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はじまりの物語  作者: はあや
本編
44/431

おまじないの護符

シスツィーアが王都で初めて夏の嵐を経験した数日後。

レオリード、キアル、オルレンの三人は公務から離れて、王家所有の避暑地へ向かう。


本当ならもう少し早くから行く予定だったが、アランへ公務を教えることになったための予定変更だった。例年通り移動を含め10日で日程を立てる。


戻ってくるとすぐにキアルは騎士科の訓練が始まり、それが終わると香夜祭の準備で忙しくなる。レオリードたちは学園生活最後の夏季休暇を思い切り楽しむつもりだった。


アランも一緒にどうかと誘われたが、まだ体調がどうなるか分からないからと、医師から許可が下りずに断念した。

当然シスツィーアはアランが行かないから行く必要はない。一応誘われたが丁重に断り、レオリード達が王都いない間は側近としての仕事も休みになった。



休み中もアランへ魔力を渡すために、シスツィーアは王宮へ行くつもりだったが、

「せっかくなら、ツィーアも少し休みなよ」

とアランから言われ、いつもより多めに魔力を渡して休暇を取る。と言っても、王都にはいるから「何かあったら連絡して」と伝えてはいたが。


午前中にアルデス家での家事を終わらせ、午後からは祖父の魔道具工房へ行き自分の魔道具をメンテナンスしたり、領地からさっさと戻ってきた祖父の手伝いをしておこずかいをもらったり、学園の課題を終わらせたりしていると、あっという間に数日が過ぎる。


(そろそろ、一度様子を見に行こうかしら?)


そんなことを考えていた矢先に、アランから連絡が来た。


レオリードから聞いた『おまじないの護符』。

それが見つかったと連絡が来たのだ。



シスツィーアが図書室で聞いた護符の話は、アランも覚えていた。


「その護符を持っていたら身体が軽くなった気がして、嬉しくてしばらくの間肌身離さず持っていたんだ」


と懐かしそうに教えてくれる。


「その護符ならまだ持ってるよ。どこにしまったのかは、メイドに聞かないと分からないけど」

「良かったら見せてもらえる?興味あるわ」

「良いよ。メイドに探してもらうから、ちょっと時間ちょうだい」


それがお休みに入る前の話で、見つかった護符を見せるから城に来てと手紙に添えてあった。



「こんにちは、アラン。体調はどう?」

「ん。暑いからちょっとばてそう。ツィーアは?」

「わたしもよ。王都の夏って、こんなに暑かったのね」


翌日、さっそくシスツィーアはアランを尋ねていた。今日はお客さまだからとソファーを勧められて、アランの向かい側に座る。


すぐにメイドがお茶の用意をしてアランとシスツィーアの前に置き、部屋の扉を開けたまま外へ出る。


今日のお茶はアイスティー。まだまだ暑いからと、外からやって来たシスツィーアに気を利かせてのことだ。


先日のアランの『死にぞこない』の話のあと、メイドたちとどんなやり取りがあったのかは分からないが、アランの担当メイドは総入れ替えになったとシスツィーアは聞いていた。


アランとしては、『死にぞこない』と言われたのは随分と前のことだし、言っていたメイドの顔も分からないから、処罰を与えることまでは考えていなかった。けれど、「何らかの対応を」とレオリードが譲らず、「過去一度でもアランを担当したことがある者は、今後一切王族の専属メイドにはなれない」そう決まった。


それが重い処罰なのかシスツィーアには分からなかったが、少なくともアランにとっては良かったと思う。


(自分を悪く言っていたかもしれない。そんな人にお世話されるのも嫌よね)


今のメイドたちは将来アランの専属になっても良いように、これまでアランの担当になったことのない者から選んである。その人選にもレオリードが目を光らせ、アランとの相性を確認した後に決められたとシスツィーアは聞いていた。


「うん。僕のためって分かってるんだけどね・・・・なんか、兄上怖かった」


レオリード主導で決まったメイドの総入れ替えは、話をした日から一週間もたたないうちに行われた。

さすがに私的なことに口を出すことは出来ないシスツィーアだったが、その時のことを話すアランは、どことなく疲れたような、何とも言えない顔をしていて。

思わず「お疲れさま」と言ってしまったものだ。



そんな新しいメイドたちはアランの意向に沿って、シスツィーアがいるときには部屋の外に出る。扉は開けるけれど、部屋の中から見えないように扉の陰にいるから、聞かれたくない話も出来る。

騎士たちはもともと部屋の中にはおらず、扉の外にいるからアランとの魔力のやり取りもどうにかなっていた。


「なにか分かった?」

「残念だけど、進展なしよ。図書館にある本は、わたしも知ってることしか書かれてないし。やっぱりもっと、専門的なところを探さないといけないみたいね」

「そっか。じゃあ、僕のほうから許可取っとく」

「ありがとう。お願いね」


アランとシスツィーア以外誰もいないけれど、アランが少しだけ声を潜めて尋ねてくる。シスツィーアも小声で返しながら、グラスに手を伸ばす。ひんやりとした冷たさが心地よい。


シスツィーアがアイスティーで喉を潤したのを見計らって、アランがテーブルにのせていた箱を開ける。


「これだけどさ。なんかの術式?」

広げた紙に描かれたものは、たしかに魔術師が描く術式に似ていた。


「分からないわ。まだ、術式は学んでないもの。けど王族が使う魔道具も術式も、魔道術師団で許可が下りないとだめでしょう?おかしなものではないと思うけれど」

「そうなんだけどね、なんか気になって」


シスツィーアはアランから渡された紙を手に取って、じっくり見てみる。年数が経っているからか、インクが薄くなっている箇所がいくつかあって、細かいところは想像するしかなさそうだ。表面を触ったり、ひっくり返したり


「あ・・・」


ふいにアランの言うことが分かった。なぜだろう?この術式を見ていると、『引き込まれる』感覚がするのだ。


「しばらく借りても良いかしら?図書館で他の術式と比べてみるわ」

「うん。お願い。」

気休めのおまじないなら、図書館にヒントがあるかもしれないと、借りた護符を丁寧にしまった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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