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はじまりの物語  作者: はあや
本編
364/431

夜会 ⑨ ~ざまぁ?~

(なん・・・・・・・で)


王族二人から捧げられた感謝


貴族たちに走った衝撃は、アランの『禁呪』のときよりも激しく、理解が追いついていない。


シスツィーアも頭のなかは真っ白で、固まったままレオリードとアランを見上げる。


ふたりとも立ち上がってはいたけれど、シスツィーアの前からは動かなくて


アランにはまだ手を取られたままだし、さっきのレオリードみたいな、いや、いたずらが成功した子どもみたいな笑みを浮かべている。


レオリードはレオリードで、シスツィーアのそばから離れないし、満足そうに微笑み。


会場中からの視線を浴びて、シスツィーアは泣きそうになるし、いたたまれなくて、消えてしまいたくて


「て・・・・・・はな」


せめて手を離して欲しいと、俯きながらも勇気を振り絞って、掠れた声をだすけれど


頭上から響く声にかき消される。


「レオリード、アラン、シスツィーア嬢をこちらへ」

「「はい」」


「え?」と思う暇もなく、シスツィーアは手を引かれる。


シスツィーアの右手はレオリード、左手はアラン


気がつけばふたりに手を取られて、シスツィーアはそのまま壇上へと連れて行かれる。


目の端に、「あんぐり」と口を開けている人たちがちらっと見えて、ますます泣きたくなって


シグルドの前へと立つと、レオリードとアランはシスツィーアから一歩離れる。


「へい・・・・・・か」


シスツィーアは泣きそうな声で呟き、はっとして、ぎこちなく礼を取ろうとするけれど、シグルドは制して


「シスツィーア嬢の献身により、アランディールは回復の兆しを見せ、そして『禁呪』が使われていたことも分かった。アランディールは今なお生きているのは、君のおかげだ。だが、そのせいで君へ多大な苦労をかけることになり、その心身に傷を負わせることにもなった。私の、心からの感謝と謝意を受け取って欲しい」


頭こそ下げることはなかったが、その言葉には感謝の念が籠っていて、国王から最大級の礼を尽くされているのだと、会場内の貴族たちにはまた衝撃が走る。


誰もが目を見開いて、言葉を失い、ぼう然とシスツィーアを見上げて


そしてシグルドが「問題でもあるか?」とでも言うように、微かに首を傾げてみせると、はっと我に返る。


けれど、どんな態度をとれば良いのか決めかねて、固まり立ち尽くすばかりで


シスツィーアはこんな大勢の前で言われたことで、頭のなかがパニック状態で涙目になる。


静まり返るなか、シグルドはシスツィーアへと手を伸ばし、片手をシスツィーアの肩の上に置くと


「これより先、王家は君への感謝を忘れることはない。そして、庇護することを誓う。まずは、傷ついた心身を癒しなさい」

「え!?」


思わずシスツィーアは素っ頓狂な声をあげる。


(な、なんで!?)


シスツィーアはぽかんとシグルドを見つめ、何度も瞳を瞬かせて


たしかにアランを助けるために、レオリードの魔力を断った。たしかにシスツィーアに魔力を渡すことで、アランは生き延びたのかもしれないけれど、王城へ連れてきてくれたのはレオリードで、アランと会わせてくれたのもレオリードの尽力があったから。


シスツィーアだけの力ではないし、むしろシスツィーアは何もしていない。


ほぼ眠っていただけだ。


「あの、わたしは、なにも・・・・・・レオリード殿下の」

「ああ、もちろんレオリードのおかげであることも忘れてはいない。だが、いまは君の功績を称えるときだ」


シグルドはほんの少し顔を歪めるが、すぐに笑む。


「なにか望みはあるかね?」

「え!?」

「なんでも言いなさい」


そう言われても、シスツィーアにすぐに思いつくわけはなくて、むしろ何もしていないのに、言葉だけでなく褒賞まで下賜してもらうなんて、そんなことできるはずがない。


心臓をバクバクさせながら、なんとか


「あの、わたしは・・・・・・臣下として、当然のことをした・・・・・・だけで・・・・・・」

「遠慮はいらない。ああ、考える時間も必要だな。いつでも言いなさい」


だんだんと言葉は小さくなりながらも、やんわりと断ろうとしたけれど、シグルドは引くことなく少し屈めていた膝を伸ばす。


そう言われてもシスツィーアは困るだけで、また泣きそうになりながらも、それ以上断ることはできなくて「はい」と頷く。


「無論、シスツィーア嬢がアランの側近となることを許可し、協力してくれた者たちへの感謝も忘れていない。いずれ、その者たちへも褒美をとらせよう」


シスツィーアの身体を貴族たちへと向け


(あ・・・・・・)


見知った顔が、視界に入る。


ぽかんとしていて、理解が追いついていないのは明らかで


少し開いた口が、間抜けな感じで


こんなときなのに、シスツィーアはその顔を見ていると、くすっと笑いそうになって


なんだか少し、シスツィーアの心が軽くなって


シグルドはそんなシスツィーアの肩に手を置いたまま、シスツィーアの後ろに立つと


「みなも、そのつもりでいるように」

「はっ!」


厳かに告げるシグルドに、貴族たちは我に返り一斉に頭を垂れた。






最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話は2月16日投稿予定です。

お楽しみいただければ幸いです。

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