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はじまりの物語  作者: はあや
本編
402/431

ゆるされたもの

「レオリード、そなたはそのままでも、父の誇りだ」




シグルドの言葉が耳に入った瞬間、レオリードの胸のなかがぎゅっと切なく締め付けられ、鼻の奥もツンとして


「ち・・・・・ちう」

「よくここまで、真っ直ぐに育ってくれた」


くしゃ


レオリードの髪をシグルドが撫でる。


思いがけない父からの抱擁も、髪を撫でられたことも驚いたが、なにより




『そのままでも、父の誇りだ』




その一言が、レオリードの心に響く。



(俺は・・・・・・・・)


シグルドたちの求める『レオリード』でいたから、シグルドは認めてくれたのかもしれない。


そんな穿った見方も出来るが


「すぐには、無理かもしれない。だが、レオリード。そなたの思うように生きなさい。父が力になる」

「え?」

「私やミリアリザを気にする必要はない。そなたが思うまま、生きなさい」


身体を離して、真っすぐにレオリードを見つめてシグルドが微笑む。


「無論、王族の義務や立場があるゆえ、すべてをそなたの思う通りにさせることはできない。王位を継ぐ者も、まだ決まっておらぬからな。だが、そなたが好きな女性と婚姻を結べるように、手助けをすることはできる。諸外国を見て回りたいのであれば、行ってくるが良い。王族を離籍したいのであれば、私の持つ直轄領を譲ろう」

「父上!?」

「レオリード、我ら王族とて人の子。自らの生き方を選ぶことも赦されよう。無論、この身が国民のためにあることを忘れてはならないが、私は、そなたの・・・・・・・息子のために、なにかをしてやりたいのだ」


優しく微笑むシグルドは、照れているのか頬には薄っすらと赤みが差していて、それはレオリードも同じで、気恥ずかしいけれど、胸のなかはあたたかいものが流れている。


褒められたことが、ないわけではなかった。


けれど、やっぱりレオリードにとってシグルドは遠い存在で、敬意を払い傅く相手だった。


そんなシグルドからの言葉は、いままでのどんな言葉より、レオリードの心に響く


(父上は、本心から言ってくださっている)


『レオリード』を認め、そして、力になろうとしてくれている。


そのことが、心から嬉しく


「あり・・・・・・がとう、ございます。父上」


視界を潤ませながらレオリードが震える声で言うと、ぽんとレオリードの肩を叩き、シグルドはソファーへ座る。


「マリナ嬢との婚約のことは気にしなくていい。むしろ、そなたの意に添わぬ婚約を結んですまなかったな」

「いえ!それは」

「リネアラのことも責めないでやってくれ。そなたを護るために結んだ婚約だ。マリナ嬢も巻き込んで申し訳ないと思っている」

「母上が?」

「ああ。私の愚かな言動によってリネアラを傷つけ、ずいぶんと苦労させた。マリナ嬢とてそうだ。彼女が犯した罪をなかったことにはできないが、彼女のことも悪いようにはしない。安心しなさい」


昨日、すでにマリナは王都を離れたと執事が言っていたが、それもマリナを守ることに繋がるのだろう。


レオリードが頷くと、シグルドも笑みを見せる。


けれど、すぐに眉間にしわを寄せ


「それと」

「なんでしょうか?」


シグルドを身近に感じて話をするなんてこれまでになく、レオリードは面映ゆい思いをしながらも心は軽く、この部屋に来たときとは違って自然な柔らかな表情をしている。


「シスツィーア嬢だが」

「はい」


昨日の夜会で、ふわっと本当に嬉しそうに微笑むシスツィーアが思い出される。


まだ、あれから半日も経っていないのに、ずいぶんと昔のことに思えて


(会いたい)


シグルドは「関係ない」と言ってくれたが、レオリードの渡した『護符』が関係ないはずがない。


レオリードが傷つかないように、守ろうとしてくれていることが伝わって、レオリードは気を引き締める。


(甘えては、いけない)


たとえ知らないうちに行ったとしても、レオリードがシスツィーアまで巻き込んでしまったのだ。


いずれ、きちんと謝罪し、何らかの形で償うべきだろう。


申し訳ない思いは消えずに、レオリードは心が痛むけれど


いまはただ、このあたたかな想いで満たされたまま、シスツィーアに会いたくて


(今日はまだ、見舞いの花を贈っていなかったな)


さすがにそれどころではなくて、花を選ぶ余裕なんてなかった。


(行ってもいいだろうか?)


まだ朝も早いし、まだ眠っているかもしれない。


それでも、直接会って手渡したい。


「おはよう」と、声を掛けたい。


先触れもなく驚かせてしまうだろうけれど


(いますぐ、会いたい)


そんなことを考えてしまっていると、言いにくそうにシグルドが切り出す。


「現在、行方知れずとなっている」

「え!?」


驚きのあまり固まるレオリードへ、シグルドは昨日のことを簡単に話す。


「城の外には出ていない。だが、まだ見つかってはいないのだ」


レオリードは居ても立っても居られないと、ソファーから勢いよく立ち上がる。


「父上!俺は」

「探しに行きたいのだろう。行きなさい」


シグルドとてレオリードを止める気はない


「彼女が無実であることは間違いない。何か言う者がいれば、私の命だと言いなさい」

「はい!」


シグルドに頷くと、レオリードは部屋を飛び出した。







最後までお読みいただき、ありがとうございます。

次話は明日5月6日投稿予定です。

お楽しみいただけると幸いです。

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