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はじまりの物語  作者: はあや
本編
39/431

兄と妹 ②

「遅くなったので、失礼します」


さすがにこんなことは言えず、シスツィーアはお茶の後片付けやちょっとした雑談をして、アラン達が夕食へ向かうタイミングで帰ることができた。


レオリードは馬車まで送ろうと申し出てくれたが、徒歩で来ていることはなんとなく言い出せずに、「一度更衣室へ戻りますので」とやんわりと断る。


部屋を出るまでは焦りを見せずに、けれど部屋を出てからは使用人用の通路を急ぎ足で。


門を出てからは乗合馬車の停留所へ走ったけれど、もう最終便は出てしまっていてシスツィーアは歩いて帰ることになった。


夏とは言え、人通りは少なく日も暮れかけている。


少しだけ急ぎ足で、アルツィードに送ってもらおうと工房へ向かう。


工房のある場所は商店街だから、この時間でも人通りはまだある。少し遠回りだけれど、アルデス家よりも城に近いので日が沈み切る前には着くだろう。


工房までの道のり、シスツィーアは今日のアランとの会話を思い出していた。


(まさか、アランも魔力が多くて苦しんでいたなんて)


魔力が足りなくて寝たきりだと思っていた。


少なくとも、魔力が多くて苦しむなんてシスツィーアはこれまで聞いたことがない。


通っていた神殿には親元から離れて暮らす子どもがいて、その子たちは魔力が上手く作れなくて、神官さまたちに教わりながら生活していたのだ。


けれど、自分で作れるようになれば家庭に戻っていったし、お年寄りで魔力を作る器官が衰えて、家族から分けてもらっている人だっていた。


魔力が上手く身体を循環せずに、補助の魔道具を使って生きている人だって知っている。


だから、アランもそんな人たちと同じだと思っていたのに。


(魔力が作れるのに、魔力が身体に留まらないなんて、初めて聞いたわ)


魔力が足りない。魔力が多い。どちらにしろ身体への負担は大きく、だからこそつらい時に寄り添ってくれたレオリードのことを、アランは信頼しているのだろう。


アランがレオリードを慕う気持ちは本物。


それだけはよく分かった。


そして魔力がなくて常に死の恐怖に怯えていたアランが、シスツィーアに離れて欲しくない気持ちも。


だんだんと考えることに集中してしまって、歩くスピードが遅くなる。


(わたしは、どうしたらいいのかしら)


ずっとアランの側にいる。


そう決断することはできなくて。


答えは出なかった。


工房へ着くと、アルツィードは呆れながらもアルデス家へ送ってくれると言ってくれ、二人でそのまま歩き出す。


「ねぇ、お兄さま。下の兄弟って可愛い?」

「は?また、何を急に」

「うん。アランを見ていたらね、レオリード殿下の事慕ってて、レオリード殿下もアランのこと良く面倒見てくださるから、やっぱり兄弟って特別なのかなって」

「ああ、まあな。なんだかんだで、妹や弟は可愛いな」

「そう、よね」


すこし俯きがちに尋ねるシスツィーアに、アルツィードは答える。


生れた時から知っている、小さい体で懸命に自分のあとを追いかけてきた(シスツィーア)


なんだかんだで、それを嬉しく思う自分がいて。だからきっとレオリード殿下もそうなのだろう。


そんな風に考えながら、妹の歩幅に合わせて夜道を歩く。


「たしか、レオリード殿下には同母の弟もいらしたはずだが」

「・・・?同母?」

「アランディール殿下とレオリード殿下は、異母兄弟だろう?」

「え・・?」


きょとんとするシスツィーア。アルツィードも「違ったのか?」と首を傾げる。


「・・・そう言えば、キアルさまが「アランは王妃の子ども」って言ってたわ」


昼間の話の中で、キアルがそんなことを言っていたなと思い出す。


(えっと、「アランは」ってことは、レオリード殿下は違うの?)


「ああ。それじゃあ間違いないな。レオリード殿下は側妃さまの子どもだ」

「側妃さま・・・」


この国は一夫一妻制だ。重婚は認められていない。


そうシスツィーアは思っていたけれど、違うのだろうか?


「ああ。王族だけはその血統を残すために、王太子が結婚して三年子どもがいなければ、側妃を持つことを認められているはずだ。レオリード殿下のお母上も、たしかそう言う理由で王家へ入られたはずだな」

「知らなかったわ」


二人とも仲が良くて、そんな関係だなんて思いもしなかった。


(だから「継承権はアランの方がある」って、キアルさまは言っていたのね)


さっきは深く考えることはなかった。けれど、レオリードが側妃の子どもでアランが正妃の子どもだからだろう。


(異母兄弟なのに、あんなに仲が良いのね)


シスツィーアとアルツィードよりも仲が良い。もちろん、シスツィーアはアルツィードを頼りにしているし、今日みたいに甘えたりもする。


けれど、なんだろう?根っこの部分では、アルツィードにも迷惑を掛けてはいけないと、自分で何とかしないとと、そんな思いがあるのだ。


空気が重くなった気分がして、シスツィーアは俯く。そんなシスツィーアの様子にアルツィードは気づくこともない。


「そういや、服はできたのか?」

「えっ、ううん。まだ連絡は来ないわ。2週間くらいかかるって言われているし」

「支払いは足りそうか?」

「シールスのところが、待っててくれるって。その、側近のお給料が出るまで」

「友達に借りを作るのはやめとけ。俺の金貸してやるから」

「いいの?」

「ああ。明日にでも取りに来い。来週は領地に戻るしな」


シスツィーアは戻らないけれど、領地と聞いて少しだけ懐かしくなる。


魔物の森のあたりは薄暗くて、夏でもひんやりしていて。


けれど、シスツィーアはその場所がなぜだか嫌いではなくて。


魔物がでてくるから討伐後の後片付けでしか行くことはないが、小さいときは大人になったら神話に出てくる『魔物の森の湖』を探してみたいと、森に入って冒険してみたいと思っていた。


「ありがとう、お兄さま。明日の帰りに取りに行くわ」

「ああ。いない時は爺さんに預けておく」

「ええ」

「・・・アルデス領には王都に戻る1週間前に行くことになった」

「ごめんなさい。余計に仕事増やして」

「それはいいが・・・」


アルデス領での思い出は、薄暗い部屋で行う魔道具整備しかない。


将来的にアルデス領と関わることはないのだからと、シスツィーアが勝手に出歩くことを子爵は禁じた。そんな当主を見ていた使用人も、どこかシスツィーアにはよそよそしくて。打ち解けて話すのは、魔道具を整備している年配の男性くらいだ。


そんな所に兄を向かわせることに、シスツィーアは申し訳なさでいっぱいだった。


シスツィーアが落ち込んだように見えて、アルツィードは余計なことを言ったかと、話題を変える。


「アランディール殿下とはどうなんだ?上手くやれそうか?」

「アラン?問題ないわ」


今日のことを思い出す。少なくとも、シスツィーアに心を許しているからあんな話をしてくれたのだろう。


そう思うと嬉しくて、心が軽くなる。


「レオリード殿下も、キアルさまもオルレンさまも良くしてくださるしね」


楽しそうに笑うシスツィーア。


それが強がりではないことに、アルツィードも安心して


ポンっと妹の頭を撫でた。




最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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