入学式 ②
(お兄さまは分かりやすすぎるわね)
講堂に入ると一年生は前に用意された椅子に座るよう誘導され、シスツィーアは兄と義姉と離れて座る。
30分もしないうちに入学式が始まり、学校長のお祝いの言葉、在校生からの歓迎の言葉を聞きながら、先ほどのアルツィードの態度を思い出していた。
リューミラは気づいてないし、シスツィーアも気づかない振りした。
けれど、二人を見たアルツィードは眉を顰めて、何か言いたそうな顔をしていた。
原因は分かっている。
(きっと、この制服が原因ね)
シスツィーアの制服はリューミラからのおさがり。
本当なら新しい制服を買ってもらい入学するはずだったが、リューミラが予想以上に背が伸び、着ていた制服のサイズが合わなくなってしまったのだ。
スカート丈は余裕をもって作ってあったから、詰めていた分をほどけば良かったが、ジャケットは丈も袖の長さも合わず、あと2年着るのには無理があった。
だから、新しく作ったのはリューミラの制服でシスツィーアはおさがり。
当の本人は納得しているけど、制服代は生家から出ているから、アルツィードは納得できていないのだろう。
(仕方ないじゃない、身体に合わない制服着て通うのが恥ずかしい気持ちわかるし。妹が姉のおさがりって普通のことだし。なにより家庭内に波風立てたくないし)
シスツィーアの立ち位置は微妙で、生活は子爵家でしているけど、生活費や学費やらは生家から出ている。
「だったら男爵家のままで良かったんじゃない?」
と、シスツィーアは思うけど、アルツィード曰く
「力のない男爵家だと、利用されて捨て駒にされるかもしれないからだろうな」
ロック家が巻き込まれ、家に不利益がかかるといけない。だから、上位の貴族の後ろ盾は必要。
だけど高位貴族に養子に入ると、大人の事情もあってゴタゴタするらしく、アルバートが難色を示した。
一方のアルデス家は、数年前の魔物討伐で領地に出た被害が大きく資金難だったこと。夫人がロック家の隣の領地の、高位貴族の庶子だから、いざという時には夫人の生家が後ろ盾になることを条件に、シーリィの実家から魔道具を直接買い付ける権利と、シスツィーアの生活費をロック家が出すことで、学園を卒業するまでの養子縁組に合意したのだ。
だから、金を出してるのにお古を着ている妹と、金を出してないのに新品を着ているリューミラを見て、眉を顰めたくなる兄の気持ちも理解できる。
シスツィーアはそっとため息をつく。
(お兄さまのフォローもしておかないと・・・・・)
アルツィードがアルデス家に何か言うことはないと言い切れるが、だからと言って放っておくと、不満が溜まっていくばかりだ。こんなことは今までもあったし、きっとこれからもあるのだから。
そんなことを考えている間にも式は進み、学園の理念や全体的な注意事項など一時間程度で式は終わり、この後は移動して各クラスで担任とクラスメイトと顔合わせだ。
(・・・・視線がいたい・・・・)
教室へ入ると、あからさまに見てくる人、ちらちら見てくる人、いろいろだけど好意的な視線は感じない。
心臓はばくばくしているけど何気ない風を装って、決められた席へ着く。
一番後ろの窓側の席。
(良かった。授業中もあんな視線感じたくないもの)
15人ほどのクラス。だけど、お友達になれそうな人はいなくて、分かっていたけどシスツィーアの気分は重い。
担任が自己紹介と明日からの説明をして、今日は解散だ。
他のクラスメイトが教室を出た後で廊下に出ると、入り口で待っていた担任にそのまま職員室へ連れていかれ、くれぐれも上位の貴族と問題を起さないように釘をさされる。
Aクラスを担当する教師陣も、もとは高位貴族出身と聞いている。だからなのか、国の方針には従うが、迷惑そうな態度は隠そうともしない。
「はい。みなさまのお邪魔にならないよう大人しくしています」
一通り聞いて話が途切れたタイミングで、そう言って頭を下げ職員室から出る。
(そんなに言うなら、Aクラスに入れなければいいのに)
教師がシスツィーアを受け入れ難いのも分かるが、シスツィーアも好きでAクラスになったわけではないことも、少しくらい理解して欲しい。
いらいらしながら帰りたくなくて、せっかくだからと校内を見ていこうと、もらった見取り図と睨めっこする。
(講堂はあっちだったから・・・・・)
明日からの授業で使う教室を1つ1つ見て回る。
さすがに国が経営しているだけあって敷地は広く、慣れないうちは迷子になりそうだった。
一通り見て回ったころ、空腹を感じて時計を見るとお昼をとうに過ぎている時間で、食堂へ行ってみることにする。
(喉も乾いたし、せめて飲み物だけでもないかしら?)
食堂では、パンと飲み物が残っていたからそれを購入して、奥まった席に座って食べながらまわりをぼんやり見まわす。
入学式の付き添いで来たのか、保護者同士や親子で楽しそうに話している姿もちらほらある。
食べ終わってもそのまま椅子に座って、ぼんやりと窓の外を眺めていると
「ごきげんよう」
そう声をかけられた。
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