表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はじまりの物語  作者: はあや
本編
353/431

真相 ③ ~『おまじないの護符』~

あれは、レオリードとマリナの婚約が、正式に成立したばかりのころ


リネアラがマリナとレオリードの交流のための、お茶会を開いていたとき


「アランディール殿下のお見舞いですか?」

「ええ。レオリードは毎日のように行っているわ」

「レオリード殿下は、お優しいのですね」


まだ打ち解けていないマリナとレオリードのために、リネアラとエリックも同席する。


緊張のあまりぎこちなさの残るマリナにリネアラが気持ちをほぐそうと出したのが、アランを見舞うレオリードの話だった。


感心したように目を細めるエリックと、「まあ!」と肩の力を抜いて微笑むマリナ。


「できることをしているだけだ」

「それでも、アランディール殿下はお喜びでしょう」


褒められて気恥ずかしそうなレオリードへ、エリックもマリナも好意的な笑みが浮かべていて、リネアラもレオリードが気に入られたとほっとしたのだ。


「ああ。喜んでくれているようだ。だが」


ふっと眉を顰めて、レオリードが顔を曇らせる。


「アランの状態は良くなるどころか、苦しんでいる」

「まあ」


マリナも「可哀そう」と顔を曇らせて


「そばにいても、なにもしてやれない。だけど、どうにかしてやりたいんだ」


「俺が代わってやれたらいいのに」そう呟き、悔しそうな顔をするレオリード。


あのときのリネアラは、レオリードが思いやり深い子に育ったと誇らしい思いで、そっと彼の髪を撫でた





そして




「この『護符』は?」


お茶会から数日後、珍しくエリックから面会を申し入れられ、リネアラはレオリードとともにエリックを迎えた。


「レオリード殿下の異母弟(おとうと)君を想うお気持ちに、少しお手伝いが出来れば、と思いまして。マーシャル家に伝わる『護符』を改良したものですが」


そう言って見せられた『護符』


「アランディール殿下は魔力が多いために、お身体への負担も大きく寝たきりと伺いました。少しでも魔力の流れを良くできればと改良したものです」

「まあ!そんな大切なものを?」

「良いのか!?」


レオリードもリネアラも体面を考えてアランの状態を離すことはしなかったが、エリックはシグルドの友人でもあるし、どこからか話を聞いたのだろうと深く考えなかった。


それよりも、公爵家に伝わるものを王家に献上するなど、思い切った決断にリネアラは驚嘆したし、各家に伝えられている『魔術式』と同じように、本来なら秘蔵されるものではないのだろうかと、レオリードも驚きを隠せなかった。


エリックはにこりと微笑むと、レオリードへ『護符』を差し出す。


「当家に伝わる『護符』そのものではありませんので、お気遣いは無用に存じます」

「マーシャル公が手掛けたの?新たなものを開発するのは難しいと聞くわ。いくら改良とはいえ、公爵は素晴らしい才能をお持ちね」

「ほんの少々手を加えただけです。効果のほどはわかりかねますが、気休めの『おまじない』程度にはなるかと」


リネアラが手放しで賞賛するのを、エリックは困ったように謙遜するだけ


「どうぞ、お受け取りください」

「すまない、マーシャル公」


レオリードは申し訳なさそうにしながらも、嬉しそうに『護符』を受け取る。


「献上品ですので、魔道術師団の審査を終えております。すぐにお渡しになられては?」

「そうだな。さっそく行ってくる。公爵、本当にありがとう」


心からの笑顔を見せるレオリードに、リネアラも嬉しくてエリックへ感謝したのだ






「そのあとよ。あの『護符』が、多すぎるアランディール殿下の魔力をレオリードへと繋げるためのものだと聞いたの」


そう語るリネアラは淡々としているけれど、少しでも触れてしまえば崩れそうな脆さも感じられて


シスツィーアが何を言って良いのか分からず黙ったままでいると、ふっと自嘲の笑みを浮かべる。


「『護符』をもらった、数日あとよ・・・・・・・・・・」





レオリードがお礼をしたいと言い、リネアラがエリックとマリナを招いた。


そのときに、リネアラは『おまじない』と言っていた『護符』の本当の役割を知ったのだ。


「あの『護符』は、レオリード殿下へお贈りした『護符』と対となるもの。アランディール殿下の多すぎる魔力は、レオリード殿下へと流れる予定でした」


あのとき、エリックの言葉が理解できなくて


「なに・・・・・・・を?」


「言っているの?」と、言いたいのに言葉を発することができなくて


ただ静かに、エリックはお茶を啜る。


だんだんと言葉がリネアラのなかに染み込んで、愕然として


「どう・・・・・して・・・・・・」

「アランディール殿下に健やかにお育ち頂く為です」

「っ!だからと言って、レオリードも王族よ!?」


そんなこと許されるはずがないと、リネアラは怒りで全身を震わせるけれど、エリックは動じることはなかった。


「ええ。そしてアランディール殿下と魔力性質が似ておられた。だからこそ、おふたりの魔力を繋げることを思いついたのです」


このままでは、多すぎる魔力に身体が耐え切れず、いずれ儚くなると言われているアラン。


正当な王位継承者を育てるため


そのために『犠牲』が必要なら、同じ王族から


「レオリード殿下も「代わってやれたら」と仰っておられた」

「あれは!弟を想う兄の優しさでしょう!?」


レオリードの優しさに漬け込み、利用する。


そんなエリックを許せるはずもなく


「殿下は・・・・・シグルド殿下はご存じなの!?」

「シグルド殿下は「寝たきりなのが、レオリードであれば」と」

「そんな!」


ガタッと音を立てて、リネアラは椅子から立ち上がる。


茫然としたままエリックを見下ろすけれど、エリックは静かに視線を返すだけ


だからこそ、リネアラはエリックが言っていることは本当なのだと、すとんと心に落ちて


(殿下は、レオリードの父親なのに!?)


おなじシグルドの息子なのに、どうしてここまで扱いが違うの!?


リネアラのなかには信じられない思いが広がるけれど、その一方で、どこか納得もできて


(正妃さまの・・・・・・・・お産みになったアランディール殿下を)


側妃の子であるレオリードは犠牲にしても良いと、シグルドがそう言い、エリックが実行した。


優先されるべきは『正妃の子』


同じ父親でも、側妃であるリネアラの子であるレオリードの立場は下


たとえ、リネアラがこの国の貴族令嬢であっても、正妃が他国出身であっても、覆ることはない


そのことをまざまざと突きつけられて、リネアラのなかには絶望が広がる。


(わたくしは・・・・・・なんのために・・・・・・・)


リネアラの蒼白な顔に、ツーッと涙が静かに流れる。


ぺたり


リネアラの身体から力が抜けて、エリックが起した椅子にふらっと倒れるように座る。


茫然としたままテーブルを見つめるけれど、目には何も映っておらず、ただ悔しさと哀しさが心を支配して


「リネアラさま」


エリックはしばらく黙っていたが、リネアラの涙が乾いた頃合いを見計らって口を開く。


「当家へのレオリード殿下の婿入りですが」

「っ!」


(そうだわ・・・・・・・これから先、レオリードは)


レオリードがアランの代わりに『女神の祝福』を受けとり、寝たきりになることになったら、王族としての立場だけでなく、貴族としてもやっていけない


父親である王太子に見放された王子など、婿入りされてもマーシャル家にとっても邪魔なだけ


(レオリードの身を守るための、婚約が・・・・・・)


シグルドに疎まれると分かっていても、リネアラが結んだレオリードの婚約。


それが水の泡となると、リネアラは絶望になり


「公爵!レオリードは!」

「予定通り、今後何が起ころうとも、レオリード殿下には当家を継いでいただきます」

「え・・・・・・?」


てっきり婚約解消を申し入れられるのだと、リネアラは身体を強張らせたのだが


「レオリード殿下にアランディール殿下の魔力を繋げると、そう決めたからこそ、私はレオリード殿下の臣籍降下をシグルド殿下、そして国王陛下へ願いました。そのときより、私の心は変わっておりません。マーシャル家の次期当主はレオリード殿下。どうか、リネアラさまにはご安心していただきたく存じます」


きっぱりと言い切るエリックを、信じられない思いでリネアラは見つめ返す。


「このことは、国王陛下にもお話してあります。さすれば、レオリード殿下のお立場も、その身を守ることもできますでしょう」

「あ・・・・・・・・・」


リネアラが口には出さずとも、ずっと案じていたこと


(レオリードは、守られる)


シグルドを全面的に信用することは、嫁いだときよりリネアラにはできなかった。


アランが生まれたら尚更、ミリアリザの祖国との関係もより深まり、レオリードの立場は危うくなる。


ずっとそのことを危惧して、リネアラはできるだけの手を打った


(これからも・・・・・・・・)


リネアラの献身は、実を結んだのだ。


両手で顔を覆い、リネアラは泣き崩れる


「結果論とはなりますが、レオリード殿下のお身体に問題は見受けられません。どうか、お怒りをお沈めください」

「ええ・・・・・・・・わかったわ、マーシャル公」



そうして、リネアラはエリックのしたことを受け入れたのだ。


最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話は1月25日投稿予定です。

お楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ