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はじまりの物語  作者: はあや
本編
375/431

ラーサの扉

(さむい・・・・・・)


泣きつかれて、いつの間にか眠ってしまっていたシスツィーアは、床の冷たさに耐えられなくなって目を覚ます。


どれだけ眠っていたのかは分からないけれど、さっきより月明かりが窓から差し込んでいて、部屋のなかは明るくて


ゆっくりと起き上がり、身体中についた土ぼこりを払う。


少し休めたからか、身体がさっきより随分と軽い。


(ここは、どこかしら?)


シスツィーアのいるのは、鉄格子と石畳に囲まれた部屋。何も置いてなくて、近くに人がいる気配もない。


立ち上がって窓の外を見ると、外灯もないから微かな月明かりて目を凝らして


見える範囲には樹が生えている以外に、目印となるようなものを見つけることはできない。


けれど、ラルドに引っ張られて歩いた距離からも、騎士団の棟からはそう離れてはいない。


(たぶん、位置的には神殿に近い所か、魔道術師団の棟・・・・・・・あ、騎士の訓練所の近くかもしれないわね)


騎士団の棟の近くにある建物を思い浮かべて、どこにいるのかを推測しようとするけれど、神殿のまわりは樹々が生い茂っているから、近くにある魔道術師団の棟なども当然樹々に囲まれている。


(まずはここから抜け出さないと。どうした・・・・ら)


ふと、ラルドが鍵をかけた様子がなかったことを思い出して


(あのとき・・・・・・うん。フォーン騎士さまは、鍵をかけなかったわ)


シスツィーアをここへ入れたあと、ラルドは牢の扉を閉めたけれど、鍵をかけた様子も音もしなかった。


(あ、でも、さっき鉄格子を握ったけれど、動かなかったわよね?)


鉄格子でできた扉へ駆け寄り、ためしに押してみるけれど動く気配はなくて


「ん・・・・・・・うーん・・・・・・・・」


肩を鉄格子に付けて、重心をかけて押して見る


ぎ・・・・・・


微かにきしんで、扉が動いて


「やっぱり!」


やっぱり扉に鍵はかかってなくて、そのまま肩を鉄格子に付けて押し続けると、ギッーと軋んだ音がして重かった扉が開かれる。


「錆びついて、かたくなっていたのね」


懸命に押したから、手からは鉄さびのにおいがするし、全身で押したから、鼻にもにおいが纏わりついて気持ち悪い。


シスツィーアは両手や肩をはたいて、汚れを軽く落として


「行こう」


真っ暗闇は怖いし寒いから、身体が竦んでしまうけれど


(ここにいても仕方ないわ)


ラルドは目的があってここへ連れてきたのかもしれないけれど、月明かりのなかで見る限り、この部屋には何もない。


本当に単なる八つ当たりの、嫌がらせの可能性だってある。


鉄格子の扉を抜けて廊下を少し進むと、建物は思ったよりも小さくてすぐに外に出る。


(牢かと思ったけれど、一つしかないのも不思議ね)


建物のなかは、シスツィーアが入れられた部屋しかなく、鉄格子が物々しい雰囲気を醸し出していたけれど、牢ではないのかもしれない。


(小屋と言った方がしっくりくるわ。必要なときにだけ使われているのかも)


建物の外を一周しながら、なにか目印になるものがないか見まわしてみても、生い茂る樹々しか見えなくて


「えっと、どっちに?」


ほぼ真っ暗闇で、どこへ向かったらいいのか分からない


冬だからか、それとも夜更けだからか、鳥の鳴き声とかも聞こえなくて、怖いくらいにシンと静まり返っていて


怖さを押し込んで、ゆっくりと歩きはじめる。




そのままどれくらい歩いたか分からないけれど、また足が痛みはじめたころ





「ここは・・・・・・・・・・」


微かに鼻腔をくすぐる匂いを感じて


空気がそれまでよりも、ひんやりとして


「湖?」


真っ暗闇ななか、水面には満月が映っていて、このあたりはほんのりと明るい。


(それなら、神殿の近くと言うことよね)


神殿にある『女神の地』には、湖があった。


(けど、『女神の地』は聖堂の近くだったわ。お城と神殿のあいだだったかしら?)


神殿の入口から真っすぐに入った正面が聖堂。けれど、『女神の地』は聖堂のさらに奥だったとシスツィーアは記憶していた。


(魔道術師団の棟は神殿から抜け道があったし、わたしが思っているよりも、お城と神殿の距離は近いのかもしれないわ)


地図を見たわけではないから、シスツィーアはざっくりとしか場所を把握していなかったけれど、『女神の地』も王城と近いのかもしれない。


(寒いけれど、このまま進んでいけば知った場所に行けるかも)


湖には『女神の部屋』が浮かんでいるはずだし、さすがにそこまで行けばシスツィーアは王城に帰れる。


そんなことを考えながら、両手で身体を抱きしめるようにして真っすぐに進んでいくと


「え?」


湖は終わってしまって、途中にも『女神の部屋』を見つけることはできなかった。もちろん聖堂らしき建物も見当たらないし、見廻りの神官や神殿騎士もいない。


(違った?え?ほかにも湖があるの?)


湖から離れると、また辺りは暗くなって


(少し休もう)


もうすぐで王城に戻れると思ったからか、予想が外れてなんだか身体が疲れてしまって


どこか座って休めそうな場所がないかと、暗がりのなか手で樹に触れながら少し進むと、先の方がさっきみたいにほんのりと明るくみえて


進んだ先は開けていて、正面に小さな館が建っている。


「あれは」


(エツィールド家?)


アランとともに来たことのある、王家所有の『エツィールド公爵の館』


(ずいぶんと遠くに来ていたのね)


あの日は王宮から馬車で移動したから、ずいぶんと歩いていたことになる。


玄関のところで休もうと、シスツィーアが館へと近づくと


「え?」


ぽわっと、扉が光を帯びはじめて


「え、あ・・・・・?」


暗闇のなか、ほんのりとした明るさを纏った扉には、シスツィーアの見たことのない模様が浮かび上がっている。


(このあいだは、こんな模様なかったわ)


どこにでもある、普通の木製の扉だった。


それなのに今は、見たことのない模様が浮かんでいて


直線や少し曲がっている線、楕円形みたいなものが入り混じっていて、どこかで見たことないかと思いだそうとするけれど、なんの模様なのか思い当たらなくて


そっと、扉に手を触れて見る。


気のせいかもしれないけれど、ほんのりとあたたかく感じて


「え?・・・・・・・・・あ!」


扉へと、シスツィーアの身体から魔力が緩やかに流れて行く


「や!・・・・・・なに!?」


思わず、扉から手を離すと


きぃ


微かに扉が軋む音がして


「!?」


扉の模様が、いくつか動いて


(まさか、魔力に反応して!?)


『女神の部屋への扉』と同じように、魔力に反応してこの扉が開くのだろうか?


こくり


思わず喉がなって


シスツィーアはふたたび、今度は慎重に扉に手を触れる。


今度は魔力が流れて行かないから、自分から扉へと魔力を流し込んで


きぃ・・・・・・・・・かた・・・・・・・・かた・・・・・・・・・・


シスツィーアが驚きで目を見開く、そのほんの少しのあいだに模様が勢いよく動いて


あっという間に、シスツィーアの目の前の扉には絵が浮かび上がる


「ラーサの・・・・・・・」


一振りの、ラーサの花と枝


(なんで・・・・・・・?)


この扉に仕掛けを作った人が、ラーサの樹を好きだったから


そんな単純な理由だと思うけれど


ぼう然としたまま、取っ手に手をかけてドアノブを回す。


カチリ


鍵が開く音がして


「あい・・・・・た」


扉の向こう側からは、あたたかな明りが溢れてきて


導かれるように、シスツィーアはエツィールド家へと足を踏み入れた。








最後までお読みいただき、ありがとうございます

次話は3月7日投稿予定です。

お楽しみいただけると幸いです。

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