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はじまりの物語  作者: はあや
本編
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顔合わせ

騎士団との顔合わせの日は、よく晴れて暑いながらも心地よい風が吹く日だった。


レオリードは幼い頃から訓練風景を見学していたし、ある程度の年齢になってからは自分も参加して一緒に訓練を行っていた。だから、騎士団との顔合わせと改まった場を設けたわけではなくて、アランは騎士団の訓練と模擬戦を見せてもらうことにしていた。


いずれは、騎士からも側近を選ぶことになる。その為に実力や人柄を少しでも見ておこうというわけだ。


アランを初めてみる騎士も多く、好奇の目に晒されながらも、王族としてにこやかに振る舞い、騎士たちにも物おじせず話しかけるアランの姿は堂々としていた。


「アランって、やっぱり王族なのね」

「そりゃあね。ずっとベッドに寝たきりでも部屋の外に護衛の騎士はいたし、きつくても暴れるわけにはいかないだろ。慣れた」


どんなに身体がきつくても醜態をさらせば、すぐに城で働く者たちにそして貴族たちへ伝わる。だから、どんなにきつくても使用人たちに接する時は、八つ当たりしないよう心掛けていた。


いまは身体が思うように動く分、苛立つ理由もないから王族らしく振る舞える。


アランが寝たきりのところしか知らない騎士たちも、アランが初めて会う騎士たちへ気さくに話しかけ打ち解けようとする姿に、最初は厳しい目を見せていた者たちもだんだんと警戒を解いていた。


もちろん、こんなに早く両者が打ち解けたのもレオリードたちの協力があったからだ。


騎士たちの訓練や遠征に参加したことのあるレオリードに、騎士たちは親しみを持っていたし、そのレオリードが弟の回復を喜び楽しそうに話す姿を見て、騎士たちもアランへ好意的になったのだ。


元々騎士たちは朗らかな者が多く、一度打ち解けてしまえば会話は弾む。


レオリードが騎士と手合わせするのを見せてもらったし、騎士たちがハラハラしながら見守る中、レオリードが使っていた練習用の剣も持たせてもらった。


「重い・・・」


筋肉のないアランでは持つのがやっとだったが、そのままその剣はアランへと譲られる。


「いいの?」

「ああ。俺はもう使わないからな」


アランが剣を構えるのを隣で支えながら、レオリードが頷く。


騎士団長からの提案もあって、週に一度アランは騎士たちに交じって剣の稽古もすることになった。


騎士団との顔合わせは大成功で終わり、シスツィーアも城内で顔を合わせれば、騎士たちとちょっとした雑談を交わすことが増えた。






その代わり、魔道術師団との顔合わせは、どことなくよそよそしい雰囲気だった。





こちらの顔合わせの日も、青い空と白い雲の見える夏らしい日。


魔道術師団にはトップが三人いる。魔道具の使い方に長けた魔道士を束ねる魔道士長と、魔道具開発に必要な魔術式に長けた魔術師長。そして二つを束ねる魔道術師団長だ。


「魔道術師団長」は長いし呼びにくいから、騎士団長と区別して『総長』と呼ばれている。


最初はシスツィーアに対する偏見から、よそよそしいのかと思っていたが、そうではなくて出迎えてくれた三人とも、アランに対してどことなくぎこちない。


「何かあったの?」


こっそりシスツィーアが尋ねると、アランは首を竦める。


「僕が寝たきりになってたことが原因だよ。『魔力』不足ってことは分かったけど、なんでそうなったのか分からなくて、随分と叩かれたらしいよ」

「なるほどね」


王宮では、『魔力』に関することは魔道術師団の管轄だ。


当然、その原因を探すために随分と骨を折ったが、結局理由は分からずじまい。その為、「いったい何のためにある部署なんだ」と随分と肩身の狭い思いをしたらしい。今もいきなり元気になったことで、魔道術師団のなかではアランの自作自演説が流れていて、その為にぎこちなくなってしまうのだろう。


「アランは?やっぱり、理由が分からなかったし魔道術師団のこと苦手?」

「うーん。どうだろ?別に恨んだりはしてないし、彼らが僕が日常生活できるように頑張ってくれたのも知ってるしね」


『魔力不足』が原因なら、魔力を補充できれば解決するのではないかと、当時の総長がアランへ魔力提供を申し出て、実際に魔力性質が似ている者の魔力を提供してもらったのだ。


けれど、いくら魔力を受け取っても効果はせいぜい2~3時間のことで、そのこともおかしいと随分揉めたらしい。それに魔力の提供を受けるのも、自分が持つ『魔力を生成する』器官が衰えてしまうリスクがでてくる。


結局のところ時々魔力を受け取って、散歩をして身体を動かして食事をしっかりとってと、身体の衰えを防ぐことしかできなかったのだ。


アランが急に元気になって、それ自体は喜ばしいが魔道術師団の成果ではないから立つ瀬がない。


そんな複雑な関係だった。


けれど


「総長たちが手を尽くしてくれたおかげでアランも回復した。ありがとう」


お互いに自己紹介を終えた後、レオリードは感謝の言葉を口にした。


もちろん言われた総長たちは驚き、慌てている。


「レオリード殿下!?我々はなにも・・・」

「そんなことないよ。僕は君たちのおかげでここまで生きてこれたんだ。ありがとう」

アランも礼を告げると、余計に総長たちはわたわたしている。

「いや・・・、我々は・・・」

「総長、お礼は素直に受け取ってよ。君たちがずっと僕を助けてくれた。僕は君たちを恨んでないし、これからだって助けて欲しいと思ってるんだ」


総長たちはすこし躊躇ったあと、顔を見合わせて頷く。


「殿下がお元気になられたこと、我々も嬉しく思っております。我々こそ、原因を突き止めることができずに申し訳ありません。お許しいただけるなら、これからも殿下方に仕えお力になりたいと思います」


代表して総長が言い礼をとると、魔術師長も魔道士長もそれに倣う。


「うん。よろしくね」

「ああ。これからも頼りにしている」


最初のぎこちなさは消え、それからは総長が張り切ってレオリードとアランに棟の中を案内してくれる。


「国を護るための魔道具は、成人した王族にしか見せられないから」


そう言われて、代わりに模倣して作られた『王城を護る魔道具』を見せてもらう。


レオリードは春生まれで、この国の成人でもある18歳になっている。だから『国を護る魔道具』を見る資格はあるのだが、父である国王の方針で正式に成人と認められる、学園を卒業した後に見せてもらうことになっていた。


魔道士長に動かし方を教えてもらい、実際にレオリードが魔力を『城を護る魔道具』へ注ぐ。


ぱぁっとお日様のようなあたたかな光が広がり、シスツィーアは魔道具が「元気」になった感じがした。


「なんだか、魔道具が喜んでいるみたい」


ぽろっと零すと、魔道士長が頷く。


「ええ。不思議なことに王族の方が魔力を注ぐと、魔道具の光り方が違うのです。動きも勢いが出ますし。それこそお嬢さんが言ったように、『喜んで』いるみたいにね」

「へぇ。不思議だね。僕もやってみていい?」


さすがにアランへは許可が下りず、先日18歳になったキアルがレオリードと同じように魔力を注ぐ。


こちらも王族の血を引くからか、レオリードよりも少しだけ控えめながらも光が広がる。


「なんだか、すげえな。これって、魔力で王族の血縁って分かるってコトだよな?」

「ええ。やはり王族の方の魔力は特別ですから」


王族以外との違いを見てみたかったが、オルレンは未成年で許可がおりずに魔道士長が注いでくれた。レオリード達とは違って、光の色がオレンジ混じりだ。次に魔道術師長が魔力を注ぐと、薄い紫色混じりになる。


「このように、魔力を注ぐ人によっても光の色は変わってきます」


魔力性質が人によって違うことの証明にもなると言われ、シスツィーアたちも納得する。


魔術式は魔道具の核ともいえる重要な部分なので、さすがに見せてもらえず。


代わりに魔術師長からは、魔術式の法則を少しだけ教えてもらう。


魔術式のことはちんぷんかんぷんだったが、オルレンは興味があるのか魔術師長へ積極的に質問していた。


これまでの蟠りも解け、魔道術師団との関係も良くなり、アランは王族としてのスタートを無事に切ることができた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます

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