが悪くないか、まずは見本図を作ってもらう。
それを見た後に、アランが最終的に決めることになる。
思いのほか、家具選びは順調に進んだ。
「君は、下位貴族だったよな?」
「・・・はい」
「それで、学園ではAクラスなんだな?」
「・・・・・・はい」
追加の魔力を注ぐ時間を決めるために、昼前に総長とアランと共にシスツィーアは執務室を訪れる。
まだ何もないこの部屋は、とても広くて。
窓を開けると、少しだけ涼しさを含んだ風が部屋を通り抜けて気持ちいいのに
総長だけが厳しい顔をして、魔道具の魔力残量を見ている
「なんでだ?」
「何か問題あるの?」
「ありません・・・・・いえ、あります」
「えっと・・・」
言葉の意味が分からずに、けれど険しい声からは良いことではないことくらい想像できる。
「なんで、魔力が減ってないんだ!?」
「どういうこと?」
総長の話だと、王族用の魔道具は精度が高い分、魔力を必要としている。陛下ですら執務室の魔道具には一日に一回は魔力を注ぐのに、シスツィーアが昨日注いだ魔道具は、魔力が殆ど減っていない。
「君の魔力と王族用の魔道具が、相当相性が良いってことだぞ?これがおかしくないわけあるか!」
「きゃっ」
急に大きな声を出されて、思わずシスツィーアは悲鳴をあげる。
「ちょっと調べさせろ!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ。別に不思議なことじゃないだろ?」
「いいえ!私が知る限り、初めてのことです!」
「いや、だって、」
「あっ!あの!まだこの部屋が使われていないからじゃないですか!?」
アランが庇おうと声を上げてくれるが、意に介せずシスツィーアの腕を引っぱって何処かへ連れて行こうとする総長へ、必死に抵抗する。
「はぁ!?」
「あ!それはあるんじゃない!?父上の執務室は使われてるし、他国の間者とかいるだろうし!」
「そうですよ!この部屋はまだ誰も使ってないから、魔道具が待機状態とか!」
「・・・・・考えられないわけでは、ないな」
どこか腑に落ちない顔をしながらも、総長が足を止めて考え始める。
「あの!実際に執務室を使い始めてから、考えたらどうでしょう?」
「そうだよ。ツィーアが逃げるわけじゃないし」
アランの言葉にシスツィーアがこくこくと頷くと、やっと手を離してくれて
「・・・・そうだな。実際に部屋を使い始めてから考えよう」
そう言って、総長とはまた明日部屋で落ちあうことになる。
シスツィーアたちは逃げるように部屋から離れて
二人とも総長にこれ以上突っ込まれなくて、ほっとしてどっと疲れて
アランの部屋に戻ってからも、メイドが昼食に来ないアランを呼びに来るまで二人でぐったりしていた。
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