入学式 ①
日本の桜のような、白に近いピンクから濃いピンクの花を咲かせるラーサの樹。
春を知らせるラーサの樹が満開になるころ、この国にある国立学園の入学式が行われる。
高等科の制服に身を包み新入生の真紅のリボンを就けて、シスツィーアは義姉リューミラと一緒にクラス分けが貼ってある掲示板を見ていた。
「あったわ。わたくしは今年もBクラスね」
高等科2年生のリューミラは、真新しい制服に深緑のリボン。掲示板を見ると、ほっとした声で肩の力を抜く。
「わたしはAクラスです。良いなあ。わたしもお義姉さまと同じBクラスが良かった」
少し離れた場所で、新入生のクラス分けを見たシスツィーアの声はがっかりしている。
入学に関する書類で事前にクラスは分かっていたものの、「当日掲示板を見るまでは変更もあるかも」と期待していたのだが、残念ながらAクラスのままだ。
「ツィーアの成績ではAクラスで間違いないでしょうね。良かったわ、わたくしはBクラスで。同じクラスにあと二人、知り合いがいるもの」
この国の学校は、日本でいう小学校にあたる初等科、中学校にあたる中等科、そして高校にあたる高等科で構成されている。
初等科は主に読み書きと計算、そして魔力の使い方など生活に必要なことを学び、平民は全員入学することが決まっている。日本と違って3年制だが、平民として生活するために必要なものは身に着けることができる。貴族は家庭で学べるレベルだろうと、初等科への入学の義務はない。
中等科は、家庭教師を雇う余裕のない下位貴族や金銭的に余裕のある平民が通い、この国の成り立ちや礼儀作法、高等科入学に向けた勉強をしていく。家庭教師を雇う余裕のある貴族は、中等科までは通わずに各家庭の教育方針で学んでいく。
ただし、高等科はこの国の貴族は全員入学し、卒業することが定められている。
もちろん平民も、成績優秀で中等部の学校長からの推薦があり、入学試験をクリアすれば通うことができる。奨学金制度も制服の貸与制度もあるから、貴族と問題を起さない性格と学力さえあれば誰でも通える。とは言え、高等科は国に一つしかないから、通える平民はほとんどが王都に住んでいるか、富裕層だが。
優秀な人材を育成することを目的としている以上、遠方からの希望者の為に寮もあるし、入学試験でも選民思想は持たないように平等に扱われている。
そして、初等科・中等科とは違って、高等科のクラス分けは入学前の試験結果で決まる。
Aクラスは座学・魔道具実技ともに成績優秀者が集うクラスで、だいたいが王族と高位貴族で占められ、魔力量も選考基準となるから、魔力量が少ない下位貴族が在籍することはまずない。
だから、シスツィーアのように下位貴族がAクラスになるのは前代未聞で、学園始まって以来と言われていた。
Bクラス以下は魔力量の選考がない為、Aクラスに入れなかった高位貴族と成績優秀な下位貴族。Cクラスに至っては下位貴族と平民しかいない。
(やっぱり、何度見ても変わらないわね)
中等科での成績と、入試時の魔力検査。そして国に報告されている、これまでの魔力検査の結果からAクラスは間違いないと神官たちからも言われていた。けれど、「できれば目立たずにいたかった」それがシスツィーアの本音だった。
「ツィーア、リューミラ嬢、おはよう」
「アルツィードさま、おはようございます」
「おはよう、お兄さま」
3年の深青のネクタイをしたアルツィードが、まだ少し眠そうにやってくる。
「クラス分けはどうだった?」
「わたくしはBクラスでしたわ」
「・・・・・Aクラスよ。お兄さまは?」
「貴族の騎士科は1クラスだからな。見る必要ないぞ」
そう言いながらも掲示板に目を向けるアルツィード。
ちゃんと騎士科に自分の名前があるか確認すると、シスツィーアの制服姿を眺め、軽く眉を顰めた。
「そろそろ、入学式始まるわよね?お兄さま、講堂ってどこ?」
「ああ、そうだな。こっちから行けるぞ」
入学式は新入生とその保護者だけでなく、在学生も参加することになっていて、アルツィードを先頭に3人で移動する。
「お義姉さまは、選択授業どれにするか決めました?」
「ええ。王宮メイドを目指そうと思って。それに合わせて取るつもりよ」
「お兄さまの騎士科は選択授業って、ないの?」
「騎士科自体が騎士になるための科だからな。貴族の騎士科は全員同じ授業」
選択授業をどうしようか楽しそうに悩むリューミラと、適当に妹に返事をするアルツィード。
そんなことを話しながら、講堂へと向かった。
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