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はじまりの物語  作者: はあや
本編
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知らなかった罪 ②

「陛下は覚えておいででしょうか?「レオリードが寝たきりであれば」と、私に零されたことを」

「なっ!?」




あのあと、話が長くなりそうだと判断したアランは、先に部屋を出て行った。



エリックとマリナがつけた魔道具のせいで、シスツィーアが『魔力』不足に陥っている。


「かもしれない」と、不確かなエリックの見解。



それでも「その恐れがあるなら」と、アランはシグルドの反対を押し切り『建国記念の儀式』の部屋を立ち去ったのだ。



『僕はもう、誰も犠牲にしたくない』


きっぱりと言い切り、その身を『魔力』が襲い苦しむことが分かっていながら、躊躇うことなく





残されたシグルドとエリックは、気まずさを含んだ言いようのない雰囲気のなか、場所を移して話を続ける。




「レオリード殿下の8歳の魔力検査の数日後、茶会が催されたのは覚えておられますか?」

「ああ。それは覚えている。レオリードの初公務に向けて、開催しないわけにはいかないと、母上・・・・・王太后陛下が取り仕切ってくださった」

「その、茶会でのことです」


8歳の魔力検査のあと、慣例として、今度は大人だけでなく、子どもたちも招いての茶会が催されることになっている。


これから、正式に公務に参加していくための顔繋ぎと、子ども同士の交流を目的としたものだ。


だが、あの当時のミリアリザはアランが気がかりなあまり、レオリードの茶会にまで意識が及んでいなかった。いや、翌年に控えているアランの魔力検査のこともあり、敢えて考えたくないと目をそらしていたのかもしれない。


我が子が明日をも知れないのに、夫と側妃との間にできた子の成長を祝う


ミリアリザにとっては苦痛でしかないことでも、『正妃』としての立場が役目を放棄することを許さず、だからと言ってリネアラに任せてしまうことも、『正妃』としての矜持が許さない


そんなミリアリザの葛藤を誰よりも理解したのは、シグルドの母


「あなたはアランディールのことを第一に考えなさい」と、レオリードのことを一手に引き受け、そして当日の主催はシグルドとミリアリザだと参加することはなかったのだ。


「その茶会の席で、レオリード殿下は子どもとは思えぬほど立派に振る舞われた」

「ああ・・・・・・・覚えている」


茶会が始まってから終わるまで、レオリードは大人たちへ委縮することなく堂々と受け答えし、まだ人見知りする子にも、元気が良すぎる子にも別け隔てなくにこやかに話し、「さすがはシグルド殿下のお子ですな」と称賛を浴びていた。


「私も、レオリードの成長が眩しく、誇らしかった」

「では、なぜ?」

「・・・・・・・・・覚えてはいない。だが・・・・・・・・・」


あの茶会は、レオリードの成長が嬉しくて誇らしい、シグルドにとって久しぶりに楽しいひと時だった。


だが、終わることろにはアランのことが思いだされて


「ああ・・・・・あの日、ミリアリザは茶会がお開きになると、すぐにその場を立ち去った。アランのことが気がかりだったのもあるが、あの場にいたくはなかったのだろう・・・・・そうだ、それで・・・・・・」


ゆっくりと、あの日のことが思いだされる


「あのころのミリアリザは、正妃として立派に振る舞うことに、誰よりも拘っていた。アランをいずれ国王にと、祖国からは期待をかけられ、だが、この国の者たちは他国の血が混じっているアランより、生粋のフォーレスト王族であるレオリードを望んでいた。そんななか、アランのためにも必死だったのだろう。だから、俺は・・・・・・・」



シグルドのなかに、あの日のことが蘇る



ミリアリザの兄がかつて言ったように、アランをシグルドの次の王太子に、いずれは国王にと彼の国は望んでおり、その期待や圧力は、じわりじわりと侵食するかのようにミリアリザの心を蝕み、そしてシグルドにもそれは及んでいた。


我が子(レオリード)の成長を純粋に喜べないこと


我が子(アラン)を取り巻く、シグルドだけでは手に余る問題


だが、それはすべて


「レオリードが寝たきりであれば、アランを俺の次の王太子へすることに、誰も反対しないと・・・・・・・・」


あの日、貴族たちの前では正妃として完璧に振る舞ったミリアリザだったが、シグルドに「先へ戻る」と言ったときは憔悴しきっていた。


レオリードを育てているのはミリアリザ。


リネアラには、レオリードの教育に口を出すなと、他でもないシグルドが釘を差していた。


だから、レオリードの堂々たる『王族に相応しい』姿は、ミリアリザの教育の賜物。


称賛はミリアリザへのものだと、シグルドは安堵したのだが、ミリアリザにとっては違っていたのだ。


ミリアリザの姿を見送るシグルドの心は、それまでの晴れやかな気持ちとは違い、落胆と苛立ちがごちゃ混ぜになって


思わず「レオリードが寝たきりであれば」と、口を衝いて出たのだ。


「ああ・・・・・・・・まさか、口に出していたとは思わず、エリックに言われて我に返ったのだ」

「あのとき、私も聞き間違いかと思い、聞き返したのです」




『シグルド殿下?いま、仰ったのは』

『どうかしたか?』



目を見開いて聞き返すエリックに、慌てて誤魔化したことを思い出す。


あまりにも愚かで身勝手なことを思い、しかも口にしてしまったことで、シグルドはしばらく自己嫌悪に陥り、


そして、日々の忙しさにかまけて忘れていた。



「・・・・・あまりにも非道なことを口にしたと、忘れてしまいたかったのかもしれないな」

「そう、でしたか」


両手で顔を覆いがっくりと項垂れるシグルドに、エリックが言葉を掛けることはなかった。





(ずいぶんと、愚かだったな)


身支度を整えながら物思いにふけっていたシグルドは、「陛下、レオリード殿下がお待ちです。いかが致しまさょう?」


従者に告げられて、はっと我に返る。


朝食の席で済む話なら、わざわざ私室にやって来ることはない。


(・・・・・・知られたか)


シグルドの若かりしころの、若かったゆえの独走による過ち


そして、ことをおさめようとしての発言や行動ですら事態を複雑化させただけで、それによってもたらした周囲への影響は甚大。


なによりシグルドが衝撃を受けたのは、すべてはシグルドの犯した愚行によって引き起こされたことにも関わらず、影響やしわ寄せはシグルドではなくレオリードたちへと向かっていたこと。


そのことが知られたと、シグルドは重苦しい気持ちで「分かった」と返事をしようとして、ふと「待っている」ことに眉を顰める。


「・・・・・・いつからいる?」

「陛下がお目覚めになる、ほんの少し前です」

「そうか」

「「お目覚めになるまで待つ」と仰られましたので・・・・・・すぐにお知らせすべきでしたか?」


レオリードは「待つ」といったものの、昨日の騒動関係ならすぐに知らせるべきだったかと、従者は慌てた様子を見せる。


(・・・・・・・・・)


知ったのであれば、居ても立っても居られなくなり、すぐにでも事実を確認しにくるかと思っていたが、シグルドが休んでいるからと朝まで待ったのだろう。


(こんなにも、気を使わせていたのか)


シグルドか望んだ通りに育ってくれた


だが、「親から犠牲となることを望まれた」ことを知ったのだ。一刻も早く「本当なのか」と詰め寄りたいであろう


それなのに押しかけてくることはなく、他の臣下と同じように礼節を尽くすレオリードに、シグルドは苦いものが広がり


(・・・・・・・父親、失格だな)


我が子には平等に接すると、決めていた。


十分に愛情を注いで育てたと、自負もしていた。


だが、それはシグルドだけの自己満足で、レオリードがどう感じているのかなど考えたこともなかった。


王族としての責務や、アランやミリアリザをたてること


なにより、ミリアリザは王妃として問題ないことを証明するだけのために、レオリードには国民や貴族が望む『非の打ち所がない王子』であることばかりを求め、甘えさせたことなどあったのだろうか?


(いや、甘えていたのは私だな)


アランを優先するあまり、レオリードには我慢ばかりを強いた。


レオリードの献身を当たり前だと思い、『レオリード』の気持ちなど顧みたことがあっただろうか?


(このような者が親など・・・・・・・・・レオリードにとっては不幸でしかない)


いっそ、哀れみすら感じる。


シグルドはゆっくりと首を振り


「いや。ふたりきりで話す」

「畏まりました。朝食は如何致しましょう?こちらにご用意いたしますか?」

「いや。飲み物だけ用意してくれ」


これから話す内容は、シグルドの『知らなかった罪』を糾弾するもの。


食事を摂りながら和やかに話すことではないし、用意されたとて食べる気には到底なれないのはレオリードも同じだろう。


そう思って、また重苦しいため息を吐いた。





最後までお読みいただき、ありがとうございます

次話は4月25日投稿予定です。

お楽しみいただけると幸いです。

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